完全オーダーメイドのオリジナルウェディングで業界に新風を吹き込んだCRAZY WEDDINGの創設者山川咲(やまかわ・さき)さん。今は新たな事業の立ち上げに向けて模索中。「生きる」と「働く」の境目がないという彼女のワークスタイルは、どのようにして生まれたのか。


【連載「ウートピな人々」一覧はこちら】

自分らしく暮らすことが“仕事”

──「仕事のためにモチベーションを上げなくちゃ」ということがないそうですね?

山川咲さん(以下、山川):私の場合、「働く」とか「仕事をする」という感覚はほとんどなくて、いかに自分らしくいられるか、幸せを実感できるかを追い求めて暮らすことが結果的に仕事になっているという感じなので、仕事のために特別に意識や姿勢を変える必要がないんです。

薪で風呂を沸かす日々

──どのようにしてそのようなスタイルにたどり着いたのでしょう?

山川:まずは親の影響があると思います。私の父は某TV局でアナウンサーをしていましたが、退社後、母と当時3歳だった私を連れてワンボックスカーで寝泊まりしながら日本全国を回るという暮らしをしました。最終的には千葉のいなかに定住したのですが、獣道を駆け回り、風呂に薪をくべる役割を中学卒業まで毎晩務めるという暮らし。

周囲から認められる仕事に就いたものの……

山川:父は常に意識が「外の世界」に向いているような人で、家での話題も社会問題についてがもっぱらでした。子ども心に私は自分が他の子どもたちと違うということがわかっていて、そのことで苦しみもしました。なんとかして「普通のマジョリティーの世界」に加わりたいと願い、努力もして、大学卒業後いったんは周囲が認めてくれるような仕事に就いたのです。

ところが勤めて数年で「これは私本来の姿じゃない」と思うようになりました。そして、流産を経験したのを契機に、それまでの仕事や生き方と決別することにしました。

エアーズロックの頂上で迎えた転機

──それでオーストラリアに行かれた?

山川:そうです。1ヵ月の旅行でしたが、成田空港を発つ前、まだ飛行機が滑走路を走っているときから、すでに私の中ですごい浄化作用が起こって、それまでの自分を労う気持ちが湧いてきたのです。「お前は手抜きしないで頑張って生きてきたよ」って。旅がくれた最初のメッセージがそれでした。

同じ旅の最後にエアーズロックに登る機会がありました。エアーズロックに登るのって、毎年何人も転落死が出るくらい危険なことなんです。いつもは尻込みする私がこのときは迷わず登ろうと決めました。登りきって視界に広がる赤い大地を眺めたとき、その雄大な風景が私のなかに入ってきたように感じて、「私、自分の人生を生きている!」と思えたのです。これが2番目のメッセージでした。

それまで私は「こうあるべき」と誰かに刷り込まれた人生を生きていたのです。でもそれからは、ちゃんと自分の意志を持って、自分で選んで生きようと思いました。

会社は共に泣いて笑える場所

──山川さんの会社(株式会社CRAZY、社長は夫の森山和彦さん)のモットーに「世界を変える」というのがありますが、この言葉には人々の仕事に対する意識を変えるという意味が込められているのですね?

山川:具体的に世界の何を変えるということは念頭にありません。ただ、「今の世界はまっとうじゃない」という思いが常にあります。これも父の影響があると思うのですが、父はいつも「経済合理性よりも命が尊重される世の中を」と言っていました。泣いて、笑って、人生って素晴らしいなって、みんなが思える世の中にしたい。会社はそういう理念に共感できる人と時間を共にできる場になればいいと私たちは思っているのです。

撮影:澤圭太

仕事は“仕事感覚”でやらない

山川:ウェディングの仕事では、顧客と「人間として関わる」ことを大切にしました。結婚は人生のなかでのたいへん重要なイベントですから、スタッフやクリエイターの人たちにも「仕事」感覚で関わってほしくなかったのです。お金で動いている人とそうでない人はすぐに見分けがつきますからね。みんなが自分らしさを表現するつもりで関わると、そのプロジェクトがたどり着ける領域が違ってくるのです。

撮影:澤圭太

毎年1ヵ月、自分と向き合う旅に出る

──「グレートジャーニー」という制度について教えて下さい。

山川:うちの会社では、1年に1ヵ月、スタッフみんなが休暇をとって好きな場所を旅する制度があるんです。それぞれが旅で得たものを持ち帰って、人生を豊かにしたり、プロジェクトに生かしたりしてもらえばいいと考えています。4年前に会社を立ち上げた年には全員同時に旅に出て、最後は南米のパタゴニアで集合しました。パタゴニアは私と夫が以前訪ねて、本格的なキャンプ体験を通じて「本質的に、美しく、そしてユニークであること」という会社の事業の方針を見いだした場所でもあります。

私自身はまた近々、旅に出るつもりです。新たな事業を外に向かって示すために、もう一度ちゃんと自分の内側に向いて、本質と向き合う必要があると感じているからです。

山川さんの1日
6時起床。日によっては7時からミーティングを行うことも。早朝の予定がなければ、夫と時間をかけて朝食をとる。9時に出社。会社では専属のダイニングチームが腕をふるう自然食ランチを社員のみんなと食べる。夕方まで接客や外回り。夜は外食が多い。


【連載「ウートピな人々」一覧はこちら】

(撮影:竹内洋平)

(浮田泰幸)