今やスコットの代名詞ともなった長尺パターはさながら魔法のステッキだ(Photo by Darren CarrollGetty Images)

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 米ツアーは早くもレギュラーシーズンが終了し、トッププロたちは4試合に渡るプレーオフシリーズに突入している。フェデックスカップランクでも世界ランクでも現在1位につけているのはタイガー・ウッズだ。今季すでに5勝を挙げたタイガーがプレーオフ4試合で好プレーを続け、フェデックス王者に輝くことができるかどうか。
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 だが、その注目は、タイガーが物理的に10ミリオンを取るか逃すかと言うことよりも、タイガーが本当の意味で完全復活と言えるかどうかを判断するための注目みたいなものだ。
 タイガーは今季5勝を挙げているものの、肝心のメジャーは勝てずじまいだった。メジャーに勝てないタイガーは、かつてのタイガーと同じ強いタイガーと言っていいのかどうか。年間5勝はメジャー0勝に匹敵するのか、上回るのか、下回るのか。このプレーオフシリーズでさらに勝利を挙げたら、タイガー完全復活?フェデックスカップの王者になれば、タイガー黄金時代?
 そんな「?」の数々に決着を付ける意味で、タイガーが今週のバークレイズを制することを切望するファンや関係者は多かった。そして、その可能性は限りなく高かった。だが、またしてもタイガーはファンの熱い期待に応えることができずじまいに終わってしまった。
 最終日。今季のメジャーチャンプ3人が揃って猛追をかけた姿を見て、好調であることの強さ、メジャーを制して得られる自信の大きさとその影響を感じずにはいられなかった。全英オープン覇者のフィル・ミケルソンが6アンダー、65をマークして6位へ浮上したと思ったら、マスターズチャンプのアダム・スコットが5アンダー、66で単独首位へ浮上し、全米オープンチャンプのジャスティン・ローズもスコットを追いかけてきた。
 一方のタイガーは前半の3バーディを後半の3ボギーで帳消しにして意気消沈。上がり3ホールすべてでバーディを奪えば、スコットとのサドンデス・プレーオフという状況下、16番と17番でバーディを奪い、18番に望みをつないだところは、さすがだった。
 が、フェアウエイを捉えていながら8Iによる第2打で「あんなに飛んでしまうとは思わなかった……」と、あっさりグリーンを外すところが今季のタイガーの象徴。グリーン外からパターを握った第3打は、ラインに乗り、カップに向かっていったけれど、カップのぎりぎり手前で止まってしまい、タイガーもファンも、みな頭を抱えて悔しがる。それもまた今季のタイガーの象徴だった。
 ローズ、タイガー、ゲーリー・ウッドランド……。スコットを捉えるチャンスに到達した選手は居たというのに、あと一歩のチャンスをモノにできた者は誰一人おらず、結局、スコットが逃げ切り優勝。サドンデス・プレーオフに備え、すでに練習場に身を置いていたスコットは屋外モニターで自らの勝利が決まったことを確認し、キャディのスティーブ・ウイリアムスと抱き合って喜んだ。
 思えば、昨年の全英オープンでも、それ以前のメジャーやビッグ大会でも、スコットはしばしば、あと一歩のチャンスを逃し、勝利を逃してきた。だが、今年、マスターズを制し、ついにメジャータイトルを獲得したら、スコットは最後のチャンスを「逃す人」から「生かす人」へと、すっかり変貌。そして、いつしか他選手たちを「ラストチャンスを逃す人」へと変えている。
 それほど大きな変貌、変身を遂げているというのに、スコット自信は「いやあ、信じられない。いいプレーができたとは思っていたけど、まさかここでこうして勝てるなんてね」と屈託のない笑顔。それをスコットの魔法と呼ぶとしたら、タイガーもスコットの魔法にやられ、最終ホールでラストチャンスを逃し、肩を落としたと言えるだろう。
 その年にメジャーを制したか、否か、そこからどれほど自信を得たか、否か。その自信に裏打ちされたプレーができるか、否か。その有無が、今日の最終日に猛追をかけた3人のメジャーチャンプとタイガーとの差。そして、最後に笑ったスコットと最後に唇を噛んだタイガーとの違いだった。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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