劇場には『ラヴレター』のポスター(左から2枚目)が貼られていた(筆者撮影)

「お元気ですか? 私は元気です」

1990年代後半から2000年代初め、韓国の人に会うと、こんな挨拶をよくされた。初めて言われた時は何を言っているのか面食らったが、映画『Love Letter』(ラヴレター)の有名な台詞だった。

その『ラヴレター』が2017年12月13日から1週間、韓国で再上映された。1999年に韓国で初めて上映された後、2013年と2016年にも再上映され、今回は3度目の上映。その人気ぶりがうかがえる。

『ラヴレター』は日本では1995年に上映された女優・中山美穂さん主演の映画で、死んでしまった恋人宛てに出した手紙がいつしか返事が返ってくるようになり‥という切ないラブ・ストーリーだ。

今回の再上映は、配給会社CGVが「冬になると思い出す恋愛映画」というコンセプトで歴代人気の外国映画から選んだもので、他には、『ラブ・アクチュアリー』(英国)と『ゴースト/ニューヨークの幻』(米国)が上映された。

『ラヴレター』を見て、「切ない」の意味を知った

久しぶりに映画館に足を運んだと話す30代後半の女性は、大学生の時に『ラヴレター』を見て、日本語の「切ない」という言葉を知ったという。

「もともと日本の歌手や映画に関心があって、日本語も少し独学で勉強していました。『ラヴレター』はこっそりシネマカフェで見ました。北海道の銀世界に見とれて、主人公の思いに胸がぎゅっと締め付けられました。この映画をまた見て、あの時代に漠然と感じていた将来の不安とかその頃の彼氏のこととか当時のことをいろいろ思い出して、なんだかじーんとしました」

韓国では1998年まで日本の大衆文化が禁止されていて、解禁1作目の北野武監督の『HANA-BI』に続く2作目が『ラヴレター』だった。解禁になる前も日本の大衆文化に関心があった人たちは、カフェを借り切って映画や日本のアイドルのコンサートなどが収められたビデオ上映を行ったりしていたが、日本の映画を専門に上映するシネマカフェなどもあった。

1998年の「日韓共同宣言」から日本の大衆文化は段階的に開放されていき、『ラヴレター』は99年に韓国で公式に上映されて、およそ140万人の観客を動員する大ヒットとなった。

『ラヴレター』のヒットの後、2006年に『デスノート』が59万人の観客動員数となるヒットを飛ばした後は、日本映画はしばらく、いや、長い間、韓国市場では振るわなかった。

韓国の全国紙文化部記者はその背景をこう解説する。「ダイナミックな映画を好む韓国人は、日本映画のじんわり、ゆっくりと進むストーリーに入っていけない人が多かった。『ラヴレター』はストーリーももう帰らない人から手紙が来るという意外性と美しい映像で韓国の人の心をつかみましたが、そういう映画が後に続かなかった。だから、日本映画=つまらない、というイメージが広がってしまったんです」

ところが、最近、日本映画の人気がじわりと復活しつつある。今年初めに公開された『君の名は。』は363万人の観客を動員するヒットとなり、10月下旬に韓国で開封された映画『君の膵臓を食べたい』は上映館数200館ほどにもかかわらずおよそ46万人の観客を動員した。

「『君の名は。』も、ジブリ作品などで日本のアニメーション人気があった下地もあって、親子で見られる映画として久しぶりに高い興行成績を収めました。それが弾みとなって日本映画に目が向いていたこともありますが、『君の膵臓を食べたい』はロマンスやラブ・ストーリーに飢えていた人たちを引きつけました。潜在市場にすっぽりはまったのではないでしょうか。


劇場のパンプレット棚には『銀魂』(右下)や『メアリと魔女の花』(左下)のチラシがあった。(筆者撮影)

韓国映画界は、最近は特にハードボイルドな映画が多くて、ロマンスものやラブ・ストーリーものはあまりヒットしない、売れないというジンクスからあまり制作されない傾向が続いてきています。そのため、最近では、わざわざ日本に行ってロマンス映画を撮る監督も出てきているほどです。そうした市場を日本の切ないストーリーの映画が埋めていると思います」(同前)

『君の膵臓を食べたい』はご存じのとおり、日本でもベストセラーとなった、住野よる氏原作の同名小説を映画化したもので、膵臓の病気で余命を宣告された女子高生と、次第に一緒に過ごすようになった同級生との話だ。

「愛」は万国共通だ

日本と韓国は似ているところも多いが、当然だけれど異なる文化のため、感性に響くところも時に違う。ちなみに、日本でヒットした『シン・ゴジラ』も韓国で上映され、ヒットが期待されたが、結果は振るわなかった。

「波長が合わない、というか。それは韓国映画が日本で受け入れられる時も同じだと思います。やはり、永遠のテーマでもある『愛』はどの国でも通じるものがありますから」(同前)

韓国で最近人気の日本の映画監督は是枝裕和監督だ。2015年に韓国でも公開された『海街ダイアリー』は10万人の観客を動員し、今年12月14日に上映開始された新作『三度目の殺人』も好調だ。

日本ではドラマやK-POPなど韓流ブームが起きたように、日本映画を通じて韓国でも「日流旋風」が2018年に巻き起こるかも、しれない。