昔ながらの風情とゲームの世界が融け合う街
約10年ぶりに足を運んでみた温泉街は、昔懐かしい街並や風情は変わらない一方で、旅館の軒先や玄関付近・土産物屋などに見慣れないモノが並んでいた。
それは、人気ゲーム『モンスターハンター』の暖簾やポスター、「アイルー」というキャラのせんべいやサブレ、コラボＴシャツ、バスタオルなどの数々のコラボグッズである。
そもそもは、モンハンのゲーム内に温泉が出てくることから、カプコンが温泉地とのコラボを企画。200カ所以上の温泉地の中から「イメージにピッタリ」ということで渋温泉が選ばれたようだ。
そういえば、長野電鉄の特急に、車両をラッピングした「スノーモンキー」号があったり、モンハンのオリジナル缶バッジなども販売されていたりしたけれど、一連のコラボだったのか……。
アニメの巡礼地やアニメによる町おこしは近年多数あるけれど、ゲームはちょっと珍しい。何より面白いのは、全く異質なゲームの世界と、昔ながらの温泉街が、違和感なく融け合っていることだ。
渋温泉にはそれぞれ効能の違う「外湯」が９カ所あり、宿泊者は旅館から木札の鍵をもらって9カ所を巡る＆手拭いに各所でスタンプを押すが、これがうまい具合に「モンハンバージョン」にも応用されている。
「モンハン九頭巡り」として、従来の外湯スタンプ台の傍らに、実に自然に「オトモアイルー像」とスタンプ台が設置されており、順番にまわるとストーリーになっているのだ。
また、昔から各旅館の浴衣＋下駄で外湯めぐりをするのが一般的な楽しみ方だが、そうした中によく見ると「モンハン浴衣」の人が混ざっていたりする。
昔からある射的ゲーム場や土産物屋などの近くには、ゲームができる「集会所」なるものがあり、「今ならすぐ狩れます」などと書かれた看板を掲げている人が表で案内をしていた。
また、「ハンター露天風呂」「モンハン屋台村」「モンハンバス」などもある。かなり本気度の高いコラボであり、モンハンファンには大満足の内容になっているようだ。
ところで、興味深いのは、そうしたゲームファン層が大量に訪れるようになっているにもかかわらず、温泉街はパッと見、全く変わっていないこと。
昔から温泉地に通うお年寄りなどが何の違和感もなく、モンハンＴシャツやモンハンせんべいを普通のお土産品の感覚で手にとってみていたり、モンハンのゲームが流れる画面をじーっと面白そうに眺めていたりする姿もあった。
旅館に掲げられた暖簾もグッズも、萌え絵のアニメなどと違い、キャラクターに違和感がないせいもあるのだろうか。
新しい顧客を獲得するためには、新しい企画が必要で、それによって従来の顧客が離れてしまうのは、どの業種にもよくあること。
だが、この温泉地では昔から変わらない風情と、ゲームの世界とが、実にしっくりと溶け合っている。非常に珍しい「幸せな出会い」ではないかと思った。
（田幸和歌子）
