ピッチングとは打撃以上の攻撃なのだ。ライオンズクラシック2011でフィーチャーされた三原脩監督は、生前にこのようなことを述べている。「野球というスポーツは、先に27人の打者を殺した方が勝つのである。つまり守備こそが攻撃なのだ」と。アウトは日本語で一死、二死、併殺、狭殺、刺殺、補殺などと表現する。三原監督は、27人先に殺されないようにするための防御を打撃と解釈し、27人の打者を殺すべく守備・投球こそを攻撃だと解釈していた。その三原監督の言葉を借りるのならば、西口投手は今季、誰よりも攻撃的な投球を見せていると言うことができるだろう。

さて、ここまでは心技体の心と体についてを書き進めてきたが、最後は技について書き進めていきたい。ここで書きたい西口投手の技とは、左腕だ。右投手にとっての左腕、左投手にとっての右腕は「リーディングアーム」と呼ぶ。つまり西口投手の場合、左腕でしっかりと体をリードすることにより、強いボールを投げるということになる。躍動感について書いたこととも重なるのだが、躍動感が戻ってきたことにより、左腕の技もまた戻ってきたのだ。

西口投手の左腕の使い方は非常に独特で、投球後は腕を畳むことなく、まるでフォロースルーをしてるかのように左腕も大きく背中側にスウィングされていく。昨年まではこの動作が失われていた。左腕で体をリードできないと、体幹をグラブ手側に傾けることができない。するとオーバーハンドスローの西口投手の場合、腕だけを上に上げて投げようとしてしまい、動作1つ1つを繋げられない状態で手投げをしてしまうことになる。手投げでは当然ボールに切れが出るはずもなく、スライダーによって下がり気味にあった肘も疲労と共にますます下がっていく。

しかし昨日の試合後半、もしくは8月28日の完封した試合の左手を見て欲しい。左手をスウィングした勢いで、体幹をしっかりとグラブ手側に引っ張ることができている。これにより肘も自然と上がり、ストレートに切れが出るばかりではなく、スライダーにも切れが戻った。そして右腕のスウィングがドアスウィングにならなくなり、右腕を体の近くでコンパクトに振れるように戻った。これができるとボールの回転が安定するだけではなく、制球力も向上する。昨日の西口投手は2点を失った2回に2四球を与え、完封した28日は無四球だった。過去4年間の四球率が3.36だったのに対し、この2試合に関しては16回を投げて1.12という制球の良さだ。

無駄な走者を出さないことにより、無駄な失点を防ぐ。これこそが投球の基本である。西口投手は左腕の使い方を改善させることにより、投球動作内での独自の技に更なる磨きをかけ、劇的に数字を向上させることに成功した。この技に関しては、昨日のファームの試合で6回6四球(無失点)と制球を乱した大石達也投手にも参考になるはずだ。

2006〜2010年の5年間は西口投手にとってはもはや過去だ。2011年は心技体それぞれが充実している。200勝までもあと27勝となった。今季少なくともあと3つ勝てば残り24勝となり、早ければ41歳となる2013年には達成できる数字にまで近づく。若い頃は表彰式に穴の空いた革靴で出席し、東尾監督を驚かせた西口投手も今や39歳のシーズンを向かえ、200勝を目指せる最後の投手とも言われている。そして恩師である東尾監督が現役を退いた38歳を越えてなお、1軍のローテーション投手として活躍している。西口投手は200勝と言わず、252勝という東尾越えを目指し、あと5年はローテーション投手としてライオンズで投げ続けて欲しいと筆者は切に願っている。