昨年12月27日に公開した記事、「『認知症の人をイジるのは、悪じゃない』レギュラーはいま、介護の現場で奮闘していた」。お笑いコンビ・レギュラーのお二人が、介護関連の資格を取ったり、介護施設をまわって漫才をしたりしている…など知られざる活動をお話ししてくれました。

インタビューのなかで驚いたのが、「介護施設を訪れるようになったきっかけは?」ときくと、「次長課長・河本さんが故郷・岡山の施設をまわっていて、それに付いていったことがきっかけ」と答えられたこと。

あの河本さんが頻繁にボランティア活動を行っている。しかも後輩芸人がそれに触発されて介護の世界に挑戦している。自分はまったく知りませんでした。

河本さんがボランティアを熱心に始めたのは、2012年の「生活保護不正受給騒動」から…。正直言って非常に踏み込みづらい話ですが、ぜひ話を聞いてみたい。そう思って、取材を申し込みました。

〈聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉


河本準一(こうもと・じゅんいち)】1975年生まれ。1994年にお笑いトリオ「次長課長社長」を結成。すぐにコンビとなり「次長課長」として活動。現在の出演番組に『じっくり聞いタロウ〜スター近況(秘)報告〜』(テレビ東京)など

2012年から7年間、月1回のペースで介護施設や児童養護施設を訪れている

天野:
レギュラーのお二人から「河本さんは地元・岡山でボランティアを続けている」と聞いて、驚きました…! 具体的にどんな活動をされてるんですか?

河本さん:
岡山の幼稚園、児童養護施設や介護施設に行って、交流というか、ふれあいをしてる感じですね。月1回か、2カ月に1回ぐらいのペースで。

内容は、行く施設によっていろいろですけど…幼稚園であれば子どもに紙芝居や絵本を読んだり、グラウンドで遊んだり


プロの芸人に紙芝居読んでもらえるのって贅沢だなあ

河本さん:
あとは、芸人たちに声をかけて、子どもが使わなくなったおもちゃを集めて、持っていってますね

介護施設ではかんたんなネタをやったり、あとは歌、音楽で交流することが多いです。

ボク、鼻笛(ノーズフルート。鼻息で演奏する楽器)という楽器をやってるんで、曲のリクエストをもらって演奏すると、喜んでもらえますよ。リクエストは美空ひばりさんや舟木一夫さんの曲が多いかな。知らなかったら「いや、その曲知らん! シブすぎる!」みたいにツッコんで笑いが起きたり(笑)。

この前はイントロクイズをやったんですけど、あれも盛り上がったなあ。


意外な特技です

天野:
すごいいろいろされてるんですね…

レギュラーのお二人以外には、どんな芸人さんが行ってるんですか?

河本さん:
NON STYLE井上、とろサーモン村田、天津木村、ソラシド水口…あたりですね。

ボクが交通費だけは出してますけど、彼らもよく来てくれると思いますよ。「年配の方にはこんなネタがウケるんや」という勉強になると思うから、いい機会だと思いますけど。

天野:
交通費も持ち出しで、ホントに完全ボランティアでされてるんですね。

え〜、これは大変ききづらいんですが、いつごろから何がきっかけで続けているんでしょうか?

河本さん:
2012年ですね。例の一件がきっかけです。


例の…やはりその話になりますよね…

「反論するより、自分が前進したい」

河本さん:
生活保護の一件で、世間の人からたくさんの指摘をもらった。誤解もありますが、自分の“甘さ”が露呈してしまったなと思ってます。


河本さんの親族による生活保護受給騒動とは

2012年4月、複数メディアの報道によって、「河本さんに十分な収入があるにもかかわらず、その母親が生活保護を不正に受給している」と批判が集まりました。

2012年5月に行われた「謝罪会見」によれば、河本さんの年収が100万円にも満たないときに、医師から働くことを止められた母親に対して生活保護給付が開始。以降は福祉事務所と話し合いのうえ申請額が決められており、2006年ごろには河本さんの収入が増加したと判断され、生活保護支給額は減額。2012年1月にも減額がなされていたとのこと。

J-CASTニュースによると、「会見に付き添った渡邉宙志弁護士らは、不正受給はないと強調したが、収入が増えたときに止めなかった道義的な責任があるとした」と説明されています。

※批判を受けた河本さんは、のちに給付された全額を返納したそうです(本人談)。

天野:
この一件、自分もなんとなく「不祥事」としてしか認識していなかったんですが…今回調べてみたら、思っていた内容とはだいぶ違ったようです。

そこで「反省」ということでボランティアを始められたのはなぜなんでしょうか?

