大学生との一戦でも中盤で存在感を示した天笠。さすがのプレーで周囲を唸らせ、違いを作り出した。写真:安藤隆人

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「ゼロックススーパーカップ」の前座試合として行なわれる「ネクストジェネレーションマッチ」。2日後にU-18Jリーグ選抜との一戦を控えた日本高校サッカー選抜が、2月14日に埼玉スタジアム第3グラウンドで専修大との25分×4本の練習試合を行なった。

 1本目が0-0、2本目は0-1。そして3本目は0-1で4本目を0-0。トータルでは0-2で敗れたものの、チームを率いる朝岡隆蔵監督(市立船橋)は「まだまだの出来ですが、しっかりと判断があるプレーをしているので、練習を重ねれば問題ないと感じた。そこまでストレスを感じる試合ではなかった」と手応えを明かした。
 
 そのなかで大きな存在感を放っていた選手がいる。青森山田の選手権優勝において『陰の立役者』と呼ばれたMF天笠泰輝(3年)だ。「(青森山田と市立船橋は)プレミアリーグでも戦っているし、選手権を見ても、青森山田の中でも一番良い選手だと思っていた。彼が居るから青森山田が強かった。それくらい信頼しています」と朝岡監督から賛辞を贈られた天笠は、1本目に4-3-3の3ボランチの一角として先発出場を果たした。
 
「岡井(駿典/3年)と(2年生の鈴木)唯人はふたりとも市船なので、朝岡監督のサッカーを良く理解している。なので、試合中に彼らのプレーを見て、守り方などを勉強しました」

 こう語ったように最初はアンカーのポジションを任されていたのだが、すぐに右のボランチの岡井に「守備の仕方を教えてほしいからポジションを代わってくれ」と打診する。

 慣れないポジションで不安もあった。それでも味方の動きを見つつ、「朝岡監督から『いつでも前にボールを付けられるように狙っておけ』と言われていたので、相手の守備の形や狙いも見ていた」と、持ち前の広い視野と冷静な分析力を発揮。ボールの収まりどころとして機能するだけなく、岡井と鈴木との距離感を図りながら攻守のバランスを保ち続けた。
 メンバーが大幅に入れ替わった2本目でも右ボランチを務めた天笠は、8分には圧巻のプレーを見せる。CBのフォファナ・マリック(3年/尚志)から縦パスが入ると、「相手の左サイドハーフとボランチが僕に寄せてくるのが分かったので、ワントラップして一度食いつかせてからターンをすれば、交わせると思った」と瞬時に状況を判断。狙い通りのファーストタッチから鮮やかなターンでふたりのプレスを交わしてフリーになると、前線で動き出した3人の選手が視界に入った。
 
「染野(唯月/尚志・2年)、(佐々木/青森山田・3年)銀士、ヒデ(武田英寿/青森山田・2年)がいたのですが、相手のCB2枚は染野とヒデに警戒していて、真ん中の銀士には意識がいっていなかった。なので、(手前にいる)染野を飛ばして銀士に長いパスを通そうと思った」と、佐々木に糸を引くようなスルーパスを通した。完全に抜け出した佐々木の突破は、相手GKの絶妙な飛び出しの前に阻止されてしまったが、この試合で最大のチャンスを演出してみせた。
 
 だが、その直後の10分に縦パスを出した後に、相手のタックルが入って左ふくらはぎを打撲。13分に交代を余儀なくされたのは残念だったが、試合後に天笠は「足は大丈夫です。(U-18)Jリーグ選抜戦には出られると思います」と前向きな言葉を発すると、続けてこのチームでのやりがいをこう語った。
 
「朝岡監督のサッカーはボールを繋ぎながらも、縦に早いサッカーなので、ボランチの関わりは本当に重要になってきます。そのボランチを任されていますし、自分がもっと関わってゲームを作ってほしいと言われているので、そこは応えたいと思っています」
 
 芽生えてきたチームの中心としての自覚。大きな存在感を放つ中盤の司令塔に対し、朝岡監督は試合後に「天笠への信頼は揺らぐことはないですね」とはっきりと口にした。高校選抜でも代えの利かないキーマン・天笠は、「ネクストジェネレーションマッチ」でもその期待に応えるプレーを見せてくれるはずだ。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)