異例づくしの「カードケータイ」、ドコモ・京セラの開発者に裏話を聞く
NTTドコモが2018年11月22日に発売した「カードケータイ KY-01L」。VoLTE対応ケータイとして「世界最薄・最軽量」を実現したというこの端末は、"異例づくし"な携帯電話です。

「カードケータイ」を企画したNTTドコモと、製造に携わった京セラの担当者にインタビューしました。

「カード型」へのこだわり


「カードケータイ」はその名の通り名刺(カード)ほどの大きさの携帯電話。スマホと同じタッチパネル操作ですが、ディスプレイはモノクロの電子ペーパーを装備。一見してこれで通話できるとは思えない、不思議なたたずまいのデバイスです。

カードケータイという製品を世に送り出すプロジェクトがスタートしたのは、2016年末。発売までに約2年という期間がかかっています。そのうち1年は、NTTドコモ社内でのプロトタイプ開発に費やされましたといいます。

2016年はケータイ(フィーチャーフォン)からスマートフォンへの移行が進んでいた時期。この時期より2018年末現在にいたるまで、スマートフォンは年々大型化・大画面化するトレンドが続いています。一方で、当時のNTTドコモの社内には「小さく、軽く、持ち運びやすい携帯がほしい」という要望が届いていました。

ライバルのauは同時期に京セラ製のLTEケータイ「INFOBAR xv」を発売。昔ヒットしたケータイを現代向けに復刻するアプローチを取りましたが、ドコモが目指したのは、まったく新しい携帯電話のかたちでした。

「小さく軽いというコンセプトを満たすアイデアを練ったところ、『カード型』に行き着いた」と語るのはNTTドコモ プロダクト部の村上智彦氏。通話しやすく、持ち運びやすい携帯電話を目指し、試作を繰り返した末に、カードサイズというコンセプトが固まったといいます。

▲村上智彦氏(NTTドコモ プロダクト部 プロダクト企画担当)

村上氏のチームでは、約1年かけてカードケータイの試作を重ね、カードサイズに収めた試作機を開発。その時点で、厚さ5mm前後で重さ50g以下を実現。使い勝手やVoLTEでの通話音質も確保ある程度確保した完成度の高い試作機となっていたといいます。

ただし、試作品が商用製品になるまでには、量産という、もう一段階高いハードルを乗り越える必要があります。

そこでドコモでは、カードケータイの試作品を携帯電話メーカー各社に披露し、製品化に進めてくれるメーカーを募りました。そこで手を挙げたのが、京セラでした。

NTTドコモ京セラ製の端末が発売されるのは、1998年発売の「DataScope for DoCoMo」以来、実に20年ぶりのことです。


▲左が京セラが20年前に手がけた「DataScope」。ドコモ向けモデルでは2G(mova)に対応しています

その京セラで企画を担当した飯尾太郎氏は、「スマートフォンの機能が横並びになっている状況で、非常にチャレンジングな端末だと思った」と、カードケータイの試作機を見た印象をふり返ります。

そして、「企画書を読んで機能が絞りこんでいるところもわかった。通話専用の小型端末というものの需要が一定数あるのは認識していたが、この製品を世に出して、実際にどの程度の需要を発掘できるのかという点で興味もわいた」と語りました。


▲飯尾太郎氏(京セラ 通信機器事業本部 通信技術部 プロダクト2部 第3技術課)

京セラはauで発売された4G LTE対応のフィーチャーフォンのほとんどを手がけ、最近ではデザインケータイの「INFOBAR xv」も製造しています。また、タフネススマホの「TORQUE」を展開するなど、携帯電話メーカーとしての実績は十分あるメーカーです。

一方で、ドコモの標準仕様に対応したAndroidスマートフォンを開発した経験がないため、最初からフル機能のドコモ向けAndroidスマートフォンを投入するのは難しかったといいます。京セラにとっては、カードケータイの開発を通して、NTTドコモ向けの製品開発の経験を積みたい、という思惑もありました。

通話品質への自信


カードケータイは、高音質なLTEによる通話機能「VoLTE」もサポートします。2018年発売のスマートフォンでは標準的な機能ですが、SIMフリー製品を含めた「小型ケータイ」全般を見渡すと、VoLTEに対応した製品は少数派と言えます。



ドコモの村上氏は、カードケータイはVoLTE対応を前提で開発を進めたと紹介。「通話機能しかない中で、それを磨ききるのは価値がある。小さくしたことで、通話品質が落ちては意味はない」と携帯電話キャリアとしての品質へのこだわりを語ります。

小型端末ならではの悩みが、人間の手による電波干渉。カードケータイで通話するときは、手に包み込むように持つことになりますが、この時のアンテナ性能の確保には苦慮したといいます。量産を担当した京セラが、アンテナの構成や内部の配置を検証し、手に包み込んで持った場合でも途切れづらいように工夫したといいます。

