思えば昨年のオールスターゲームの前日会見で、「中4日は短い」と提言していたダルビッシュ[Getty Images]

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◆ トミー・ジョン手術を受ければ「球速があがる」はウソ?

 テキサス・レンジャーズダルビッシュ有投手が、右ヒジの内側側副靱帯損傷のため、通称トミー・ジョン手術(以下、TJ手術)と呼ばれる靱帯修復手術を受けることになった。一般的に復帰まで1年以上を要するため、今季中の登板は絶望となる。

 ダルビッシュ本人のコメントによれば、ケガの状態は「(靱帯が)すり減っている状況で切れていない」とのことで、当初報道された部分断裂ではないようだ。

 TJ手術とは、損傷した靱帯を切除し、反対側の前腕や下腿、ひざの腱などから正常な腱の一部を摘出し移植することで患部の修復を図るものだ。初めてこの手術を受けた投手にちなんで、こう呼ばれている。現在、MLBに在籍している日本人投手でも、藤川球児、田沢純一、和田毅がTJ手術の経験者だ。 

 ある調査によれば、1974年から2014年までにTJ手術を受けた選手は、マイナーリーグや複数回受けた選手も含め800人以上いる。年度別で見ると2000年代前半から急増し、1996年と2012年では8倍に増えているとも言われている。

 大学生や高校生でもこの手術を受ける選手が増えているが、これは「TJ手術を受けた投手は球速が増す」という俗説が広まったことによることが大きいようだ。しかし、アメリカの野球医学に関する学会によればそのような“事実”はないという。

 球速が増した理由としては、TJ手術そのものによるものではなく、リハビリで下半身が鍛えられたことや投球フォームが改善されたことが挙げられている。

◆ ダルビッシュは先発6人制を提言

 ダルビッシュといえば、体のケアや投球フォームに関するこだわりが強い選手として知られていて、少しでもいい状態で最高のボールを投げるための努力を惜しまない投手だ。十分にケアしていたはずのダルビッシュでもTJ手術をすることになったのは、日米問わず衝撃を受けた野球関係者も多いだろう。

 

 また、昨年のオールスターゲーム前日の会見でダルビッシュは、田中将大ヤンキース)の右ヒジ靱帯部分断裂に関する話題で、以下のような発言をしている。

 「(先発の登板間隔が)中4日は絶対に短い。球数はほとんど関係ない。120球、140球投げさせてもらっても、中6日あれば靱帯の炎症もクリーンに取れます」

 一般的に日本のプロ野球は先発投手が中6日で投げ、メジャーでは5人で先発ローテーションを組み中4日か5日で登板する。ダルビッシュは、前述発言のあとに「メジャーも日本のように先発6人制を導入したほうがいい」と提言し、アメリカでも議論を呼んだ。

 メジャーで先発5人制を敷いている理由として、主に以下の2点がある。まず第一に、いい投手を1試合でも多く投げさせたいということ。そして、ベンチ入りの人数は日本と同じ25人だが、いわゆる一軍登録が日本は28人に対しメジャーは25人。つまり、日本では登板予定がない先発投手はベンチから外れるが、メジャーではベンチに入る。そうなると、これ以上先発投手が増えればそれだけベンチ入りの野手かリリーフ投手を減らさなければならなくなるので、先発投手の数だけを多くすると戦力バランスが悪くなるのである。

 ダルビッシュの発言に影響されたわけではないだろうが、ニューヨーク・ヤンキースはリハビリ明けの田中将大の状態も考慮し、今シーズンの途中に先発6人制を敷く可能性があると言われている。それが現実になるかはさておき、これからもTJ手術が増加することがあれば、先発投手の起用法にも変化が出てくることは十分にあるだろう。

 成功率が高いとはいえ、肩やヒジにメスを入れることは投手であれば誰もが避けたい。急増するTJ手術の原因は登板間隔なのか、投球フォームなのか、それとも複合的なものなのか……。ダルビッシュの早期復帰を祈りつつ、TJ手術に関する今後の状況においても注目していく必要がある。

文=京都純典(みやこ・すみのり)