2014年6月7日に開票イベントが開催された「AKB48 37thシングル選抜総選挙」。今年もまた、写真の椅子をめぐって、メンバーたちが競い合った。
きょう、6月8日にはきのうに続き味の素スタジアムにてAKB48の大島優子の卒業セレモニーが、そして翌9日には秋葉原のAKB48劇場で卒業公演が予定されている。

写真拡大

昨日、東京調布市の味の素スタジアムにて、AKB48の37枚目のシングルを歌うメンバーを、ファン投票で決める「AKB48 37thシングル選抜総選挙」の開票イベントが開催された。昨年1位の指原莉乃の連覇を渡辺麻友が阻み、選挙を制したことはすでに周知のとおり。

今回の選抜総選挙の結果で注目すべきは、上位争いばかりではない。まず、昨年から続くAKB48初期からのメンバーのあいつぐ卒業、それからこの春に実施された大組閣(グループやチーム間でのメンバーの大量異動)を反映するような、アンダーガールズ以下(17位〜80位)のメンバーの入れ替わりの激しさに驚かされた。

今年は発表順位が80位まで拡大されたせいもあるが、前年圏外のメンバーがこれほどランクインしたのは、2009年に「選抜総選挙」が始まって以来ではないか。37thシングルのカップリング曲を歌う4グループのうち、アップカミングガールズ(65〜80位のメンバーで構成)・フューチャーガールズ(49〜64位)・ネクストガールズ(33〜48位)ではそれぞれ8人が、アンダーガールズ(17〜32位)では3人が昨年圏外からのランクインとなった。その中心はやはり若手メンバーである。AKB48からは、高橋朱里(28位)・加藤玲奈(32位)・小嶋真子(36位)・岡田奈々(51位)・西野未姫(62位)・内山奈月(63位)・岩立沙穂(66位)・大島涼花(80位)が入った。姉妹グループからも、SKE48の二村春香(34位)・岩永亞美(46位)・山田みずほ(54位)・古畑奈和(AKB48兼任。55位)、NMB48の白間美瑠(43位)・小谷里歩(AKB48兼任。61位)と、それぞれの次世代のホープと目されるメンバーがランクインしている。

そのほか、73位の矢方美紀(SKE48)や78位の宮崎美穂(AKB48)のように2年ぶりに返り咲いたメンバーもいれば、40位の木下有希子、74位の阿比留李帆(いずれもSKE48)、71位の田名部生来AKB48)のように選挙に過去4〜5回参加しながら今回初のランクインを果たしたメンバーもいる。田名部がステージで涙ぐみながらの「あの、ドッキリでしょうか!? 夢のようです」との第一声には実感がこもっていた。オタクカルチャーに造詣の深い彼女は、ここ数年、ソロで趣味に関する仕事も増えつつある。自身もそれをアピールしてきた。今回のランクインはそれが功を奏してのものであることは間違いない。

■HKT48メンバーの大躍進
姉妹グループ、とくに福岡を拠点とするHKT48のメンバーが躍進したことも特筆される。前出の指原に加え、宮脇咲良が11位で初めて選抜メンバー入りを果たしたほか、アンダーガールズに兒玉遥(AKB48兼任。21位)・森保まどか(25位)・朝長美桜(AKB48兼任。27位)、ネクストガールズに田島芽瑠(38位)・穴井千尋(39位)・多田愛佳(42位)・本村碧唯(48位)、フューチャーガールズに坂口理子(60位)・松岡菜摘(64位)、さらにアップカミングガールズに村重杏奈(67位)・駒田京伽(79位)と計13人がランクインという大躍進であった。この躍進にはHKT48劇場の支配人も兼任する指原莉乃が、この1年のあいだに熱心に各メンバーをアピールしてきたことも大きい。

指原にかぎらず各グループの中核となるメンバーは、グループ全体に責任感を抱いている。そのことは、総選挙のあいさつにも表れていた。NMB48の山本彩(6位)は、今回の総選挙で選抜入りを果たしたのが、その発表時点で自分だけだという事実(その後、3位にAKB48と兼任の柏木由紀が入ったが)に触れ、「NMBというグループが私は大好きなので、もっともっと全国に全世界に売り出していきたい。(自分が)先頭に立って、引っ張っていきたい」とあらためて決意を表明。またSKE48・乃木坂46兼任の松井玲奈(5位)は、「SKEは今年は大全国ツアーをやりたいと思います。待っててください!」とスピーチを結んだ。

