先行きが不安定な韓国経済だが……

写真拡大

 2015年の韓国社会はどうなるのだろうか。それを占う興味深い調査結果がある。朝鮮日報が20代から60代までの成人男女500人を対象に行なったアンケート「2015年にもっとも望むことは何か」だ。

 同アンケートの回答で多かったのは就職問題。すなわち、多くの韓国人が「無事に職場が見つかりますように」という願いを胸に秘めており、特に20代と50代でその傾向が顕著になった。

「ここ5年の統計を見ると、大学卒業者の就職率は年々下がり続けています。20代全体で見た時も失業率は増加する傾向にある」(韓国大手紙記者)

 韓国・統計庁の発表によると、20代の就業者数は2008年の約389万人から、2010年には約371万人、2013年には約356万人と、年々減少傾向にある。韓国では世代間格差が大きな社会問題として浮上しているが、若年層の就職難が解決すべき国家的課題となりつつあるのだ。日本だけにとどまらず、欧州先進国などとも似たような社会的課題ともいえよう。

若者の高望みと、いびつな財閥中心経済

 ただ、韓国のある大学関係者からは次のような話も出ている。

「20代の失業率が増えているというのは確か。一方で、若者の大企業志向も問題です。その証拠に、中小企業は人材不足にあえいでいる。20代の若者の中には、“もっとよい職場”、“もっとよい人生”を求め、何度も大学や大学院に入り直す子が少なくない。いわゆる、スペック(学歴や資格)を積むことが至上命題になっていて、とにかく社会との接点を持ってみるという尊い経験は、二の次という風潮が蔓延してしまっているのです。そのため、韓国では就職難の問題に加え、高学歴ニートの問題も同時に社会問題なりつつある」

 これは、韓国若年層の就職率の低さは、単純な就職難とは結びつけられないという指摘だ。昨年末、日本でも大韓航空の箱入り娘が起こした“ナッツ・リターン”の問題が大きく報じられた。韓国では財閥大企業の横暴が問題視されているが、一方で、彼らのようなキャリアや人生に憧れを抱く若者も少なくないという訳だ。ただほとんどの20代は実際にそうなれず、スペック磨きの青春を送り、社会経験を積む機会を逃すという状況に追い込まれてしまう。

 大企業志向による就職率の低下は、若者の過剰な高望みが原因とも言えるし、一握りの財閥が国家経済の富のほとんどを握るいびつな経済構造が根底にあるともとれる。いずれにせよ、若い人材が社会と接点を持つ機会が減っているという事実は、韓国社会にとって大きな損失であることだけは間違いなさそうだ。

 ちなみに、50代の人々が就職をのぞむのは、定年退職の早さが背景にあると言われている。それは大企業勤めといえども差がないようだ。例えば、50代で定年を迎えた中年層の人々の再就職先として多いのはタクシードライバーだが、彼らの話を聞いていると「昔は中東にでっかいビルを建てる仕事を指揮していた」「100人くらい部下がいた」などの話をよく耳にする。その話のすべてを鵜呑みにはできないが、半分くらいは「本当なのかもしれない」と思わされるリアリティーがある。

 その50代の子ども世代がちょうど20代になる場合が多く、両世代の就職への願いはさらに切実になる。朝鮮日報は「与野党への支持傾向など、まったく政治的見解が異なる両世代が、ともに“就職”を2015年の願いにあげたことは特筆すべき」と、紙面を締め括っていた。

 華やかな大企業、そして余生を生き抜くための仕事に「就職できますように」という韓国人の願いには、偏った経済構造や過度な競争社会への憂いが潜んでいるのかもしれない。

(取材・文/中川武司)