開業から1年3カ月で料金を見直したレゴランド・ジャパン(筆者撮影)

JR名古屋駅から名古屋臨海高速鉄道あおなみ線に乗り換えて約25分。「金城ふ頭」駅を降りて、すぐ目に入るのが「レゴランド・ジャパン」だ。世界的に有名なレゴブロックの屋外型テーマパークである。名古屋の中心部からは20km以上離れているものの、伊勢湾岸自動車道「名港中央IC」からも近く、車でも比較的アクセスしやすい場所にある。

レゴランド・ジャパンは7つのエリアから成り、1700万個のレゴブロックと1万のレゴモデルを使い、40を超えるアトラクションやショー、シアター、飲食施設、ショップなどを展開する。メインターゲットは2歳から12歳、つまり小学生までの子どもとその家族だ。1968年からの歴史を持つ本国デンマークのほか、アメリカ、イギリス、ドイツ、マレーシア、アラブ首長国連邦(UAE)など世界7カ国8カ所目の拠点として、昨年4月に日本へ初上陸した。

そのオープンから1年3カ月、早くも転機を迎えている。

7月18日、レゴランド・ジャパンを運営するLEGOLAND Japanは、1日券である「1DAYパスポート」の価格を一部見直したと発表した。ゴールデンウイークや夏休み、年末年始などの繁忙期を「ピーク」、それ以外の営業日を「オフピーク」として、それぞれ子ども、大人の料金を新設定した。

メリハリをつけたが、実質的には値下げ

新料金は以下のとおりだ。

【1dayパスポート】
(従来)こども 5300円 →(新価格)ピーク4500円/オフピーク3700円
(従来)大人 6900円 → (新価格)ピーク6900円/オフピーク5000円

従来は年間を通して一律の価格だったため、メリハリをつけたが実質的には入場料を値下げした格好となる。

「もう少し気軽にレゴランドに行きたいというお声をいただいておりました。単純な値下げではなく、お客様のニーズやライフスタイルに合わせて価格を改定しました」。東洋経済オンライン編集部の取材に対して、LEGOLAND Japan広報はこう説明した。

ただ、好調なテーマパークは料金を値下げするよりも、むしろ値上げしているのが近年のトレンドだ。

東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを擁する、国内テーマパーク最大手の東京ディズニーリゾート(TDR)は、1983年のオープン以来2016年までに値上げを繰り返した。開業当初は大人の1日券であるワンデーパスポートが3900円だったのに対し、現在は7400円。2倍近くになっているにもかかわらず、今も年間来場者数は約3000万人と高水準を維持している。

国内テーマパーク2位の、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は、2001年のオープン時に1日券の「スタジオ・パス」が5500円だったが、現在は7900円まで上がっている。強気な価格設定ながら、それでも近年の来場者数は右肩上がりにあり、年間1400万人を超える。

レゴランド・ジャパンは開業当初から、来場者を思うように集めてこられなかったように見受けられる。開業から半年弱の昨年9月18日に、「来場者数100万人を突破した」と発表したものの、そのプレスリリースに記載されていた「年間来場者数目標200万人」を達成した、という公式なアナウンスは現在までなされていない。

東洋経済オンライン編集部の取材に対し、LEGOLAND Japanはこの点に「株主総会での取り決めにより、数字に関しては公表しておりませんし今後も公表する予定はございません」(広報)と回答した。

初年度目標は達成できなかった可能性もある。オープン当初で最も話題性が高く、集客も多かったであろう最初の半年弱で100万人を突破するのがやっとだったのかも知れない。今回の値下げが、テコ入れに迫られた上での経営判断だったということは、否定できない。

料金改定前はよく晴れた日曜日でも空いていた

一般ユーザーレベルでも、その予感はあった。

筆者は値下げが明らかになる約1カ月前の今年6月24日(日)に、レゴランド・ジャパンを訪れた。よく晴れた日曜日にもかかわらず、園内は全体的に空いている印象を受けた。一つ一つのアトラクションのサイズが小さく、すぐに全体像が把握できる程度の広さだった。

筆者は優先搭乗チケットの「ファストパス」を購入したものの、ジェットコースターのような人気のアトラクションでさえ、最大10〜15分程度しか並ばずに済んだ。午前11時から午後4時ぐらいまでの時間で、ほぼ主要なアトラクションを制覇し、園内もほぼ周り尽くせた。だからこそ、「これは集客に苦戦しているのではないか」と同行者や知人と話したぐらいだ。

FacebookやTwitterなどでレゴランド・ジャパンに来場した人のコメントを見ると、「規模の割に料金が高すぎます」「開業1年とは思えない人の少なさでした。そのため、ほとんど待ちなしでアトラクションは利用できました」との意見が目立つ。