■事件の影響
今回の選抜総選挙を振り返るうえで、どうしても外せないのが、先日の岩手県内での握手会で起こった事件だ。ランクインしたメンバーのスピーチにも、事件に直接言及するしないにかかわらず、その影響をうかがわせる言葉が多々あった。

たとえば、10位となった須田亜香里(SKE48)は、雨降りにもかかわらず、ステージの屋根のかかった部分より前に出てあいさつした。事件後、劇場公演でも前列を空け、できるだけメンバーと観客を遠ざける処置がとられている。須田はそうした事態を踏まえて、あえてファンとの距離を縮めて語りかけようと思ったのだろう。いかにも握手会での“神対応”で知名度を上げた須田らしい。

3位の柏木由紀(AKB48・NMB48兼任)はより直接的に、握手会は「直接応援して下さるみなさんの目を見て、触れ合って、パワーをもらえる、特別な場所」だとして、「私が言える立場にはないし、いろんな問題があるのはわかっています。でもみなさんと直接会える場所をなくしたくはありません」と訴えた。もともとAKB48に入る前から熱心なアイドルファンで、アイドルとファンの交流の場の大切さを実感している柏木ならではの発言だ。

しかし何といっても、今回の事態の大きさをより感じさせたのは、AKB48の残り少ない1期生の一人で、今回8位に入った小嶋陽菜のスピーチである。

ステージで彼女から「AKB人生に悔いはない」との言葉が出た瞬間、昨年の開票イベントでの篠田麻里子の卒業発表を思い出したファンも少なくないだろう。だが、続いて飛び出したのは「私、小嶋陽菜はここで……卒業発表しようと思いましたが、しませーん(笑)」という、まさかの卒業“延期”宣言だった。さらに驚かされたのが、その理由の説明のなかでの「先日、AKBにとって色々なことがありました。私はもうちょっとだけここにいて、私にできることをやろうと思いました」との発言だ。おっとりとした性格で、自分から攻めていくタイプではないはずのこじはるをしてそう言わしめるとは、やはりただごとではない。

メンバーの決意表明は素直に歓迎したいし、そうすべきなのだろうが、彼女たちがそんな決意をするにいたったそもそもの前提が、あのような理不尽な事件だったというのが、やはりファンの一人としてはくやしくもある。

今回の事件の被害者のうち川栄李奈AKB48)は、16位で選抜入りしたのを受けて、ステージに先の握手会以来初めて表舞台に現れ、喝采を浴びた。被害に遭ったもう一人、入山杏奈AKB48)も電話でコメントを寄せ、ひとまず安心した。それでも、川栄が「元気です」と回復をアピールするたびに、まだ無理はしないでほしいと思ったのも正直なところだ。

■競争と協調と、そして…
フジテレビの総選挙特番の終わりで、ゲスト出演した大島優子(AKB48卒業予定)は、「(開票発表のあとでメンバーの)みんなが称え合ってる、協力し合っているのがAKBだと思った」と感想を述べていた。

大島のその言葉を聞いて、ふと「言い訳Maybe」のミュージックビデオ(YouTubeのAKB48公式チャンネルでも見られる)を思い出した。そのMVでは、メンバーが自転車で競走を繰り広げるのだが、最後、競うのをやめて、みんながゴールのラインを前に一直線に並ぶ。

「言い訳Maybe」は、2009年の第1回の選抜総選挙で選ばれたメンバーによるシングル曲だ。だからこそ、メンバーが激しい競争を繰り広げた最後の最後で、一列に並ぶMVの展開は意味深いといえる。もっとも、あのラストシーンには、メンバーの一人(秋元才加が演じた)が、それと気づかないまま一人ゴールに滑りこむという、予定調和を崩すオチも用意されていたのだけれども。

競争と協調を両立しつつ、けっして予定調和では終わらせない。そうしたAKB48の精神は、9年前の結成以来貫かれている。指原莉乃が1位となった昨年の総選挙は、絵に描いたように予定調和が崩れた結果となった。それに対し、王道アイドルの渡辺麻友が1位となった今年の選挙は「『予定調和で終わらないのがAKB』という予定調和を崩した」とでもいえるだろうか。いや、これまで後輩キャラのイメージの強かった渡辺が、「これからは、後輩たちが私の背中を見て、この先輩についていきたいと強く思ってもらえるような、そんなメンバーになりたい」と語ったのは、十分に意外だったわけだけれども。

渡辺はまた、自分は「AKB48グループの未来を見上げる」とも語っていた。その未来が明るいものであることを、やはり祈らずにはいられない。
(近藤正高)