「RUN FOR YOUR LIVES」の公式トレーラーから。こんなふうに、野外でたくさんの人がたくさんのゾンビに追いかけられるイベントです。蛍光色のウェアは目立って狙われてしまうので、夜の路上では有用ですがゾンビ障害レースには不向き。服装選びからレースは始まっているんです!

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ゾンビ・ウォーク、人間対ゾンビごっこ(Human vs Zombies)など、アメリカにはゾンビにまつわるイベントがたくさんあるけれど、さらにもう一つのイベントが定番になりつつある。その名もゾンビ障害物競走(zombie obstacle race)。障害物があるコースを走っていると後ろからゾンビが追ってくるという、何とも直球でアメリカらしいけど、すごく楽しそうなイベントだ。大小さまざまな規模でほとんど毎月全米のどこかで開催されている。

ルールはシンプル。ベルトを締めて、3本の赤いひもをつける。このひもはランナーのいわばライフで、すべて失ったらたとえ一番にゴールしても失格だ。つまり、ランナーは追いかけてくるゾンビにこのライフを取られないように気をつけながら、障害を乗り越えて5キロ先のゴールを目指すことになる。

最初のゾンビ障害物競走は2011年10月、「RUN FOR YOUR LIVES」という名前でメリーランド州のボルチモアで開催された。始めたのは、ドラマ「ウォーキング・デッド」のファンでゾンビ愛好家のデレック・スミスとスポーツウェアメーカーを立ち上げたライアン・ホーガン。二人は小さい頃からの友達だった。ホーガンは自分の会社の販促のために、その頃アメリカで流行していたWarrior Dash、Tough Mudderのような(ゾンビが追っかけてこない、普通の)障害物競走を企画していた。話を聞いたスミスはこういった。「ゾンビに追っかけられたらもっと楽しいんじゃね?」

障害物競走もゾンビも人気があるからそこそこの参加者は見込めるだろうけど、正直思いつきだし1000人集まれば上出来と思っていたら、なんと1万人もの参加者が集まった。スミスはすぐ仕事を辞めて、ゾンビ障害物競走を企画、運営する会社を作った。

こう聞くと思いつきが大ヒットしてラッキーな人たちだな、と思ってしまうが、ゾンビ愛好家でオタクなスミスは他の障害物競走にはない様々な工夫をこらしている。たとえば障害物からして一風変わっていて、トンネルや煙にみたされて視界が悪い部屋、そして真っ赤に着色された泥。どれも普通のアスレチックにはないけれど、ゾンビ映画にありそうなシチュエーションを再現したものだ。さらにゴールまでのルートは複数あって自由に選べるし、中には行き止まりのルートもある。もちろんゾンビも追いかけてくるから、速く走れても行き止まりで取り囲まれればおしまい。後続を引き離していてもゴール間際でライフを取られて失格になるかもしれないから、最後まで気が抜けない。いくら脚が速くても、体力があっても、頭を使ってコースを攻略しなければ生き残ることはできない。

レースをこんなデザインにしている理由は、スミスが日頃運動をしないタイプの人も外に連れ出して、一緒に楽しみたいと思っているからだ。ゾンビ好きの多くは文化系だ。映画を観たり、ゲームをしたり、コミックを読んだりで、あまりこういうイベントには参加しない。それに従来の障害物競走はタイヤやロープを使ったいかつい障害物とひどく広大な泥の沼があって、体育会系でないと完走できそうにないハードなものだった(参加者もみんなレスラーみたいだったし、年間で数人だけど死者も出るレベル)。勝てる見込みがないからつまらないし、ゴールを遠く感じればへこたれる。でもゾンビ障害物競走なら、戦略次第で勝てるかもしれないし、ゾンビが後ろから追いかけてくるからイヤでも走ってしまう。それにどうしても走るのがしんどければ、ゾンビの格好をして、走るの大好きな体育会系のジャマをしたっていい(ゾンビの参加者にも種類があって、走っておいかける役とあまりつらくない待ち伏せ役がある)。このルールなら、体育会系でも文化系でもみんなで楽しむことができるのだ。

ランナーがゴールした後も、イベントは終わらない。泥だらけかゾンビメイクで血だらけかのどちらかで記念撮影をしていると、巨大なコップにつがれたビールが次々に運ばれてきて、ステージでロックバンドが演奏を始めて、世界の終わりのパーティ(apocalypse party)が始まる。そこではゾンビだろうが、赤十字(イベントのチャリティパートナー)だろうが、CDC(ゾンビ記事の人たちがときどき参加している)だろうが、一緒に飲んで騒ぐ。何せ世界の終わりだから、みんなで思い切り楽しまないとならない。そこではきっと、スポーツウェアメーカーの社長のホーガンとゾンビ愛好家のスミスのように、一見接点がなさそうな人たちが肩を組んでビールをあおっているんだと思う。(tk_zombie)