2020年の暫定開業へ向け田町―品川間の新駅「高輪ゲートウェイ」の建設工事が進む(記者撮影)

JR東日本が首都圏でかつてない規模のプロジェクトに乗り出している。

昨年12月、山手線・京浜東北線の田町─品川間に建設中の新駅の名称が「高輪ゲートウェイ」に決まったと発表した。線路に囲まれた建設現場では2020年春の暫定開業に向け、工事が着々と進む。

山手線としては1971年の西日暮里駅の開業以来、約半世紀ぶりの新駅誕生となる。駅名候補を一般から募集して世間の注目を十分に集める中、いざ公表されたカタカナ交じりの名称に違和感を覚える人も多かったようだ。

駅名に込めた覚悟

しかし、この駅名には同社が手がける大規模プロジェクトへの覚悟が込められている。車両基地だった新駅周辺の広大な土地を開発し、2024年の「街開き」を目標に外国人の利用を想定した居住・宿泊施設などが入る4棟の超高層ビルを建設する。

同社は新駅を、羽田空港や新幹線、将来開業するリニア中央新幹線へのアクセスに優れた駅として、世界への玄関口とする構想を描く。高輪ゲートウェイの駅名からは「グローバルゲートウェイ品川」を標榜する周辺エリアの開発コンセプトに合わせて、イメージを高めようとするこだわりが伝わってくる。

現在進行中の大規模工事は新駅だけではない。首都圏各地の既存駅についても改良工事に矢継ぎ早に取り組んでいる。


都内各地で同時進行する駅改良プロジェクト。御茶ノ水駅でも工事が進む(記者撮影)

例えば御茶ノ水駅では手狭な立地での難工事の末に先ごろバリアフリー化され、今後さらに駅前広場の整備を進める計画だ。

横浜駅西口では、オフィスや衣料・雑貨店、シネマコンプレックスなどが入る地上26階・地下3階の複合商業ビル「JR横浜タワー」を建設中。2020年の東京五輪前の開業を目指す。

駅だけにとどまらず、東京・竹芝の水辺を開発する「ウォーターズ竹芝」も目玉施策の1つに位置づけている。

鉄道事業の将来に潜む「リスク」

JR東日本は4月25日、2019年度の設備投資計画を発表。総額は連結で7680億円と、前年度実績より1380億円も積み増した。内訳は、安全・安定輸送を向上させる「維持更新投資」が3610億円、「成長投資」が3380億円、イノベーション投資などの「重点枠」が690億円となっている。

駅舎の耐震補強やホームドアの整備といった安全対策の強化に加え、ターミナル駅の大規模再開発による街づくりを加速させる。

こうした積極的な投資には同社の経営環境の先行きへの危機感が表れている。昨年7月に策定したグループ経営ビジョン「変革2027」では、東京五輪開催の2020年以降について「固定費割合が大きい鉄道事業においては急激に利益が圧迫されるリスクが高い」との厳しい見通しを示した。

将来に影を落とすのが人口減少の問題だ。鉄道利用者が多い東京圏でも2025年以降は減少基調が続き、働き方の変化なども追い打ちをかけて鉄道による移動需要が縮小していく、と同社は予測する。

深澤祐二社長は経営ビジョンの説明会で「従来どおりのやり方ではなかなか成長ビジョンを描いていけない」と「変革」の2文字に込めた決意を述べた。

今後は、電子マネー「Suica」など、鉄道以外の事業を一段と強化する。2017年度時点で7対3だった運輸と非運輸の売上比率を10年後には6対4となるよう収益構造を変えていく方針だ。

“本業”も攻めの姿勢

同時に本業の鉄道でも「質的改革」を進める。伊豆方面へは「プレミアムグリーン車」を設けた新型観光特急「サフィール踊り子」を2020年春に運転開始する予定。定員164人の8両編成2本を新造し、東京・新宿―伊豆急下田間で運行する。​

横須賀・総武快速線へは山手線と同じ新型車両「E235系」を2020年度から投入する。


山手線の新型車両「E235系」。横須賀・総武快速線にも投入する(記者撮影)

中央線快速では5月下旬にトイレを備えた車両が営業運転を開始する。ただ車両基地の改修工事が必要なため、 使用できるようになるのは2019年度末以降となるという。さらに各駅のホームの延長工事に巨額の投資をしたうえで、2023年度末にグリーン車のサービス開始を目指す。

渋谷駅では埼京線ホームを北へ約350m移動させて山手線ホームと並べる工事が進む。ある大手私鉄の首脳は「JRは埼玉方面から渋谷へ、これまで以上に人を呼び込もうとしているのではないか」と推し量る。

さらに、都心部と羽田空港を結ぶ新路線「羽田空港アクセス線」構想も動き出した。

駅改良工事などの目的が乗客の利便性向上であることは間違いないが、将来の厳しい経営環境を見据えた収益力の強化という側面も見逃せない。自社路線の付加価値を高めて利用者を囲い込みたいJR東日本のしたたかな戦略が着々と進んでいる。