広島・鈴木誠也【写真:荒川祐史】

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右足首骨折から復活、オープン戦は打率.344と絶好調

 足首骨折という大怪我からの復帰を目指す広島東洋カープ鈴木誠也外野手。想像だにしなかったアクシデントで、昨季は終盤から戦線離脱を余儀なくされたが、今春のオープン戦では早くも復活の狼煙を上げている。打率.344、3本塁打、6打点という圧巻のパフォーマンスで、30日に迎える中日との開幕戦に向け、万全に仕上げた。不運な故障の影響を微塵も感じさせない“神っている男”の凄さはどこにあるのか――。

 昨年8月22日、敵地でのDeNA戦でアクシデントに見舞われた。2回2死の場面、右中間に飛んできた大きな打球にジャンピングキャッチを試みたが、着地時に右足首を負傷。担架に乗せられ、退場を余儀なくされた。

 診断結果は右脛骨内果の剥離骨折。骨の接合手術とともにじん帯も修復し、鈴木の2017年シーズンは終わった。だが、離脱までの115試合で残した、打率.300、26本塁打、90打点という圧巻の活躍が認められ、2年連続でベストナインとゴールデングラブ賞に輝いた。

 大怪我を乗り越え、今季は開幕からの完全復活を期する23歳は、オープン戦で結果を残し、順調な回復をアピール。スピードとパワーを兼ね備え、その勝負強いバッティングから、緒方孝市監督に「神ってる」と呼ばれた鈴木の凄さの根源はどこにあるのだろうか。

「新井(貴浩)選手など一流どころはそうなんですけど、鈴木選手は自分の肉体の限界値というのを分かっているように思います。しかも、その限界値がとても高い。心や身体にそれなりの負荷をかけることができれば、自分の限界値が少しずつ上がる。それができる選手なので、あそこまでたどり着いたのではないでしょうか。どんな世界でも同じだと思いますが、それができない選手は消えていってしまいますが、基本的にプロのトップレベルにいる選手は、自分の限界値を越えることができる人たちだと思います。鈴木選手はその一人ですね。心も身体も強い選手です」

 こう証言したのは、広島東洋カープの石井雅也トレーナー部長だ。広島を支える41歳の大ベテラン・新井貴浩内野手と同様に、フィジカルエリートが肩を並べるプロ野球界でも、圧倒的に高い心身両面の強度が存在するという。

石井トレーナー部長も認めるポテンシャル「心も身体も強い」

「体の強さに関しては、パワー、耐久力、どちらも高いです。スポーツの世界では、正しい練習をした場合の練習量はウソをつかない。正しい練習をより多くした選手が絶対に勝ちます。彼は凄まじい量の練習をこなせるフィジカルの持ち主です。キャンプでは、その正しい動作ができる体を作るためのアスレチックリハビリテーションも行いましたが、本来彼が持っているポテンシャルはすごく高いので、たくさん練習できるんではないでしょうか」

 日本プロ野球トレーナー協会会長も務める石井氏は、鈴木が持つポテンシャルを高く評価した。広島では、怪我からの復帰に向けたリハビリの過程を4段階に分けている。その3つ目に、アスレチックリハビリテーションというステージを設定し、筋力と筋持久力の回復した後で実戦的なスキルのトレーニングを進めていく。戦列復帰後に故障の再発のリスクを軽減する効果を狙うアスレチックリハビリテーションでも、フィジカルの強い鈴木は圧倒的な練習量を積んだという。

 故障からの復帰を目指すプロセスは慎重に慎重を重ねるものだという。どんな実力者でも、一足飛びに復帰にたどり着く人はいない。

「難しい話になりますが、下半身の故障だから、動かせる上半身だけ鍛えておけばいい、ということはありません。それをしてしまうと、体の連鎖が崩れてしまうリスクが伴います。ウエイトトレーニングで鍛えられる部分は鍛えますが、その過程であまり無理な実技練習を入れないのがセオリーになります。この段階でキャッチボールをさせたりすると、フォームの崩れにつながるリスクがあります」

 動かせない箇所がある中で、無理な送球や打撃などの練習を始めれば、体の連動バランスが崩れてしまうこともあるという。バランスを考えながらトレーニングを積んだ先に、スキルに関するトレーニングがやってくる。

 カープのトレーナー陣の指導の下に「ウエイトトレーニングや肩の動かし方など基本的なトレーニング」をこなし、復活の道を歩んできた鈴木。“神っている男”の復調を実現したのは、類稀なるフィジカル面の強靭さに加え、優秀なトレーナー部門の尽力によるものと言えるかもしれない。(Full-Count編集部)