獄中記の作者が語る「刑務所生活のリアル」




実際に刑に服した経験がない人間にとって、謎につつまれた「刑務所」という場所。世界における刑務所の歴史を辿ると、鞭打ちや投石など刑罰を受ける人間を事前に収容する場所としての場所は古代からあったものの、明確な「刑罰としての拘禁」は13世紀のヨーロッパにて宗教裁判で異端とみなされた受刑者を修道院に拘禁したのが最初と言われている。



現在、日本には67庁の刑務所があり(少年刑務所含む)、埼玉県秩父市の人口とほぼ同じ約65,000人の受刑者が収監されているが、いったい刑務所の中ではどんな生活が送られているのだろうか?人気ブログ「ギャングスタ侍」の書き手でもあり、十年間にも及ぶ自身の獄中生活を描いた『三獄誌 府中刑務所獄想録』(幻冬舎アウトロー文庫刊)の著者、茶話康朝氏に話を伺った。









「府中刑務所の六人部屋の雑居房では起床が6時半、6時45分に朝の点呼。7時から朝食を摂って、7時半には出房し工場で作業を始めます。正午に30分の昼食休憩を挟んで午後4時半に終業。夕食は午後5時からの40分。その後は午後9時の消灯までが読書をしたり、テレビを見たりする事ができる余暇時間です」と、刑務所における平日のスケジュールを説明してくれた茶話氏。作業は週休二日制で、休みの日は通信教育などが受けられるようだ。



「テレビは数少ない娯楽の一つでしたね。チャンネルは指定されているもののバラエティ番組を見る事もできました。でもあんまり大声で笑うと刑務官に減点されテレビの視聴禁止処分を受けるんです。また賭けの対象になるという理由で相撲は一日遅れのビデオのみ視聴可能でした」笑いに飢えた懲役生活ゆえ、どんなテレビもより面白く感じられるという。



限られた娯楽の中で最大の楽しみは読書だった。「舎房では一ヶ月に三冊までしか書籍を取り寄せられないのですが、それ以外にも刑務所図書館の本を借りて読むことも可能でした。図書館では何十巻もある長編小説をよく借りましたね。本を一冊読むたびノートを一ページ使って感想を書いていたんですが、十年の刑期を終えるまで分厚いノートを六冊使いました」感想を記したノートも全てその都度、刑務官にチェックされるという。



「舎房での食事は辛かったですね。当然ながら出された食べ物をどれだけ美味しいと思っても出た分しか食べられられません。同じ部屋にいる別の者から貰っても懲罰対象になります。それだけに祝日に出されるお菓子は楽しみでした」



拘置所と異なり、刑務所では差し入れや購入が大きく制限される。それだけに刑務所で過ごし迎える祝祭日、とりわけ正月は格別の楽しみだった。



「一年間で大晦日の夜だけはNHKの『ゆく年くる年』が終わるまで起きていても良いんですよ。新年を迎えると『あけましておめでとう』と舎房のみんなで新年の挨拶を交わします。正月にはお菓子だけでなく餅も出て、一年で最も豊かな気持ちになるんです。それだけに正月が過ぎると途端に寂しくなりましたね。一年間を52週間と週単位で考えるなど、感覚的に時間が早く過ぎるにはどうしたらいいかと、いつも考えていました」



十年間の刑期を終えて出所した際、車に乗り街に出かけただけで、外の世界ではこれほどまでに時間が早く動いているのかとそのスピード感に驚愕したという。車のスピードも、街の多様な景色も、獄中では体感できないものだった。



いわく「社会から隔絶された刑務所の中には、全く異なる時間が流れているんです」。



(文/本折浩之)