きのこって女の子っぽいよね。『少女系きのこ図鑑』は、そんな感覚を詰め込んだきのこの擬人化というよりも、少女をきのこ化した一冊。見た後にありとあらゆるきのこがかわいく見えてくる? 玉木えみ/DU BOOKS

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「きのこ」という単語を聞いたら何を連想する?
きっといろんな答えが返ってくると思うんだ。
おいしい。毒が怖い。気持ち悪い。じめじめしている。不気味。そして、かわいい。
どれも正解。きのこと共に人間は生きてきた。だからいろんな感情がある。

その中の「かわいい」を取り出したのが『少女系きのこ図鑑』です。
タイトルだけ聞くと、いわゆる「萌え擬人化」の一環に見えるかもしれませんが、違います。
いや、基本は「きのこをかわいらしく少女に擬人化した本」なので、萌えるんですけどね。でもねー、根っこが違うんですよ。

何が違うってきのこ愛なんですよこの本は。
「きのこ」と聞いてこの作者玉木えみは「かわいい」と感じ、一旦自分の中に取り込み、咀嚼し、少女というフィルターを通してアウトプットしているんです。
だから、この作品集は「きのこの少女化」というより「少女のきのこ化」といったほうがふさわしい。

少女はキノコに添えられるように、優しいタッチで描かれます。水彩画の儚さが、実にきのこらしい。
そうそう、これこれ。きのこって色々な感覚あるけど、「なんか不思議」「異世界的」なんですよ。

たとえばベニテングダケ。
毒キノコとして有名ですね。日本では怖がられる代表格ですが、ヨーロッパではその赤い色と奇妙な外見で、幸福のシンボルだったそうです。
だから、ベニテングダケそのものもかわいらしく描かれているし、少女も小さくやさしく、たくさんのリボンをつけたキュートな存在として描かれている。
なるほど、この作者には、こう見えているのか。

もちろん毒性の強いきのこは、それをきちんと描いています。
ドクササコというきのこは、食べると手足が腫れ上がり、焼け火箸をさしたような痛みが続く恐ろしいきのこ。死にはしないらしいですが地獄ですね。
これを作者はまた見事に描きました。不気味なドクササコの後ろに隠れているのは、和服で足に火箸の刺さった少女。
でも痛そうじゃなくて、むしろ虎視眈々と何かを狙うかのように、ニヤつきながらこちらを見ている。
実はドクササコは食用のカヤタケに似ているんです。
こっちおいでよ、とさそうかのような少女の視線。怖いのにかわいい。

おいしいきのこもいっぱい載っています。
たとえばハナビラタケ。
花びらのかたまりみたいな大きいきのこなんですが、これを「かわいい」と見た場合、そのイラストは華麗なドレスに!
気持ち悪さは一片もありません。1000メートルを越えたところに自生するこのきのこ少女、気品にあふれています。

じゃあ超メジャーな食用きのこ、ナメコは?
これが個人的にツボだったのですが、すごいくらいじめっとした部屋で体育座りしている少女なんですよ。
だぼだぼの上着にスパッツに裸足。顔が隠れるくらいの前髪。
ああ、これナメコだ。こっそりと増殖するよこの子。

他にも普段食卓にあがるものから、全然見たことも聞いたこともないものまでずらりと掲載されています。
「きのこ図鑑」としては不向きです。写真や精密画はほとんど載っていないので、これできのこ狩りに行く事はできません。
あくまでも、玉木えみのフィルタを通したきのこ達。ネットで検索しながら見るのをおすすめします。
多分、読み終えた頃には毒性きのこすらもかわいく見えてくるはず。

そういえば「森ガール」という言葉がありますが、きのこっていわば究極の「森ガール」の頂点ですよ。
生態が謎に包まれていて、森の中でも影でひっそりしていて、しずかに生えていて、独特な形をしていている。
究極の森ガールたちをきのこで表現したらどうなるか、というのを繊細なタッチで表現したような、そんなきのこ図鑑なんです。
きのこがひっそりしているのは、いわば恥じらい。なのに強い自己主張。
きのこ、かわいいなー。

(たまごまご)