「真後ろにぶん投げちゃったらどうしよう」、震えが止まらなかった浦添のブルペン

 誰よりもこのときを心待ちにしていた。2015年2月1日。3年ぶりに沖縄・浦添のブルペンに入ったヤクルトの由規投手は、震えが止まらなかった。

「本当に緊張して、1球目が構えたところにいくかなというのはありました。(捕手の)真後ろにぶん投げちゃったらどうしようかなとか……」

 かつて日本人選手最速の161キロをたたき出した男が投げた初球。「パンッ」という乾いた音とともに、捕手の井野が構えたミットに収まった。背番号11が戻ってきた瞬間だった。

 この段階に至るまで長い年月がかかった。最初に右肩に違和感を覚えたのは2011年9月。症状は「張り」程度だった。しかし、その後の精密検査で出た診断結果は右肩腱盤損傷。手術をせずにリハビリを続けていたが、状態が上がらないことから、2013年4月に右肩のクリーニング手術を決断した。

 過酷なリハビリを経て、昨年6月に2年2か月ぶりに実戦復帰。いきなり最速155キロを計測した。だが、同8月に再び右肩の違和感を訴えて離脱していた。

 秋季キャンプからアピールを続け、ようやくつかんだ今回の1軍キャンプ。初日のブルペンで56球、2日目には80球を投げ込んだ右腕は「今は神宮で投げることしか考えていない」と開幕1軍を目指している。そして、「1軍に戻るだけならただの復帰、1年間投げて結果を残してこそ復活だと思っています。ただ投げるだけでなく、チームのために勝てる投手になりたい」とすでに復帰後を見据える。

「彼の真っすぐは、特別な真っすぐ。そこを忘れてはダメ」

 復活へ向け、昨年の秋季キャンプから投球前にカーブを投げることを取り入れた。大きく縦に割れるカーブを投げるには、しっかり腕を振り切らないと、指からうまく抜くことができない。「その後に直球を投げると、変な力が入らないんです。ケガをする前より、力感なく投げられるようになっていると思います」と手応えを感じている。

 本人だけでなく、周囲の反応も上々。今季からヤクルトに加入し、初めて由規の球を受けた井野は「受ける前はズドンという重い感じかなと思っていたけど、シュッと浮き上がってくる、いい伸びをしていた。145キロは出ていたと思います。変化球もよく曲がっていた」とかつての剛腕のイメージとの“ギャップ”に驚きを隠さなかった。

 ただ、直球中心のスタイルを変えるつもりはない。由規は「スピードを出してやるぞという感じではないですけど、スピードが出る方が調子がいいのは明らか」と認めている。球速が自身のバロメーターであることに変わりはない。

 高津投手コーチも「今はケガなく投げられていることが1番」と前置きした上で、「(ケガの影響もあって)思い切って腕を振るということを彼は何年も忘れている。彼の真っすぐは、特別な真っすぐ。そこを忘れてはダメ」と指摘。完全復活にはもう一段階、ギアを上げる必要がある。

 11日から始まる第3クールでは打撃投手を務める予定で、早ければ22日の日本ハムとのオープン戦(浦添)でマウンドに上がる可能性もある。

「1戦目から自分の投球ができるようにしていきたい」

 復活への足音は、着実に大きくなってきた。