二松学舎大附vs帝京
優勝が決まった直後、「夢を見ているようでした」という、二松学舎大附の市原勝人監督の言葉には、実感がこもっていると同時に、これまでの歳月の重さが感じられた。
強豪が激突した東東京大会の決勝戦も、西東京大会同様、決勝戦に相応しい息詰まる熱戦になった。
まず序盤の3回は、たった23分で終わった。その間、安打は二松学舎大附の9番、1年生の三口 英斗の内野安打1本だけ、という投手戦だ。ただその中で光ったのは、二松学舎大附の守備だった。
1回裏帝京の2番郡泰輝の三遊間深くのゴロを、遊撃手の竹原 祐太が好捕すると、強肩をいかして一塁で刺した。さらに3番中道大波の捕邪飛を、1年生捕手の今村 大輝が追いかけ、二松学舎大附ベンチである、一塁側ダッグアウトに倒れ込みながらキャッチした。さらに3回裏には帝京8番小幡隆の三塁深くの打球を、三塁手の北本 一樹が好捕し、ワンバウンドで刺している。
過去決勝戦で10回続けて負けている二松学舎大附としては、こうした好守は、重い気分を払う効果があった。
とはいえ、相手は全国的に名が知られる強豪・帝京。5回裏6番安竹 聡司がセンターにライナーの打球。これが二松学舎大附の中堅手・末松祐弥の前で弾み、末松が少しはじく間に安竹は二塁を陥れた。これが帝京の初安打（記録は二塁打）となる。畳み掛けるように帝京は、7番笠井拓弥が左中間を破る長打。安竹が生還して、帝京が1点を先取した。ただし二松学舎大附の内外野も落ち着いており、笠井の三塁進塁は阻止した（記録は二塁打）。
春季大会では安井が4番、笠井が3番を打つことが多かった。強力打線に、打順はあまり関係ない。
6回裏には、1番打者から猛攻が始まる。先頭の1番鈴木悠太が一塁手の頭をライナーで越える二塁打で出ると、2番郡は四球、3番中道が右翼に逆らわない打撃の二塁打で、鈴木が生還。ここで二松学舎大附は先発のエース・大黒 一之から1年生の大江 竜聖に代わった。4番浜田弘幸は大江の初球を、右打席から右翼方向をしっかり狙って打ち、二塁打。郡が還って、この回2点目。
エース・大黒が退いた上に、代わった1年生・大江の不安な出だしもあり、スタンドからは、今回も二松学舎大附はだめか、といった声がもれてくる。
それでも大江は、続くピンチを得意の変化球で乗り切り、かろうじてゲームを崩すことはなかった。
そして迎えた7回表二松学舎大附の攻撃。観衆を驚かす一発が飛び出した。5番岡田 浩輝の中前安打、6番秦 匠太朗の四球による一死一、二塁のチャンスで打席に入った1年生捕手の今村 大輝が叩いた打球は、一瞬左飛にも思えたが、打球は意外と伸びて、ギリギリでスタンドに入る3ラン本塁打となった。これで同点。球場の雰囲気はがらりと変わった。
それでも帝京はその裏、先頭の8番小幡が左翼フェンス直撃の三塁打で出塁。一死後1番鈴木が初球を打って右前安打。小幡が生還し、勝ち越した。しかしながら、続く郡の捕邪飛を、今村がバックネットまで追いかけ好捕。その間一塁走者・鈴木は二塁に進塁した。
ファールエリア深くの打球を追いかけて捕球しても、一塁走者の進塁を許すだけだという見方もあると思う。しかし、理屈抜きに、ただひたすら球を追いかける、1年生の溌剌としたプレーが流れを変えていく。
8回表二松学舎大附は、左前安打で出塁した末松が三塁に進み、4番小峯 瑛輔が打った三遊間を抜けそうな打球を、帝京の三塁手・鈴木が飛びつくも、内野安打となり、末松が還り、同点に追いついた。
交代したばかりの時は打たれた大江であるが、次第に変化球が冴え、130キロ程度の速球も、球威を増してきた。一方の帝京は、エース・清水 昇が1人で投げ抜いてきた。そして延長戦を迎える。
10回表二松学舎大附は一死後2番北本が左前安打。一塁走者北本が少しスタートを切ったところで、3番竹原が低めの球を叩くと、左中間をライナーで破る三塁打となり北本が生還、決勝点を挙げた。
10回裏は、大江が帝京の攻撃を3人で抑え、悲願の夏の甲子園大会、初出場を決めた。
二松学舎大附は、もともと力のあるチームであったが、優勝の最後の一押しとなったのは、大江―今村のバッテリーや、二塁手の三口といった1年生の躍動であった。さらに、今まで不動の5番であった秦を6番に下げ、5番に定着した2年生の岡田といった新戦力が活躍したことも大きかった。
それにしても、センバツは準優勝を含め4回も出場しているのに、夏の甲子園は遠かった。二松学舎大附が初めて決勝戦に進出したのは、東京がまだ1代表の時代であった1971年だ。この時は、保坂英二という速球投手擁する日大一に敗れた。東京は東西2代表になった40年前も、最初の東東京大会決勝戦で、後に広島の遊撃手として活躍する高橋慶彦投手擁する城西に敗れた。その他にも、ほぼ手中にしていた優勝を、もう少しのところで逃したこともある。
それでも、年によって戦力の起伏はあるものの、二松学舎大附は毎年のように優勝を狙えるチームを作ってきた。その成果が、過去10回の準優勝であり、その先にあったのが、今回の優勝である。特に今の2、3年生は、昨夏は決勝戦で敗れ、秋季大会も決勝戦で延長戦の末に敗れ、あと一歩のところでセンバツ出場を逃していた。
一方決勝戦で敗れた帝京は、秋季大会は初戦でコールド負けしている。西東京代表の日大鶴ヶ丘もコールド負けしているものの、全国区の強豪の惨敗は、大きな衝撃だった。帝京はこの1年、この惨敗を原点に戦ってきた。準決勝に進出した春季大会でも、前田三夫監督は、「まだ、まだ」という言葉を繰り返していた。ただ勝ち上がるにつれ、「まだ、まだ」という言葉の中にも、手ごたえを感じるようになっていたと思う。
二松学舎大附にしても、帝京にしても、負けをしっかりと受け止めてきた、良き敗者としての歩みがあればこそ、夏の東東京の優勝を争うことができた。
二松学舎大附は、初となる夏の甲子園で、自分たちの歴史を築いてほしい。その一方で、敗れたチームの1、2年生は、来年の夏に向けた戦いが既に始まっている。この夏、大敗したチームも、惜敗したチームも、来年の勝利を目指し、まずは良き敗者になってほしい。
（文＝大島 裕史）
