都立日野vs橘
市橘・寒水君
前日の雨が思っていた以上に降ったということもあってグラウンド状態はあまり良くなかった。それでも、都立日野の部員たちが水抜きするなど懸命に整備して、予定よりも15分遅れでプレーボールとなった。シートノックは省いて、比較的状態のいいところで、サイドノック気味に行った。この日は、11月最後の日曜日というか、末日である。規定では、12月から3月の1週目が開けるまでは、対外試合は不可となっているので、泣いても笑っても年内最後の対外試合である。
昨夏の西東京大会準優勝で、かなり具体的に甲子園を意識するようになった都立日野。近年、都立校では最も安定した実績を挙げているチームである。橘は、そんな日野から何かを学び取りたいという意識もあって、福田茂監督は試合を組んでいる。同じ公立で、ここまで実績を挙げている学校からは、何をどこまで見て学んでいくか、こうしたことも練習試合の大事なテーマでもある。
常に、甲子園を意識させている都立日野は、日常の中でも“甲子園”という言葉を意識的に用いている嶋田雅之監督だ。この日も、試合前には「甲子園に出るチームの行動」について話していた。こうした意識付けで、選手たちが、甲子園に出場するチームにふさわしいものになっていくようにしているのだ。
この秋は、東京都大会初戦で、二松学舎大附にいくらか力負けしたという印象も否めなかった都立日野である。好投手大江君に対しては、「そんなに手も足も出ない投手ではないと思ったのだけれども、上手に抑えられた」というところから、その対応をしていき、相手の投手の攻め方に対して、しっかり反応していかれるように練習してきた。そういう意味では、この日の市立橘の寒水君はその成果を試すにはいい相手だった。
というのも、寒水君は球威があるとか、スピードで牛耳るというタイプではないものの、しっかりとコーナーをついてきて、いわゆる球の出し入れという点では非常に優れている投手である。寒水君がある程度試合を作れるという計算で福田監督もチーム作りを意識してきた。ただ、この日は、正捕手だった上條君がけがで守れないということで、1年生の増岡君と高原君が交互に務めることになった。
日野・箱田君
都立日野は初回に2番若林君が内野安打と失策で二塁まで進むと、続く根岸君が左越二塁打して先制。さらに、神原君も鋭く打球を打ち返していったが、ここから寒水君が本領発揮して、粘りの投球で踏ん張った。思い切って打者の内側を攻めてくる投球構成も効果的だった。
5回に二死から根岸君の二塁打と捕逸、神原君の強い打球に対しての失策絡みで都立日野が 点を追加したが、7回、橘は肥後君の2ランで追いついた。失策を自分のバットで取り返した形になったが、元々、4番に入っていた選手である。その意地を示した一発ともいえよう。
こうして試合は振りだしに戻って、緊張感も増してきた。 しかし、ここでさすがに都立日野は、勝負強さを示す。8回は根岸君が内野安打で出ると、神原君は強烈にセンター頭上を破って一、三塁。本来ならば長打となる打球だったが、外野の中堅が狭く、ネットに跳ね返されて戻ってきたのでシングルとなったが、神原君の打球はこの日の中では、抜けて強いという印象だった。
こうして無死一、三塁になって、杉浦君が中前打して突き放した。さらには、二死までは寒水君がこらえたが、満塁となったところで、9番に入っていた高橋宙夢君が中前打して追加点を挙げた。
このリードを、8回からリリーフしていた高橋宙君がしっかりと押さえて、都立日野は公式戦並みにいい緊張感のあった試合を制した。橘としては、8回に福田耕平君が二死一塁から右中間二塁打して突き放せるかと思われたが、都立日野の好中継に本塁で刺されたのも効いた。それでも、寒水君は十分に持ち味を出していた。また、捕手陣は最後に打たれたことで、その配球を研究していくことで、これもまた学習材料となっていくはずである。
日野・高橋宙夢君
都立日野は投手陣としては、秋も背番号1だった箱田君は秋季大会からスピードが増したという印象だった。左腕小峯君は一発こそ浴びたが、力はあった。そして、嶋田監督が期待しているという高橋宙夢君は、伸びのあるストレートが来ていた。
さらに、2試合目に投げた青山祐希君に、大きなカーブが持ち味の左腕・大澤圭祐君、ストレートに力があり馬力を感じさせてくれる1年生で秋季大会も投げた内藤君と、駒は揃っている。「この中から、誰か一人、本当に軸となってくれる投手が出てきてくれたら、打線はある程度順調に伸びてきているので、おもしろくなれるかなと思っているんです」と、嶋田監督は好感触を得てきているという様子だった。
3対0となった第2試合では、連打で先制し、失策から盗塁でチャンスを広げて相手野手を慌てさせて失策で加点。3点目は、二死一三塁から重盗を仕掛けて得点をもぎ取るなど、攻撃の幅も広いところを示していた。
橘は、大事なところで丁寧にやろうとしてミスが出たりと、福田監督としても、いくらかカリカリするところもあったかもしれない。
「相手と勝負していないで、怒られないようにしようとか、そういう消極的な気持ちが出ちゃってるんで…、そのあたりをもっと強くしていかないといけませんね。いい試合しても、こらえ切れないのも、そんなところですよ。元々そんなに打てるチームじゃないですから、ミスで失点していたらいけません」と、よい子たちの多いチームだけに、それ故の悩みもあるようだ。「グラウンドが狭いから、投内連携とか、そういうことばかりは、毎日練習しているのに、それでミスが出ちゃうんだからなぁ」と、嘆いてもいた。
それでも、チームとしてのまとまりはよく、ひたむきに野球に取り組んでいるという姿勢は感じられた。一冬超えての、チームの成長が楽しみである。
(文=手束 仁)
