2012年12月28日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

MacBook Airのデスクトップ版を狙う

2009年に外装が総アルミとガラスに変更されて以来、3年ぶりのフルモデルチェンジを受けたiMac(Late 2012)は、従来のイメージを踏襲しながらもエッジ部分で5ミリという薄さを実現して登場した。

これは、デスクトップマシンでありながら光学ドライブを省くという大胆な仕様によって可能になったフォルムだが、実際にはソニーのVAIO Tap 20も同様に光学ドライブを内蔵しない設計になっている。

10点マルチタッチ対応で、平らに置いて使えるテーブルトップスタイルも実現したTap 20のほうが、使い方の提案という意味ではiMacより革新的な面もある。だが、11インチ以上のディスプレイでのタッチ操作は現実的ではないと考えているフシがあるAppleは、より一般消費者にアピールしやすい薄さと基本性能の充実という属性に着目したデザインで攻勢をかけた。

BCNによる2012年11月26日の週のデスクトップマシンの集計によると、OS Xのシェアは14.4%に達し、結果的にAppleの製品企画の正しさが証明された形となった。

MacBook Airが、iPhoneからApple製品のユーザーとなった消費者を惹きつけてノートコンピュータの分野でリーダー的存在に登り詰めたように、同社は新型iMacでも同じ流れをつくり出そうとしているのだ。

チャレンジは○、遅れは×

そんなiMacの発売が当初の予定よりも遅れたのは、新たに摩擦撹拌接合を採用した筐体加工技術の確立や、ガラスとLCDを密着させたフルラミネーションタイプのディスプレイの歩留まり問題などによるものと考えられている。

摩擦撹拌接合は、高速回転する円筒状の工具を接合部分に押し当てることで生じる摩擦熱によって部材を軟化・流動させ、練り混ぜるように融合させる技術だ。接合部を溶解しないので熱歪みが生じにくく、火花も飛ばずに騒音も低減できるメリットがある反面、撹拌不足や気泡混入などの不良検出が難しいとされる。

航空機エンジンやロケットの燃料タンク製造ですでに確立された技術とはいえ、それらの場合には溶接跡にさほど美しさが求められるとは思われない。そのため、iMacのような滑らかな筐体の実現にはかなりの困難があったものと思われる。

個人的に、こうしたチャレンジ精神はAppleの存在価値のひとつと考えており、実際にも他社との差別化を図る大きなポイントとなるので、これからも大いにトライし続けてほしいところだ。

しかし一方では、iPhone 4のホワイトモデルもそうだったように、こだわりが過ぎて生産に遅れが出てしまうようであれば、前倒しで紹介することなく、安定して生産できる見込みが立ったところで発表すべきである。そうしないと、一般コンシューマの感覚では、いくら製品がすばらしくとも肩すかしを食らい続けているように見られてもいたしかたないだろう。

スペック表から抜けている最厚部

ところで、薄くなったiMacを見て、筆者は2004年のiMac G5の広告写真(http://www.vectronicsappleworld.com/ads/ads/imac/creators.jpg)を思い出した。あのときには、まだそこそこ厚みのあったiPodと並べて両者の近似性がアピールされ、「From the creators of iPod The new iMac G5」(iPodのクリエーターからiMac G5)の文字が添えられていた。

それに倣えば、今回のモデルチェンジはまさに「iPhone 5のクリエーターからiMac(Late 2012)」であり、もう一度、同じようなビジュアルで広告展開をしてもよいのではと感じた次第だ。

ただし、真横からの写真では最厚部が結構厚いことがわかってしまうのだが、ここまで書いてAppleの公式ページでサイズを調べようとしたところ、スタンドの奥行き情報はあっても本体部分の最厚部のデータが書かれていないことに気がついた(ちなみに、MacBook Airの場合には、きちんと「高さ:0.3〜1.7cm」の記述がある)。こういう「配慮」も含めて、さすがはAppleというべきなのである。

iMac
iMac

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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。