アザラシやイルカのあんな顔やこんな顔まで？ 水族館のアイドルたちを激写！
「生き物の動きが速すぎて写真がブレる」「写真が暗くて生き物の姿がよくわからない」「ショーで一瞬しかないシャッターチャンスを逃してしまった」etc。
生き物の動きが速く、暗い場所の多い水族館での撮影はけっこう難しい。
いまは水族館の生き物たちをとらえた写真集などもたくさん出ているが、その中でも異彩を放っているのが、写真集『おたる水族館のいきものたち【新版】』を出版した神前（こうざき）和人さんの作品だ。
神前さんはプロのカメラマンではなく、北海道のおたる水族館でトドやアザラシ、セイウチなどを担当する海獣トレーナー。そのカメラがとらえる生き物たちは今にもしゃべりだしそうなほど愛嬌のある表情をしていたり、撮影者と目線を合わせてのどアップなどユニークなアングルのものも多く、水族館業界でも「写真家飼育員」として高い評価を得ている。
「水族館の館内はとにかく暗くて、シャッタースピードがかせげないことが難しいところ。水槽内のできるだけ明るい場所を探して、そこに撮りたい生物が来た時に撮影しましょう！ カメラの設定は“スポーツモード”がオススメです。ブレないように、水槽のガラス面にカメラをしっかり押さえつけるのも効果的。ある程度カメラやレンズを使いこなせている場合は、F値2.8以下の明るいレンズを使ったり、ISO感度を上げてシャッタースピードを最低でも1/50くらいは確保したいですね。暗くて上手く撮れない時は、フラッシュ禁止の場所でなければフラッシュを使った撮影法もありますが、光がアクリルガラスに反射してしまうので相当な技術が必要で、あまりオススメはできません。ちなみに僕のカメラの設定はプログラムオートで、カメラまかせのことが多いです。ピント合わせはほぼ100％オートで、レンズは水槽を撮るときはＦ値2.8（例：シグマ18-50 Ｆ2.8など）のものを使っていますが、その他は高倍率ズームレンズ（例：タムロン18-270 Ｆ3.5-6.3など）がほとんどですね」
水族館ならではの暗さ対策に加えて、特に海獣の場合はお客さんと生き物たちとの距離が離れている場合が多いため、カメラのズーム機能を使いこなしたり、ズームレンズを追加することで“決定的瞬間”が押さえやすくなるとのこと。先に挙げた写真集でも、アザラシの背中に乗って優雅にサーフィンするウミネコ（写真）や、イルカのジャンプの瞬間を俯瞰の角度からとらえたものなどインパクトのある作品が多いが、神前さんが生き物たちを撮影する際のこだわりはというと…？
「『あっ！』と思ったら、とりあえず撮ること。海獣たちのちょっとした仕草、いつもと違う表情、そんなちょっとした変化に気付けたらシャッターチャンスです。もう二度と巡ってこないかもしれませんから、その直感を信じて一眼レフが手元になくてもスマホ、コンデジなど何でも使って撮影しています。“いつもと違う”と感じられる様に、生き物をたくさん観察することが何より必要なのだと思います」
そして毎日水族館に通っているわけではない私たちでも、この生き物たちの“いつもと違う”姿をおさえるためのヒントを教えてもらった。
「“種”として見るだけでなく、1頭1頭をよく観察して、外見の特徴や性格の違いといった“個”の魅力を探すこと。例えばゴマフアザラシなら、『ゴマフアザラシ』として見るのではなく『このアザラシは他の個体にくらべて目がまん丸だ』『このアザラシは餌を横取りするくらいやんちゃ』という具合に、個体それぞれのよいところを探します。また、写真を撮るのに機材や技術はもちろんですが、それだけにこだわらず自分自身が楽しんで写真を撮ることが大切です。少々ブレていても、ピントが甘くても、それも“自分の感性が生み出した、自分にしか撮れない写真”なのですから。『どうしたらよい写真が撮れますか？』と尋ねられる事がありますが、その方の写真を見せてもらうと、僕にはない視点で撮られたものばかりで、逆にこちらが質問したいことや、この視点はいいな〜と勉強させてもらうことの方が多々あるんですよ(笑)」
私たちもある意味、名カメラマン（？）になれる可能性があるわけで、そう言われるとちょっと写真を撮ってみたくなるもの。ちなみに、水族館のある地域によっても異なるが、ペンギンやアザラシなど水族館の人気者たちを撮影するのに適した時期はいつ頃なのだろう？
「一年を通していい表情を見せてくれることはありますが、野菜や果物に旬がある様に、海獣達も季節によってより魅力的に撮影できる時期があります。おたる水族館にいる動物を例に紹介すると、ゴマフアザラシなら脂肪がたくさんついていて、雪が降っている冬（12〜3月）か、新しい毛に生え換わった後の初夏（7月頃）がオススメ。赤ちゃんはフワフワの白い毛で覆われている時期（3月下旬〜4月中旬の生後2週間以内）がかわいいですね。トドなら、大きなオスのトドを撮影するには発情期でもある初夏（6〜7月）。体が大きくてたくましい姿を撮影できます。アザラシ同様に、冬も非常によい体型をしています。全国の水族館でよく見かけるフンボルトペンギンは、羽が抜け換わった後の9月頃がとてもきれいな体をしていますよ。あと、くちばしがオレンジ色のジェンツーペンギンは冬（12月〜3月）がいいですね。北海道などの雪国ならではの地域＆季節限定ではありますが、特に雪が降っている中では本当に生き生きとしています」
ちなみに、神前さんが働くおたる水族館の「海獣公園」は、トドやアザラシなどの飼育数が多く、自然の海をそのまま仕切った様なプールでの展示になっているため、日本一海獣たちを撮影しやすい水族館といっても過言ではないのだとか。これからの季節、おたる水族館ではアザラシやトドが元気いっぱいに魚を食べる姿が見られる給餌体験（連日実施）や、10/12（土）〜14（月）限定でイルカのトレーナー体験など飼育員の目線で生き物たちとふれあえる「おもしろ体験教室」などのイベントが行われる。写真集を見るだけでは満足できない方はぜひ、カメラを片手に“海獣パラダイス”のおたる水族館に足を運んでみてはどうだろうか。
（古知屋ジュン）