河本さん:
とにかく、「ここから前進したい」というような気持ちがあったんですよね。

大前提として、もちろん自分の甘さを痛感して、反省してました。一方で、SNSでかなりの誹謗中傷をされたり、劇場に直接来られたり…

そういった声に対して、ひとつひとつ反論するという気持ちになれなかったんです。そこから前進するにはどうすればいいか?と思っていたときに思い浮かんだのが、母親のことを親身になって対応してくれてた福祉事務所の職員の人で。



河本さん:
報道を受けて「岡山どうなってるんだ!?」「岡山もグルだろ」という声がたくさん寄せられてしまった。岡山の自治体や職員の方はちっとも悪くないのに。

それで、地元に対して何かしなければと。自分があの状況で、“前進”できるとすればそれぐらいしかないんじゃないかと思ったんです。

自分が原因になって、まわりを傷つけてしまったわけですから。

天野:
なるほど…2012年からもう7年も続けてるわけですよね? 正直、「もっとオープンに言っていいんじゃないか」という気持ちになるんですが…

河本さん:
ボランティアの話をこれまで積極的に言ってこなかったのは、やっぱり「反論するんじゃなく、自分が前進するしかない」と考えていたから…というのが一番大きいですね。

いまだにいろいろ言われることはあるんですけど…結局芸能人というのは、「好き」という評価だけで生きていけるわけじゃなくて、「好き」が100あったら「嫌い」が100あるもんだと思ってるんで。



先輩芸人たちが「支え」としてスタジオでやってくれたこと

天野:
河本さんのことを慕っている後輩や、先輩芸人たちの支えがあったという記事を読みました。

当時、まわりの人たちからはどんな励ましがあったんでしょうか?

河本さん:
芸能界の方でいえば、300人、400人近い人から激励のメールをいただいて、ほんとに感謝してます。

だけど芸人の先輩方、MCをされてる方々の支えはとくに印象的でしたね。

明石家さんまさん、ダウンタウンさん、雨上がり決死隊さん、くりぃむしちゅーさん…。そんなMC陣が、どの番組の収録でも100%「生活保護」の話題についてイジってくるんですよ


えっ…

河本さん:
しかもやはりプロフェッショナルなので、100%スタジオは大爆笑。ウケるんですよ。

天野:
でもそれ、さすがに放送では…

河本さん:
当然放送ではカットされてるんですけど(笑)、いくらカットされても「笑っていい」という空気を頑なに作ってくれて、スタッフや観覧のお客さんにもそれを見せてくれる。

直接何かをされるより、必ずイジってくれるのがどれだけありがたかったか。

天野:
そうか…「扱いづらい」と思ってるスタッフに、ウケてるところを見せる意図もあったんですかね。



河本さん:
逆に、恩を返すというわけじゃないですけど、後輩たちがいわゆる“不祥事”を起こしてしまったようなときには、やっぱり声をかけてあげないとと思います。

井上(NON STYLE)もそうですし、堤下(インパルス)もそう…ひどい暴力的な言葉や、誹謗中傷を投げつけられるストレスに悩んでいるのを見ているとツライですね。

天野:
どんな言葉をかけるんでしょうか?

