間接材購買は何故上手くいかないのか。- その3/野町 直弘
多くの企業は誤った目的(短期的なコスト削減と購買システムの導入)の元にあまりにも近視眼的な活動を何度も繰り返しているだけではないでしょうか。これがこの十数年間の間接材購買の過ちと私は確信しております。
今回は「間接材購買」の第三回目(最終回)となります。
前二回では「間接材購買」は進歩がない、その内容と理由について述べてきました。今回はそれをうけてそれではどうすればよいか、ということを述べていきます。
今回の内容は単に「間接材購買」だけでなく直接材購買も含む、企業の最適な支出管理につながる話なので、多くの直接材購買担当者にも是非とも読んでいただければ幸いです。
「間接材購買」の活動は多くの企業で「コスト削減」中心であり、購買システムの導入においても活用があまりできていない、という指摘をしました。それに対し我々は何を目指していけばよいのでしょうか。それは「支出の可視化」であり、「管理できている支出を増やすこと」です。
日本企業の今の状況を申し上げますと、コスト削減し易い品目は何度もコスト削減の対象として上げられ、チームメンバーが一新される度にコスト削減活動を行っています。
しかし、その傍らでは訳の分からない支出がダダ漏れになっている、こういう状況なのです。これって怖くないですか。
例えば自宅の家計について、奥さんがとてもしっかりしている方で毎日の買いモノについても色々工夫しながら値引きしてもらい購入している、でもその傍ら子供が無駄使いをしていて、あげくの果てに借金までしている、こういう状況に近いのです。
また、同じ品目のコスト削減はそう何回も効果が出る訳がありません。もしコスト削減を継続的に続けるのであれば、難易度が高い支出まで調達購買部門が管理できている品目を拡大していくことが重要です。
例えば営業系の広告宣伝費用や研究所の研究費用等はある種の聖域として捉えられている企業があります。このような費用は一般的にコスト削減の難易度が高いと言われます。
その要因は社内の力関係です。
ですから管理品目を拡大していくことは従来の社内の力関係をぶっ壊すことが前提となります。しかし多くの企業ではこのハードルが高く、トライをする前に諦めるてしまっています。
このメルマガでも数回触れましたが、欧米では「Spend Under Management(管理可能支出)」の拡大が企業の調達購買部門の大きな評価指標になっています。具体的な定義は企業毎に異なりますが、一般的には「調達部門がソーシング業務を行った支出」と「調達部門が作成したガイドライン、ルールに基づき適正なソーシング業務を他部門が行った支出」の合計がその定義となります。
そして全支出に占める管理可能支出の比率の平均が60.6%であり、85%以上の企業が目指すべきところである、と分析しています。
この比率を100%にすることは非常に難しいことです。またガイドラインやルールに基づいたソーシング業務をしていたとしても適正かどうかは分かりません。価格の妥当性なども、例えば市場価格に比して価格の妥当性があるかどうかチェックができて初めて適正なソーシング業務と言えますが、そこまで徹底できている企業は殆どありません。
しかし、少なくとも管理可能支出の比率を高めていくことが企業としての主要な目的の一つであることは間違いないでしょう。
10年前位の購買システムが世の中にでてきた当時には、購買システムを導入すれば発注段階で調達購買部門が必ず承認をするので、すくなくとも発注の段階で100%支出を把握できる、と考えられていました。
しかし、単にシステムを導入しただけでは支出を100%把握できません。何故なら発注行為を伴わない支出(例えば毎月事前に行った契約に基づき使用料に応じた請求が行われるような電力料、通信費など)もありますし、ルールを無視してシステムを通さずに(もしくは調達購買部門を通さずに)支出していることはごくごく一般的に発生しているからです。
そもそも口頭で発注し請求書払いを許しているような企業では発注プロセスの定義すらできません。また個人で立替えている経費精算などもそうです。出張に行くのに領収書はともかく自社のシステムから発注書を発行してJRに発注をしているなんてことは通常の商習慣上あり得ません。
つまり購買システムを導入しシステム経由でサプライヤに発注をするようにしてもシステムで発注を行わない支出は普通に発生するのです。
システム経由で100%支出を把握することは難しいですが「支出の可視化」や「管理可能支出」で特に問題なのは、ルールでは発注をしなければならないのにそれを無視した発注を行っている場合や、複数社コンペが義務付けられているにも関わらず相応の理由なしでコンペを行っていないなどのルールを無視した支出です。このような確信犯的な支出にこそ企業にとっての無駄が含まれています。
