吉井理人の投究論 第10回

 プロ野球は春季キャンプが始まってから2週間が過ぎ、各チームとも実戦形式の段階に入ってきました。いろいろな投手の情報を聞きますが、僕が今年注目しているのが、日本ハムで投手コーチをしていた時の教え子でもある斎藤佑樹です。

 今回のキャンプで彼に求められるのは、とにかく結果です。去年の故障明けからどんな状態でキャンプに臨んでくるのか注目していましたが、2月2日にブルペンで60球近く投げました。これが意味するものは、キャンプまでの準備をしっかりやってきたということです。その姿を見て、ホッとしたと同時に、今年に懸ける彼の思いが伝わってきました。

 斎藤を含めたすべての投手に言えることですが、シーズンオフの過ごし方は本当に大事です。最近は以前よりシーズン開幕が早くなっているので、その分、キャンプでは早く仕上げていく必要があります。つまり、キャンプインから投げ始めるのでは遅い。自主トレできっちり練習しておかないと、手遅れになります。

 特に若手はシート打撃や紅白戦で自分の実力を発揮し、オープン戦で結果を出して、初めて出場機会を得られます。斎藤も去年は1試合しか登板していないので、先発ローテーション入りするにはキャンプ、オープン戦でのアピールが不可欠になります。そういった意味で、2月8日の紅白戦に先発して2回を2安打1失点。15日のDeNAとの練習試合でも先発して1回を無安打無失点と好投したことは、まずは第一段階をクリアしたと言っていいでしょう。

 そしてこの時期、結果とともにもうひとつ大事なことがあります。それは、自分のフィーリング、打者との感覚をどれだけ取り戻すことができるか、です。特に斎藤の場合、昨年はケガの影響もあって、実戦で投げたのは数試合ほど。まだフォームにばらつきがあり、本来の調子を取り戻すにはもう少し時間がかかりると思います。とにかく、シーズンに向けて重要なことは、無意識のうちに正しいフォームで、それも繰り返して投げられるようになっていなければいけません。そのためにもキャンプでの反復練習、つまりある程度の投げ込みが必要になります。

 ブルペンでの球数ですが、1回で200〜300球を投げる必要はありません。僕は現役時代、キャンプインからオープン戦が始まるまでにトータルで800球くらい投げていました。日本ハムにいた時のダルビッシュ有も、大体それぐらいでした。たくさん投げる選手でも、1000球を少し超えるくらいが目安だと思います。

 よく新聞などで「キャンプでの目標は2000球の投げ込み」などという文字を目にすると思いますが、ハッキリ言ってそれはやりすぎです。疲れた状態で投げるとフォームを崩す原因となり、球数を投げることが目標になってしまうと、集中力が続かなくなり、ケガにもつながります。

 日本ハムのコーチ時代にも、フォームが崩れているのに「まだ投げたい」と言う投手がいました。その時は、「こうなっているけど、それでもいいの?」と、無理に止めさせることはなかったのですが、今の状態を教えてあげることはしていました。吉川(光夫)だけはボールを取り上げて、投げさせないようにしていましたが......(笑)。彼はきっちりと仕上がっているのに、不安があるのか、とにかく球数を投げようとする。気持ちはわかるのですが、投げ過ぎて良くなることはありません。

 その点、斎藤は自分自身の状態を判断できる力もありますし、自分で考えて練習できる選手です。そこは心配していないのですが、故障明けのシーズンということもあり、多少なりとも不安はあるでしょう。

 昨シーズン、斎藤は「腕が振れない」と感じていた時期もあったようですが、プロにはそういうピッチャーがたくさんいます。調子が悪くなった時、「どういう腕の振りをしていたのかな?」と、つい考えがちになってしまう。でも、意識すればするほど、悪い方向にいってしまいます。実は、大事なのは、腕を振るまでの動作なんです。腕が振れないピッチャーというのは、腕を振るまでの段階でどこかにひずみがあり、うまく投げられない場合がほとんどです。その原因として考えられるのが、軸足への体重の乗せ方と、右投手なら左側の体の使い方です。しっかりと軸足に体重を乗せて、肩の開きを抑えることができれば、体重移動もスムーズにできますし、しっかりと腕も振れるようになります。斎藤も、そこを意識してほしいですね。

 最後に、今季の斎藤は中継ぎで起用するという話もありますが、体のことを考えたら、先発の方がいいのではないかと僕は思います。リリーフはどうしても体に負担がかかるので、故障明けの斎藤には、正直厳しいと思います。例えば、僅差で勝っているゲームの1イニング限定なら何とかやっていけると思いますが、日本はまだそうした起用法は確立されていません。それにリリーフは、試合に投げるだけでなく、ブルペンでも肩を作らなくてはいけません。1年を通して考えると、相当な球数になってしまいます。とにかく、オープン戦で結果を出し、先発ローテーションの枠を手にしてほしいですね。

小池義弘●文 text by Koike Yoshihiro