女子はこの尖がりが苦手

写真拡大

■なぜ、先の尖った靴の男は嫌われるか?

女性の靴はいくらでも先が尖っていても良い風潮、でもなぜか男性の先が尖った靴は評判が悪いです。

ナルシストっぽいとか、ダサいとかさんざんな言われよう。一昔前は、ホスト系の男性がよくはいていることから、チャラい男性のイメージが強かった尖り系シューズ(ポインテッドトゥと呼ぶらしいです)。

しかし最近は、ビジネスマンが尖った靴を好みがちです。

最初に違和感を覚えたのは、平日の夜、ラッシュの電車内。仕事帰りの疲れた会社員男性の足元を見ると、異様に尖っていて、3、4人に囲まれると妙な圧力があります。ホストや遊び人の男性の尖った靴とは違う、ビジネスシューズ仕様で、ただ先端が伸びている感じで、見ているとゾクゾクしてきます。

デザイン的にラインがパースのようについていて、鋭角を強調しているタイプも。三角形の頂点が点ではなく線で、完全に尖っていない中途半端なデザインが多いのもモヤモヤさせられます。

紳士服屋に行ってビジネスシューズをチェックすると、先が反って上向いている、というタイプも多く見られました。10度位の結構な反り具合です。そして伊勢丹メンズ館など、ハイセンスな店では、イタリア系など若干尖っていますが、そこまで激しくない印象でした。インポートの高級な靴をはけるくらいの人は、余裕があるのでそこまで靴で攻撃的になる必要がないのかもしれません。

尖った靴はどのような人がはいているのでしょう。

中世の絵画でタイツに先が尖った靴を合わせている貴族の男性を見た記憶があるので、当時は身分が高い人の間で好まれていたのかもしれません。近年ですと、映画『レニングラード・カウボーイズ』の尖りきった靴が思い浮かびますが、派手な衣装と合わせるとそんなに違和感なく、中途半端な尖り方ではないのでむしろかっこいいです。

■先の丸い靴をはいたら覇気がダウン

周りの人に、尖った靴の知り合いがいないか聞いてみました。

出版社の人によると「編集部では見たことないですね。でも街で見かける人は、小柄な男性が自分を大きく見せようとしてはいているイメージ。だいたい足の長さからして先の部分は無駄だと思うんですが……」と、同性から見ても変なようです。

編集部やテレビ局、広告代理店などマスコミ系では確かに尖っている人は見かけません。テレビ局ではサンダルばきや雪駄などラフなスタイルがスノッブで、広告代理店の男性はハイブランドのスニーカーでこなれ感を出していたりします。

先日、トークイベントに出る機会があったので、客席に向かって、「尖った靴をはいている人はいませんか?」と質問してみたら、反応はゼロ。ロフトプラスワンのお客さん、サブカル好き男子は靴が尖っていないようです。

しかしその時のイベント主催者、AV監督村西とおる氏から貴重な情報をいただきました。

「昔英会話教材のキャッチセールスをしていた時、『英会話の必要性を感じますか?』と声をかけると、ついてきた人はだいたい靴が尖ってました。なので靴が尖っている人を狙ってセールスしていました」

とのこと。ということはつまり、靴が尖っている人は意識高い系だと納得しました。

街で見かけるスーツ姿の集団の足元をチェックすると、靴の尖り具合はだいたい共通していることにも気付きました。同僚同士、競争心が拮抗しているのでしょう。1人だけ尖ったり、丸くなったりして和を乱さないという協調性も感じられました。

また、意識の高さを物語っていたのは、靴先が尖った男性が、ひとり軽いほほえみを浮かべながら歩いていた姿です。先が反った靴をはいていた男性が、一歩ずつ確かな足取りで歩いているのも見かけて、テコの原理のように靴の反りを利用することで、歩行に勢いがつく効果があるように思いました。先に沿ってエネルギーも上向きに流れそうです。視界に入ってくる靴の先の、精神に及ぼす作用は無視できません。

不肖私もポインテッドトゥの尖ったパンプスばかりはいていたのが、久しぶりに先の丸い靴をはいたら、覇気がダウンしたというか、穏やかになってちょっと心もとない気分になりました。尖った靴の時のほうがアドレナリンが分泌されていたような……。

尖って反っている靴は、ともすると自信を失いそうなナイーブな男性に前に進む力を与え、やる気や元気を増幅させるアイテムなのです。街で見かけても、(ダサっ)と斬り捨てず、(がんばってください)と応援の念を送っていきたいです。

(コラムニスト 辛酸なめ子=文・イラスト)