それではこのような無駄な支出を抑制するためにはどうすればよいでしょうか。
支出の可視化をしていく上で考えられる方法は以下の4つの段階(方法)が考えられます。
1.見積りの段階
2.予算承認の段階
3.契約・発注の段階
4.支払の段階
しっかり支出管理や支出の見える化をしていこうと考えている企業はこれらの何れの段階かで支出を可視化することを進めています。
1.見積の段階とは全ての購買案件について見積取得及び最終価格、サプライヤ選定を調達購買部門が行うようなプロセスをルール化していることです。直接材と同じプロセスを間接材にも適用するというと分かりやすいでしょう。しかし、このやり方では実際の契約・発注はユーザーが行う訳ですから最終的な契約・発注が調達購買部門の意思決定通り行われないリスクは存在します。
しかし、お金を使うときは調達・購買が必ずサプライヤ選定するというシンプルなプロセスを適用することで管理できる、というメリットもあります。
2.予算承認の段階での管理というのは、例えば稟議申請の際に調達購買部門の承認を得た上で支出を行うというやり方です。この場合は予算執行承認はあくまでも稟議規定等で縛られますし、サプライヤ選定自体は予算執行側が何らかのガイドラインに基づいて実施するというプロセスになりますので「1.見積の段階での管理」に比べ事後承認的なプロセスになってしまいます。
3.契約・発注の段階での可視化ですが、ある企業では調達購買に係る契約書の締結は基本的に調達購買部門で行うというルールを作り、契約の段階で支出を管理する方法をとっています。しかし、これも調達購買部門の負荷が高くなる点や「2.予算承認の段階での管理」同様に事後承認的になることは否めません。また金額や案件によっては契約を行わない支出もあるので、どうしても管理できていない支出は発生してしまいます。
そうすると発注の段階で管理するのがよい訳ですが、このルールでも発注行為を伴わない支出は出てきますし、そもそも全ての発注を調達購買部門を通して行うことや購買システムを介して実施することには、業務負荷がかかるという問題を避けることはできません。
4.支払の段階での管理ですが、これをシステム的に行おうとすると会計システムと購買システムを連携させておく必要がありますので多額の投資が必要となります。一方で外資系企業などがよくやっている支払依頼に発注書を必ず添付させておくことというような「No PO, NO PAY」ルールなどを適用させることは比較的容易です。この場合には支払部門との協調が必要ですし、管理できたとしても事後確認でしかないことは理解できるでしょう。
このように支出の可視化や管理可能にする方法論はいくつか考えられますが、いずれもユーザー、支払部門および仕様設定部門との協調が必要になります。特にユーザー部門に対しては、従来のやり方にはなかった手間を強いることになります。このような手間をかけてでも全社の支出全体の可視化を行っていくんだ、というマネジメントの意思がここには必要になってきます。
ここまで書いてきて既に読者の皆さんは理解されたことでしょう。
間接材の支出可視化や管理には「購買システム」や「品目別のコスト削減活動」だけでは達成できないのです。それ以外にも間接材購買や支出に係るルールやガイドラインの作成と社内での徹底が必要になってきます。
ですから一過性のプロジェクトで推進するのは無理です。
もっと腰を据えた改革を調達購買部門だけでなく、ユーザー部門や経理・財務部門などにも手間をかけてもらって実施させていく「覚悟」が必要となります。
それではそのためには何が必要なのでしょうか。
まずは目的の再確認です。
間接材購買を何を目的に進めるのか、単なる一過性のコスト削減なのか。
購買システムの導入は手段であり目的ではありません。
経営者にとって支出の可視化、管理の範囲や精度を上げ「継続的に適正な買いモノができる企業体質や仕組みを作っていく」これが本当に重要なことであり本来の目的ではないでしょうか。
言うまでもなくこの目的は間接材、直接材関係なく共通する目的です。
しかし、この目的を100%達成することは容易ではありません。
当然のことですが、全ての品目、全ての金額、できれば事後ではなく事前に関与したい、これらは当たり前の話です。しかし、まずは事後でデータだけでも収集できればよい、とか、金額基準をもうけて幾ら以上の案件から把握していきましょう、でも構わないのです。重要なのは、目的(100%)に向けて一歩ずつでも良いのでそこに向って前進していることです。