バッテリーと大きさのせめぎ合い


カードサイズを維持しつつ、使い勝手を確保するためにもっとも困難だったのは電池の持ち時間の担保だったといいます。

村上氏は「長時間のバッテリー容量を確保しようとすると、筐体はどうしても大きくなってしまう。『バッテリーと大きさのせめぎ合い』だった」とふり返ります。

結果として、カードケータイでは380mAhというスマホの10分の1ほどのバッテリー容量ながら、VoLTEで2時間弱(110分)という通話時間を確保しています。そのためには、かなり大胆な機能の切り捨てが必要でした。


▲カードケータイで使われている容量380mAhのバッテリー

電子ペーパーならではの使い方


カードケータイの最大の特徴となっているのが、ディスプレイに消費電力が少ない電子ペーパーを採用したこと。

試作段階では、液晶や有機ELディスプレイをも検討したといいますが「カードサイズと言える厚みと電池持ちを両立するには、液晶や有機ELディスプレイでは不十分だった」(村上氏)。最後に選ばれたのが、電子ペーパーだったというわけです。



モノクロ表示の電子ペーパーは、低消費電力で目に優しいという特性から、電子書籍端末で多く採用されています。一方で、書き換えに時間がかかるため、動画などの表示には適していません。このため、カードケータイでは動画は再生できない仕様となっています。

このほか、チップセットはウェアラブルデバイス向けの「Snapdragon Wear 2100」を採用するなど、消費電力を抑えるためにさまざまな工夫が施されています。

見かけのインパクトを追求


電子ペーパーによって、モノクロ表示という特徴を得たカードケータイ。その魅力を引きたてるのが「Ink Black」というボディカラーです。

グレー1色のシンプルな仕上げですが、電子ペーパーとボディの境目が目立たないように仕上げ、「完璧に黒い板から画面が浮かび上がる見た目を目指した」(ドコモ村上氏)といいます。電子ペーパーが完全な黒にならないことから、目指したデザインが完璧に実現できたわけではないとしていますが、他のケータイとはどこか違う異質さは十分に感じられます。



そして、京セラがこだわったのは、デザイン性と強度の確保です。前面と背面に樹脂の中にガラス繊維を混ぜ込み、磨き上げることで、強度を確保しつつ、なめらか手触りに。樹脂で加工し、角張った形状で『カード』を表現しました。

ブザー音で「ポケベル」オマージュ

音響では、厚みの制約から、通話用以外の内蔵スピーカーは搭載できなかったといいます。

そのため、カードケータイでは、着信音用に「ブザー」を搭載しています。京セラでも数年ぶりに採用したというブザーが奏でるのは、かつてのポケベルを彷彿とさせる音色。そこで、プリセットの着信音では、ポケベルをオマージュした曲が収録されています。


▲「カード型」と言うためには、厚み抑える必要がありました。カードケータイでは約5mmという薄さに仕上げています

決済、ワンナンバー......今後の機能追加は?


通話機能にフォーカスした「カードケータイ」ですが、売れ行き次第では第2弾、第3弾のモデルの発売もあり得るとしています。

カードケータイの発表時には、SNS上で「おサイフケータイ機能がほしい」「ワンナンバー(スマホと同じ電話番号を使う機能)に対応してほしい」といった要望もありました。

この点についてNTTドコモの只松明洋氏は「カードケータイを投入したことで、『小型の通話携帯がほしい』という市場ニーズがあることを改めて確認できた」と述べた上で、ユーザーの反響を製品開発に生かしていきたいと語ります。

一方で「あれもこれもと追加していくと、またスマートフォンに戻ってしまうのではないかという懸念がある」と、「通話」という軸をぶらさずに機能を追加していく方針を説明しました。


▲只松明洋氏(NTTドコモ プロダクト部 第一商品企画担当主査)

活用法をきいてみた


最後に、カードケータイをどのように活用してもらいたいのか、企画開発に携わった方に聞いてみました。NTTドコモの村上氏は、「この大きさなので、身に着けるようにして使ってもらいたい」と、普段使っているカードケースや名刺入れに入れる使い方を提案。「一見、携帯電話だと思えない見かけなので、みんなに見せびらかしてほしい」と話します。

NTTドコモ プロダクト企画部の只松明洋氏は「スマートフォンは多機能なだけに、どこでもメールやメッセンジャーで仕事ができてしまう。休日はふだんのスマホを家におき、カードケータイだけを持ってでかける。そうした"リフレッシュタイム"の携帯として使ってほしい」と話します。

京セラの中園氏は、「カードケータイの待受画像に"名刺"を表示する」という使い方を披露してくれました。電子ペーパーの「静止画の表示には電力を消費しない」という特徴を生かした、カードケータイならではの使い方と言えそうです。



▲中園博喜氏(京セラ 横浜事業所 通信機器事業本部 通信事業戦略部 マーケティング部 商品企画課)

また、中園氏は「スマホになってから通話を使わなくなってたが、カードケータイを持つと、お店の予約などで自然と電話をする機会が増える」と話し、相手に要件を手っ取り早く仕えられる、通話の良さを再発見したと紹介しました。

ドコモと京セラのこだわりがつまった「カードケータイ KY-1L」は、NTTドコモにて発売中。ドコモオンラインショップでの販売価格は、3万1752円。月々サポートによる割引を含めた実質負担額は1万368円となっています(いずれも税込)。
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