"心配ないさ"が心配性に逆効果となるワケ
※本稿は、雑誌「プレジデント」(2016年10月3日号)の特集「毎日が楽しくなる脳内革命」を再編集したものです。
■気にしないようにするのは逆効果
「日本人には、細かいことを気にするタイプが多いんです」と言うのは心理学者の諸富先生だ。病的なまでに細かいことを気にしすぎて、日常生活が送れなくなった人の治療法として、日本人の精神医学者・森田正馬が考案したのが「森田療法」である。これは簡単に言うと、細かいことを気にしすぎる人に向かって、「気にするな」と言うのではなく、気にしていることを認め、それでも日常生活でやるべきことを淡々とやらせるという治療法だ。
たとえば神経質が高じて、体を洗う手順にこだわるあまり、入浴に2時間かかる人がいるとする。そのような場合は強制的に決められた時間内で風呂から上がらせる。
そして残りの時間でほかのことをさせるのだ。もちろん本人は苦しいが、苦しみながらもすべきことをしていくうちに、徐々に直っていくという。つまり細かいことが気になるなら、気にしないようにするのは逆効果。気にしつつも、やるべきことができていればよしとすべきなのだ。
また、細かいことを気に病んでしまう性格は自分で直すことができるという。
「細かいことにいつまでもこだわる人は、理にかなわない歪んだ思い込み(イラショナル・ビリーフ)を持っている。これを正しい考え方(ラショナル・ビリーフ)にするには、自分で自分を洗脳することです」(諸富先生)
■「俺ってなんていい人間なんだろう」
それには次のように考えるといい。人間を不幸にする考え方には、大きく分けて2つある。それは「誰かに嫌われたら生きていけない(失愛恐怖)」と「失敗したらおしまいだ(失敗恐怖)」。この2つは歪んだ思い込みにすぎず、本当は次のような言い方が正しい。
「人に嫌われないに越したことはないけれど、嫌われたって生きていける」
「失敗しないに越したことはないが、失敗したらやり直せばいい」
さらにこれを、「嫌われたってやっていける」「失敗したってやり直せる」などと自分にぴったりくるフレーズに言い換え、毎日50回大きな声で唱える。
「50回の復唱が済んだらビールを飲んでいいというように、1日で最も楽しみなことをご褒美にすると、続けることができますよ」(諸富先生)
いっぽう医学博士の加藤先生は、「細かいことが気になるのは、意識が内向きになっているからです」と言う。すでに説明したように、現代人は脳の使い方が偏っている。そのためものの見方が自己中心的になり、「他人からよく思われたい」という意識で頭がいっぱいになっているのだ。つまり誰しも潜在的にほめられたいと願っているのだが、それが叶えられない状態にある。
「他人はそう簡単にほめてくれません。それなら自分で自分をほめるしかない。今の時代、自分で自分をほめる能力がなければストレスに負けてしまいます」(加藤先生)
具体的には、「ほめノート」をつくり、1日1回、自分のいいところを見つけて書き込んでいくといい。
「言葉でなく、行為でほめる方法もあります。それは人が見ていないところで善行をすること」(加藤先生)
空き缶が転がっていたら拾い上げてゴミ箱に入れる。自分の机を拭くついでに嫌いな上司の机も拭く。これを「陰徳を積む」と言う。
「陰徳を積むと、『俺ってなんていい人間なんだろう』と自信がつくでしょう。つまりそれが自分で自分をほめるということなんです」(加藤先生)
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医学博士。加藤プラチナクリニック院長。「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。1万人以上のMRI脳画像とともにその人の生き方を分析する。
諸富祥彦
心理学者。明治大学文学部教授。臨床心理士。千葉大学教育学部講師、助教授を経て現職。中高年を中心に仕事、子育て、家庭関係などの悩みに耳を傾けている。
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(ライター&エディター 長山 清子)