多くの企業は誤った目的の元にあまりにも近視眼的な活動を何度も繰り返しているだけではないでしょうか。これがこの十数年間の間接材購買の過ちと私は確信しております。
今回は「間接材購買」の第三回目(最終回)となります。
前二回では「間接材購買」は進歩がない、その内容と理由について述べてきました。今回はそれをうけてそれではどうすればよいか、ということを述べていきます。
「間接材購買」の活動は多くの企業で「コスト削減」中心であり、購買システムの導入においても活用があまりできていない、という指摘をしました。それに対し我々は何を目指していけばよいのでしょうか。それは「支出の可視化」であり、「管理できている支出を増やすこと」です。
日本企業の今の状況を申し上げますと、コスト削減し易い品目は何度もコスト削減の対象として上げられ、チームメンバーが一新される度にコスト削減活動を行っています。
しかし、その傍らでは訳の分からない支出がダダ漏れになっている、こういう状況なのです。これって怖くないですか。
例えば自宅の家計について、奥さんがとてもしっかりしている方で毎日の買いモノについても色々工夫しながら値引きしてもらい購入している、でもその傍ら子供が無駄使いをしていて、あげくの果てに借金までしている、こういう状況に近いのです。
また、同じ品目のコスト削減はそう何回も効果が出る訳がありません。もしコスト削減を継続的に続けるのであれば、難易度が高い支出まで調達購買部門が管理できている品目を拡大していくことが重要です。
例えば営業系の広告宣伝費用や研究所の研究費用等はある種の聖域として捉えられている企業があります。このような費用は一般的にコスト削減の難易度が高いと言われます。
その要因は社内の力関係です。
ですから管理品目を拡大していくことは従来の社内の力関係をぶっ壊すことが前提となります。しかし多くの企業ではこのハードルが高く、トライをする前に諦めるてしまっています。
このメルマガでも数回触れましたが、欧米では「Spend Under Management(管理可能支出)」の拡大が企業の調達購買部門の大きな評価指標になっています。具体的な定義は企業毎に異なりますが、一般的には「調達部門がソーシング業務を行った支出」と「調達部門が作成したガイドライン、ルールに基づき適正なソーシング業務を他部門が行った支出」の合計がその定義となります。
そして全支出に占める管理可能支出の比率の平均が60.6%であり、85%以上の企業が目指すべきところである、と分析しています。
この比率を100%にすることは非常に難しいことです。またガイドラインやルールに基づいたソーシング業務をしていたとしても適正かどうかは分かりません。価格の妥当性なども、例えば市場価格に比して価格の妥当性があるかどうかチェックができて初めて適正なソーシング業務と言えますが、そこまで徹底できている企業は殆どありません。
しかし、少なくとも管理可能支出の比率を高めていくことが企業としての主要な目的の一つであることは間違いないでしょう。
10年前位の購買システムが世の中にでてきた当時には、購買システムを導入すれば発注段階で調達購買部門が必ず承認をするので、すくなくとも発注の段階で100%支出を把握できる、と考えられていました。
しかし、単にシステムを導入しただけでは支出を100%把握できません。何故なら発注行為を伴わない支出(例えば毎月事前に行った契約に基づき使用料に応じた請求が行われるような電力料、通信費など)もありますし、ルールを無視してシステムを通さずに(もしくは調達購買部門を通さずに)支出していることはごくごく一般的に発生しているからです。
そもそも口頭で発注し請求書払いを許しているような企業では発注プロセスの定義すらできません。また個人で立替えている経費精算などもそうです。出張に行くのに領収書はともかく自社のシステムから発注書を発行してJRに発注をしているなんてことは通常の商習慣上あり得ません。
つまり購買システムを導入しシステム経由でサプライヤに発注をするようにしてもシステムで発注を行わない支出は普通に発生するのです。
システム経由で100%支出を把握することは難しいですが「支出の可視化」や「管理可能支出」で特に問題なのは、ルールでは発注をしなければならないのにそれを無視した発注を行っている場合や、複数社コンペが義務付けられているにも関わらず相応の理由なしでコンペを行っていないなどのルールを無視した支出です。このような確信犯的な支出にこそ企業にとっての無駄が含まれています。
それではこのような無駄な支出を抑制するためにはどうすればよいでしょうか。