河本さん:
気持ちが落ち込むと、「自分は何を言われてるんだろう」と、なぜかさらにマイナスを見ようとして、SNSを見てしまうんですよ。

だから、「この(スマホの)なかがすべてじゃないから」と言うようにしてます。

天野:
SNSにとらわれすぎるなと。

河本さん:
「自分を叩いてない人だって、1億人以上いるはず。だったら、その人たちに面白いと思われるほうが早い」と。

「ネタ書いておもろいって思われたほうがいいよ」って話してます。


想像を絶するストレスを受けてきたであろう河本さん…語り口にリアリティがあります

気付いた“人の痛み”。ニュースを見ても、誰かを100%批判する気になれなくなった

天野:
そんな“普通の人にはできない経験”を経て、学んだことなどありますか?

河本さん:
これは言い方が難しいんですけど…

ニュースとかで事件が起きてるのを見ても、「100%批判する気持ちになれない」というのが、正直あります。



天野:
批判できない…とは?

河本さん:
たとえば、何か批判されるようなことを起こしてしまった人でも、「本当にそんなに悪いヤツなんだろうか?」という視点で見てしまうというか。

ボランティア絡みでいえば、介護をしていて事故が起きたり…というニュースがあるじゃないですか。それを見て、誰か一人を100%批判できないと思ってしまうんですよ。

凄惨な事件はもってのほかですけど、そうじゃない場合は、背景にいるはずのいろんな人のことを考えちゃいますね。



「ネイルサロン」「施設用のAmazon」介護現場を変えるアイデアと行動力

天野:
人の痛み」を想像してしまうと。ほかにも、以前と比べて変わったこととかってありますか?

河本さん:
やっぱり介護の現場に行ったりすると、見えてくることがいろいろあるんですよね。

たとえば、介護施設にいるおばあちゃんが、「美容院に行きたい」とか「ネイルをしたい」って言うことが結構あるんですって。

天野:
オシャレを楽しみたい気持ちが、認知症の進行を予防するというような話、聞いたことありますね。

河本さん:
でも、1人1人をネイルサロンに連れていくとなったら大変みたいで。

だから、美容師さんやネイリストさんが施設を定期的に訪れるようにしたらいいんじゃないか?とか考えて、今、介護施設と美容院やネイルサロンをつなげる活動をしてるんです。



河本さん:
あとは、入居者の方に「アレ買ってきて」ってお使いを頼まれて、職員の方が忙殺されてしまうっていう話も聞いて。

だったら、介護施設向けに商品を用意しておいて、テレビ画面から注文したら夕方ぐらいにすぐ届けられるようなシステムをつくれないかと。施設用のAmazonというか。

若い企業の人たちと話して、いまつくってるところなんです

天野:
めっちゃいい活動だし行動力がスゴイ

R25世代の読者に向けて、ボランティアについて伝えたいことなどはありますか?

河本さん:
う〜ん、ムリしてやるのはボランティアじゃないってことですかね。

自分の時間やお金をムリに削っていると続きませんし、まわりに迷惑がかかるかもしれない。ボクらも、舞台や収録を調整して、時間を確保したうえで行っているので。

もし若い人でボランティアに興味があるという人がいたら、自分の余裕が確保できてるという前提で、ぜひチャレンジしてほしいと思ってます。



天野:
しかし、河本さんがそこまでボランティアに関心が深かったとは…多くの人が知らなかったんじゃないでしょうか。

河本さん:
たまには週刊誌も、そういうところ撮ってくれよと思いますけどね、お姉ちゃんといるところばっかじゃなくて(笑)。

声変えて電話して、自分でリークしようかな(笑)


いい話だったのに…!

河本さんに最近の活動についてきくと、「今、手話を勉強してるんです。デフリンピックっていう聴覚障害者のスポーツ大会があって…」。この人の「ボランティア」への気持ちはホンモノのようです。

自分が何かを「反省」しなければならないとき、どういう行動を取るべきか…? 「反論より前進」という河本さんのお話は、示唆に富んでいると思います。

一方で、誰にでも、気に入らない人はいるはず。怒りを覚えるニュースもあるはず。

その怒りを誰かにぶつける前に、相手の感じる「痛み」について少しだけ思いを馳せることができないものか。

ネットスラングじゃよく「優しい世界」なんて言いますが…取材を通じてそんなことを考えました。

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美(@hiromi_ike)〉

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