今回の「値下げ」だけで、レゴランド・ジャパンの状況が好転するかというと微妙だ。最大の要因は「大人」を惹きつける魅力の薄さにある。理由は主に3つだ。

営業時間の短さと園内の狭さに伴う割高感

まず、値下げしても残る大人料金の割高感だ。たとえば従来と同じピークの大人1日料金6900円はTDRと500円しか差がないが、これを「営業時間」で割ってみよう。

レゴランド・ジャパンの今年7月の営業時間は午前10時から午後6時までの8時間。そもそも営業時間が短いのだが、開園から閉園まで目いっぱい遊んだとして1時間当たりの料金は約860円。一方、TDRは朝8時から夜10時まで開いているので営業時間は14時間で、1時間当たりの料金は約530円となる。レゴランド・ジャパンの新料金であるオフピークの大人1日料金5000円で、同じく計算してみると、1時間当たりは約630円となる。それでもTDRよりも、お得感が薄い。

単純な敷地の広さを比べてみると、レゴランド・ジャパンの園内約9万平方メートル(ホテルエリア除く)に対し、TDRは同51万平方メートルとその5倍以上ある。営業時間の短さ、そして敷地の手狭さ。この2つが割高感の根拠となっているようだ。

キャラクターのなじみの薄さとストーリー性の乏しさ

2つ目はコンテンツそのものの魅力や知名度、世界観等、ブランド力の弱さだ。TDR、USJと比べるとレゴランド・ジャパンはキャラクターになじみが薄く、ストーリー性も乏しい。

いくつかの観点があるが、映画を使ったマーケティングは小さくないポイントに見える。

「トイ・ストーリー」「アナと雪の女王」「ファインディング・ニモ」「アラジン」「パイレーツ・オブ・カリビアン」――。TDRには、パッと思いつくだけでも映画のキャラクターやその世界観を反映したアトラクションが多数並ぶ。

当初はハリウッド映画路線がウケず、日本のアニメの施設を導入する「脱・映画化」が奏功したUSJも、2014年にオープンした「ハリー・ポッター」エリアがヒット。近年は「怪盗グルー」シリーズに登場する、愛くるしいキャラクター「ミニオン」が子どもだけでなく、大人にも親しまれている。


園内の面積を考えるとお得感が小さい(筆者撮影)

TDRやUSJの集客に、映画のヒットは少なからず影響しているに違いない。というのも、日本映画製作者連盟が毎年まとめている洋画興行収入ランキングでは、上位にディズニー作品やユニバーサル・スタジオ作品が毎年、チラホラ入る。これは多くの大人が目にすることになり、知名度やブランド力を上げているだろう。

ひるがえってレゴも近年は映画コンテンツに力を入れているというが、同ランキングに入るような映画は見かけない。

実は、そもそもレゴブロックに親しみの薄い大人は少なくない。近年でこそ一般化してきたが、たとえば40代以上の男性に聞くと、「TVCMでは見かけたけど、あれは裕福なお家の子の遊びだと思っていた」「レゴランドをきっかけに、初めてレゴブロックを知った」などという話を聞く。

「自分たちの時代はダイヤブロックで遊んだもんだ。レゴなんて知らなかったね。音楽もキャラクターも知らない」。レゴランド・ジャパンを訪れた際に利用した初老のタクシー運転手はこんな話をしてくれた。親世代以上、孫のいるような人たちにもなじみが薄いのだ。

美術館や博物館のようで五感に訴える施策が弱い

3つ目は、五感に訴える施策が弱い点である。

ディズニーランド、USJは、実はかなり五感に訴えるための施策がある。音楽やキャラクターの声、参加型のショー・パレードやキャラクターとの交流、名物アトラクション、エリアごとのコンセプトの差異、味覚(USJ限定のバタービール、ディズニーランドのチキンや限定のポップコーン等)だ。

対して、筆者はレゴランド・ジャパンに対し、美術館や博物館に近い感覚を持った。園内には東京タワーや白鷺城、街などをレゴブロックでつくったものなどが展示されている。これは参加型ではなく、見るだけで楽しむエリアだ。ここの面積がかなり広いので遊園地っぽさが薄い。子ども向けの「江戸東京博物館」というところだろうか。「体験」の要素が少し弱いのだ。

レゴランド・ジャパンは「小学生までの子どもと親をターゲットにしている」といえばそれまでかもしれないが、財布の紐を握るのは大人である親だ。TDRやUSJを見れば子どもはもちろん、大人でも楽しめるからこそ、リピーターが根強く、大人や学生同士のグループで訪れ、口コミで新規客も広がっていっている。レゴランド・ジャパンは値下げに加えて、大人を惹きつける魅力をつくっていく必要がありそうだ。