支出の可視化をしていく上で考えられる方法は以下の4つの段階(方法)が考えられます。
1.見積りの段階
2.予算承認の段階
3.契約・発注の段階
4.支払の段階
しっかり支出管理や支出の見える化をしていこうと考えている企業はこれらの何れの段階かで支出を可視化することを進めています。
1.見積の段階とは全ての購買案件について見積取得及び最終価格、サプライヤ選定を調達購買部門が行うようなプロセスをルール化していることです。直接材と同じプロセスを間接材にも適用するというと分かりやすいでしょう。しかし、このやり方では実際の契約・発注はユーザーが行う訳ですから最終的な契約・発注が調達購買部門の意思決定通り行われないリスクは存在します。
しかし、お金を使うときは調達・購買が必ずサプライヤ選定するというシンプルなプロセスを適用することで管理できる、というメリットもあります。
2.予算承認の段階での管理というのは、例えば稟議申請の際に調達購買部門の承認を得た上で支出を行うというやり方です。この場合は予算執行承認はあくまでも稟議規定等で縛られますし、サプライヤ選定自体は予算執行側が何らかのガイドラインに基づいて実施するというプロセスになりますので「1.見積の段階での管理」に比べ事後承認的なプロセスになってしまいます。
3.契約・発注の段階での可視化ですが、ある企業では調達購買に係る契約書の締結は基本的に調達購買部門で行うというルールを作り、契約の段階で支出を管理する方法をとっています。しかし、これも調達購買部門の負荷が高くなる点や「2.予算承認の段階での管理」同様に事後承認的になることは否めません。また金額や案件によっては契約を行わない支出もあるので、どうしても管理できていない支出は発生してしまいます。
そうすると発注の段階で管理するのがよい訳ですが、このルールでも発注行為を伴わない支出は出てきますし、そもそも全ての発注を調達購買部門を通して行うことや購買システムを介して実施することには、業務負荷がかかるという問題を避けることはできません。
4.支払の段階での管理ですが、これをシステム的に行おうとすると会計システムと購買システムを連携させておく必要がありますので多額の投資が必要となります。一方で外資系企業などがよくやっている支払依頼に発注書を必ず添付させておくことというような「No PO, NO PAY」ルールなどを適用させることは比較的容易です。この場合には支払部門との協調が必要ですし、管理できたとしても事後確認でしかないことは理解できるでしょう。
このように支出の可視化や管理可能にする方法論はいくつか考えられますが、いずれもユーザー、支払部門および仕様設定部門との協調が必要になります。特にユーザー部門に対しては、従来のやり方にはなかった手間を強いることになります。このような手間をかけてでも全社の支出全体の可視化を行っていくんだ、というマネジメントの意思がここには必要になってきます。
ここまで書いてきて既に読者の皆さんは理解されたことでしょう。
間接材の支出可視化や管理には「購買システム」や「品目別のコスト削減活動」だけでは達成できないのです。それ以外にも間接材購買や支出に係るルールやガイドラインの作成と社内での徹底が必要になってきます。
ですから一過性のプロジェクトで推進するのは無理です。
もっと腰を据えた改革を調達購買部門だけでなく、ユーザー部門や経理・財務部門などにも手間をかけてもらって実施させていく「覚悟」が必要となります。
それではそのためには何が必要なのでしょうか。
まずは目的の再確認です。
間接材購買を何を目的に進めるのか、単なる一過性のコスト削減なのか。
購買システムの導入は手段であり目的ではありません。
経営者にとって支出の可視化、管理の範囲や精度を上げ「継続的に適正な買いモノができる企業体質や仕組みを作っていく」これが本当に重要なことであり本来の目的ではないでしょうか。
言うまでもなくこの目的は間接材、直接材関係なく共通する目的です。
しかし、この目的を100%達成することは容易ではありません。
当然のことですが、全ての品目、全ての金額、できれば事後ではなく事前に関与したい、これらは当たり前の話です。しかし、まずは事後でデータだけでも収集できればよい、とか、金額基準をもうけて幾ら以上の案件から把握していきましょう、でも構わないのです。重要なのは、目的(100%)に向けて一歩ずつでも良いのでそこに向って前進していることです。
多くの企業は誤った目的の元にあまりにも近視眼的な活動を何度も繰り返しているだけではないでしょうか。これがこの十数年間の間接材購買の過ちと私は確信しております。