内川家。 赤澤竜也著 飛鳥新社

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書評

 ソフトバンクホークス・内川 聖一選手の、幼少からプロ野球選手として活躍する現在の姿までを、家族という視点でまとめた心温まるノンフィクションです。

内川家。 赤澤竜也著

 ビックリするほど野球熱心な父、理解ある母、努力家の弟に囲まれ、野球が好きで好きでたまらないという聖一選手のさまざまなエピソードが心を打ちます。読んでみると「今どきこんな家庭が存在するのか!?」と思うほど漫画チックで、さながら現代版「巨人の星」といったところでしょうか。

 父が指導する高校で野球をしたいという聖一選手に対し、「ほかの選手と五対五の実力だったらお前を使えない。レギュラーになりたかったら八対二か九対一くらいの力の差を示せ」と親子で野球をする厳しさを伝える父・一寛。親子の縁を切ってまで入部し、それこそ理不尽なことにも耐えながら野球に取り組む聖一選手。

 そして兄の後を追うように同じ高校に入部する弟の洋平、そして野球漬けの毎日を支える母・和美。いつしか「家族みんなで甲子園」というのが大きな夢となり、その夢に向かってそれぞれが前に進んでいく姿は、読んでいる私でも「ああ、何とか甲子園に行かせてあげたい」と思うほどです。 親子でプレーする選手も少なくないと思いますが、その厳しさは経験したものにしかわからないのかもしれません。

 その後、プロ野球選手となった聖一選手は常に「レギュラー候補」と言われつつも、レギュラーポジションを獲得できずに年数を重ねるのですが、ある出会いが彼の打撃センスを開花させることとなります。そして、球界を代表するプロ野球選手となった聖一選手に訪れた大きな試練・・・。 WBC日本代表として選出され、迎えた準決勝で痛恨の走塁ミスをしてしまいます。敗戦は彼だけの責任ではないはずなのに、一番目立つ場面でのプレーだっただけに責任感の強い聖一選手にとってはつらいものとなりました。

 そしてそんな彼を支えたのは家族であり、多くのファンの暖かい言葉でした。「見えない人に支えられている」と確信した聖一選手は、日を置かずあの走塁シーンのVTRを何度となく見直します。「自分のやったことは自分の責任。(中略)どこが悪かったのかを直視したうえで、改善するポイントを見つけだす。そうでないと前に進むことはできない」(P217より引用)。

「いつまでこんな苦しい日が続くんだろうって思います。でもプロってそういうもの。怖さから逃げようとする自分を引き戻すべく、毎日戦っています」(P227より引用)と語る聖一選手。彼の原点を探る家族の物語は、野球にたずさわる皆さんにとって励まされることも多いはず。ぜひ読んでみてくださいね。

【内川選手のインタビューもチェック!】2012年12月04日公開(前編)2012年12月09日公開(後編)

(書評:西村 典子)