石油元売り業界、「3グループ」集約へ最終段階 「長期苦境」打開には、なお道半ば
2015年に入り、石油業界が風雲急を告げている。「出光興産+昭和シェル石油」の統合合意の発表に続き、最大手のJXホールディングスが3位の東燃ゼネラル石油との統合検討を認めるなど、業界再編が一気に加速する雲行きだ。
2014年来の原油価格の急低下が石油元売り各社の経営を直撃していることが背景にある。石油の備蓄が義務付けられていることもあって、原油価格の高い時期に買った在庫の評価損が膨らみ、大手3社の2015年9月中間連結決算は、純損益がすべて赤字だ。足元でもガソリン価格が5年ぶりの安値をつけ、消費者にはありがたいが、売る方には厳しい状況が続く。
原油安がもたらした「異常事態」
「リーマン・ショックを超える異常事態なんですよ」
ある石油元売り幹部はこうこぼす。石油連盟が石油精製・元売り15社単体決算を合算したところ、リーマン・ショックに襲われた2008年度の経常損益は2992億円の赤字。これに対し、2014年度の経常赤字は6417億円と2倍以上に膨らんだ。その間(2009〜2013年度)の5年間は経常黒字で、2011年度の経常黒字額はこの期間で最高の6803億円に達した。
そこからの急降下だけに、「異常事態」という言葉も大げさではない。2008年度と2014年度の決算に影響したのは、いずれも原油在庫の評価損。それぞれ大手5社で計8000億円近い規模となった。原油価格は上がる時もあれば下がる時もあるが、米国でのシェールガス発掘が本格化する一方、中国など新興国の成長伸び悩みという需給両面の悪材料を考えれば、この先、原油価格が急上昇するとは予想しがたいのが現状だ。
在庫評価損を抱える石油元売りの苦境は2015年度に入っても続いている。冒頭のように、中間決算時期が9月の大手3社(JX、出光、コスモエネルギーホールディングス)の純損益はすべて赤字になった。JXの純損失は449億円。統合再編で2010年4月にJXが発足して以降、中間決算としては初の赤字。コスモの赤字が174億円、出光は65億円。出光の中間決算での純損失は2006年の株式上場以来初めて。在庫評価損は3社合計で約1700億円に上った。
また、通期が12月期決算の大手2社(東燃ゼネラル、昭和シェル)の2015年1〜9月期は、東燃ゼネラルが辛うじて純損益で15億円の黒字を確保したものの、昭和シェルは74億円の赤字だった。
落ち込み続けるガソリン需要
各社を痛めつける石油の備蓄を少し説明しておこう。「国産」がほとんどなく輸入に頼る日本では、石油がなくなることは国民の死活問題とるため、官民それぞれが備蓄することになっている。昨年末時点では国が114日分、民間が84日分を備蓄していて、取得した価格からの値下がり分が評価損になる。
評価損に業績が直撃されたわけだが、より深刻なのは長期トレンドとして需要の減少だろう。
石油連盟などによると、国内石油製品需要のピークは1999年度で、計2億4600万キロリットルだったが、2014年度には26%も少ない1億8300万キロリットルへと、長期低落が続いている。今後の予測では、2019年度に1999年度比30%少ない1億7100万キロリットルへ一段と落ち込むと見られている。
需要減に連れて給油所数も減少している。今年3月末には全国で3万3510カ所と、20年前の1995年3月末(6万421カ所)から45%も減った。都心部はまだいいが、過疎地ではガソリンを入れるのも一苦労なうえ、輸送費を含むため価格も高く、深刻な問題となりつつある。
そのガソリン価格だが、資源エネルギー庁がまとめた2015年11月2日時点のレギュラー店頭価格(全国平均)は、1リットル当たり132円70銭で、2010年11月29日(132円50銭)以来、約5年ぶりの安値となった。足元の原油安やガソリンスタンド間の競争激化が影響している。また、トヨタ自動車が年末にハイブリッド車の新型プリウスを発売するほか、各社の投入する軽自動車も燃費性能が格段に進化しており、国内のガソリン需要は今後も弱そうだ。
80年代は10社を超していたが......
石油元売りの再編は、まさにこうした構造問題を背景にしている。2位の出光と5位の昭和シェルは11月12日、合併による経営統合で基本合意したと発表。2016年10月から2017年4月をめどに合併新会社を発足させ、首位JXを追撃する態勢を整える。
その発表から4日後の16日、今度はJXが3位の東燃ゼネラルと統合交渉に入ったことが明らかになった。実現すれば「出光・昭和シェル」などを大きく引き離す首位グループが誕生。1980年代に「大手」だけで10社以上あった石油元売りは、コスモを含めた3グループに集約されることになる。原油安・需要減による合従連衡は最終段階となるが、宅配などが不可能な危険物のガソリンを過疎地にどう行き渡せるかなどの課題に業界を挙げて取り組む必要にも迫られる。