白がフッ素コート、青がチタン。このようにケースがついているため、いつでも鞄に放り込んでおける。

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もう何年も、少なくとも自分がその製品のことを知ってからほとんどデザインが変わっていないのでは? と思うような製品ってありますよね。個人的にはそういう製品のうちのひとつが「ハサミ」でした。

指を入れるハンドル部分。中央にある支点。まっすぐな刃が2枚。ハンドル(グリップ)部分の形状が違ったり、刃の部分の材質が違ったり、大きさが違ったりするものはあっても、基本的な仕組みは変わっていません。このハンドル部分を握ると、テコの原理でその力が刃に伝わり、刃同士があわさってその間にあったものが切れる、という仕組みです。非常に効率が良くかつ合理的な仕組みで、ほとんど変わらずここ何年も使い続けられていたのではないでしょうか。

このハサミですが、多くの方が「刃の根元」を使っていることと思います。基本的にテコの原理を使っているため、根元の方が力が入りやすいこと。さらに、ハサミは根元の方が角度が大きく、先の方が角度が狭くなります。角度が狭い方が切るためにより大きな力が必要になるのですね。この2つがあわさって、どうしても刃先だと切れ味が鈍るのです。途中までは気持ちよく切れていても、刃先の方にさしかかると「くにゃっ」とした手応えとともに、紙とかが切れずに刃と刃の間にはさまるような感じになったという経験をした方も多いのではないでしょうか。

そんな風にデザインにおいて変化が無いと思っていたハサミなのですが、今年の頭に発売された「フィットカットカーブ」というハサミがすごいんですよ! 従来の常識を覆すほど画期的なハサミなのです! まさにハサミ業界に起きた大革命と言ってもいいのではないでしょうか。このフィットカットカーブを知ると、今までのハサミはハサミじゃなかったんじゃないか、これこそが真のハサミなんじゃないかと思ったりもします。

いったいどこがどう従来のハサミと違うのか。それは刃部分です。ここがまっすぐでは無く、ベルヌーイカーブと呼ばれる曲線を描いているのですね。なので、この刃をベルヌーイカーブ刃と言います。

え? これだけ? と思うかもしれません。でもこれがすごいんです。この微妙なカーブのために、刃と刃の角度が常に一定になるんです。

従来のハサミだと刃がまっすぐなために、開いてから閉じていくと、どんどん角度が狭くなっていきます。そのため、同じ力でハサミを使っていると先端の方で「くにゃっ」とするのですね。ところが、この微妙なカーブがあると、根元だろうが先端だろうが、刃の開く角度が一定になるのです。これにより、ハサミのどこを使っても同じ力加減で切ることができるようになったというわけです。

ハサミを根元に当ててから、先端に至るまで、同じような力で切ることができるというのは、とても快感です。これができなかった従来のハサミというのは、実はとても扱いに習熟がいる器具だということがよくわかります。そういえば、右手用のハサミを左手で使うとうまく切れないという人ももいますが、それは普段何気なく使っている微妙な力加減が、利き手じゃない方を使うとうまくハサミに伝えられないということなのでしょう。

この同じ力加減で物を切ることができるというのは、紙よりも固いもので真価を発揮します。紙のように簡単なものでは多少力加減がうまくなくても切れてしまうのですが、例えば厚紙ですとうまく切れなかったりするからです。でも、フィットカットカーブだと、厚紙だろうと何だろうとものすごく気持ちよく最後までハサミを使って切れます。ハサミが物を切ることができるのは当たり前なのですが、今までのハサミはその当たり前があまりできていなかったということを思い知ります。先端で「くにゃっ」とせず、普通にばっさりと最後まで切れるのですね。

家庭でのハサミは、紙だけを切るわけではありません。薄いダンボールとか、厚紙の封筒とか、ビニールとか、紙パックとか、ペットボトルとか。人によっては草花のお手入れや布なども切ったりするでしょう。それら全てにおいて、このフィットカットカーブの方が気持ちよく切ることができます。

特に真価を発揮するのはビニールでしょうか。従来のハサミを使っている場合、ビニールをちょっと切りたい時とかには、ビニールをピンと張ってハサミの根元を使って切ることがほとんどだと思います。ところが、このフィットカットカーブだと、あまりピンと張っていないふにゃふにゃなビニールでも、ハサミの先端でスパスパ切れてしまうのです。これは本当にすごい。

ちなみに、根元の部分に関して言えば、従来のハサミの方が軽い力で切れたりする部分があります。これは単純に根元の部分の開く角度が従来のハサミの方が広いからです。フィットカットカーブでは、どこでも刃の角度が一定になっているので、根元の部分では従来のハサミの方が広い場合があるわけですね。なので、従来のハサミの根元の部分の感覚で全部の箇所が使えるというよりは、従来のハサミの真ん中よりちょっと根元よりの部分の力で、全体を使えるということになるでしょうか。

フィットカットカーブはいくつか種類が出ています。ハンドル部分が違うものとか、刃の向きが違っている左利き用のものを除くと、ノーマルのもの、フッ素コートのもの、チタンのものの3種類になります。フッ素コートはいわゆるテフロン加工みたいな感じで、粘着物がべとつかなく、汚れや錆に強い加工です。なので、ガムテープとかを切るのにとても向いています。チタンのものは、文字通りチタンを使っているため、耐久性が抜群です。50万回ほど紙を切っても切れ味が落ちないとか。

オススメなのはチタン加工でしょうか。フッ素加工のものと試してみたのですが、切れ味は明らかにチタンの方が上と感じました。お値段もちょっとだけ高くなりますが、それでもその恩恵は十分にあると思います。

一度使うと従来のハサミとは何だったのか思わず考えてしまい、今後のハサミは曲刃が主流になっていくと感じさせるこの画期的な「フィットカットカーブ」。今年もあと1ヶ月経つと、大掃除が待っています。薄手のダンボールを処分したり、雑誌や新聞を縛る紐を切ったり、一年のうちで最もハサミが活躍する時期がもうすぐやってきます。その際には、是非このフィットカットカーブを使ってみてください。驚くほど、大掃除(のあれこれ切る部分)がはかどると思いますよ!
(杉村 啓)