西武・渡辺監督が、7月8日のオリックス戦から栗山選手を1番で起用し始めました。トップバッターは開幕から片岡・浅村両選手が務め、栗山選手は2番や(起用されてきた選手の結果が出ていない)5番を打っていました。開幕から苦戦が続く西武にとって、栗山選手を1番に起用することは起爆剤となるのでしょうか。

1.栗山選手の出塁能力

 トップバッターに求められる資質は何でしょうか。「足が速い」「出塁する」「ボールを投げさせる」「得点を挙げる」「長打もある」など多くの条件があるでしょう。しかし、チームで最も多くの打席を担当する1番打者は、アウトになる割合の小さい選手が得点の近道となりそうです。「足が速い」「ボールを投げさせる」などの能力は一番打者に求められる資質かもしれませんが、攻撃の目標(得点を奪う)を考えると、「出塁する」を最優先にすることは一つの考え方になると思います(「出塁する」は一番打者だけでなく各打者にとっても重要です)。

 下の表は今季(7/10まで)の両リーグ出塁率ランキングになります(150打席以上を対象)。



 日本ハムの糸井選手を筆頭に有力選手が並んでいます。この中で栗山選手は出塁率.389で6番目に高い数字になっています。高い出塁率を実現するには、

(1)高打率
(2)高四球割合
(3)高打率&高四球割合

などの方法があります。ソフトバンクの内川選手は高打率を背景に、数多く出塁しています。中日の和田選手は打率がなかなか上がってきませんでしたが(最近は復調気配)、非常に高い四球割合が出塁率を支えています。栗山選手は(3)のタイプで、打率と四球の両面で高出塁率を実現しています。栗山選手は、打撃だけでなく選球でも定評がありますが、ボール球を振る割合が15.44%とリーグ平均(26.6%)に比べ10ポイント以上も良く、投手にとって厄介な選手といえそうです。片岡選手や浅村選手に比べると出塁率で大きく上回り、1番として多くの打席を担当するのに十分な内容です。

2.栗山選手の投手を疲労させる要素

 出塁能力が優れた栗山選手は、それだけで1番打者の条件を十分満たしています。さらに栗山選手にはトップバッターとして別の資質も備わっています(出塁能力に付随した能力ともいえます)。その資質とは、相手投手に負荷を与える能力です。1番打者はチームで最も多くの打席を担うことになり、先発投手や監督にプレッシャーを与える機会が多くなります(1シーズン144試合で換算すると、打順が1つ下がることで年間20前後打席数が少なくなっていきます)。先発投手や監督へのプレッシャーとして、投球数は一つの要素になります。SHINGO氏のコラムで取り上げられていますが、先発投手に多くの球数を投げさせることは、相手の監督が投手運用の決断を下すタイミングを早めます。打者の投球数はP/PA(1打席あたりに投げさせた数)などが一般的ですが、アウトを考慮していない点で改善の余地があったかもしれません(P/PAも有効な指標です)。最近、アメリカの有力サイトBEYOND THE BOX SCOREのJacob Peterson氏がThe Best(And Worst)Hitters At Making Pitchers Worksで、アウトを基準にしたPitcher Fatigue Factor(投手を疲労させる要素=「以下」PPF)という指標を使った分析をしています。PPFの算出方法はかなりシンプルで、

PFF= 100 *(投球数/アウト)/ (リーグ全体の投球数/リーグ全体のアウト数)

アウト=打数−安打−失策出塁+犠飛+併殺打

で求めることができます。100がリーグの平均的な打者レベルとなり、100を上回るとその選手からアウトを取るのに要する労力(球数)が増えていくことになります。単純な1打席あたりの球数よりも、アウトを基準とすることで投手(監督)に対する圧力を測れる割合が高まりそうです。下のグラフはPFF上位と下位選手をまとめたものになります。



 基本的に仕掛けが遅く、出塁能力が高い選手の値は跳ね上がります。出塁率のランキングに比べ、四球を選ぶ割合の多いスラッガータイプの選手が多くなっています。トップの糸井選手はリーグの平均的な選手に比べ、アウト一つ当たりで相手投手に30%も多く球数を投げさせています。栗山選手や鳥谷選手はスラッガータイプとは言えませんが、非常に優れた選球眼と打撃能力で投手に負担を強いる存在です。打席で多くのボールを投げさせ、さらにアウトにならない(アウトを別の選手で取りなおさなくてはならない)選手は、投手や監督にとって嫌な存在でしょう。それゆえ、そのような打者に多くの打席を担当させるのは良い戦術と言えるかもしれません。

 スラッガータイプの選手は、走者がいる場面の打席を多くしたいチーム(監督)の意向が働き、トップバッターとして起用しにくいのが実情です(有力打者の打席を増やそうとする試みに十分な魅力もあります)。しかし、出塁率やPFFが高い半面、それほど長打力のない栗山選手は1番で起用しやすくなります。

 PFFはあくまで打者としての能力の一部分しか切り出しておらず、値が低いから能力が劣ると考えるのは早計です。打者の攻撃力を評価するならば、wOBAなどが基準になるでしょう。下のグラフは先ほどのPFF(右軸)上位選手と下位選手にwOBA(左軸)を加えたものになります(今季はwOBA.300くらいがリーグの平均的な打者)。ラミレス選手は仕掛けが早く、PFFはそれほど高くありませんが、十分な攻撃力を有していることがわかります。



 一方で、多くの打席を担当する上位打順ではwOBAが高い選手を配置したいところです。加えてPFFの数字が高ければ相手投手や監督へプレッシャーをかけられる割合が高まりそうです。(長打力はそれほどありませんが)出塁能力に優れ、相手投手に負担を強いる栗山選手はリードオフマンとして格好の人材です。

3.7月12日各チームのオーダー

 最後に7月12日に行われたセ・パ6試合の先発オーダー(新外国人や極めて打席数が少ない選手は代替選手を配しています)をwOBAとPFF両面で表してみました。



 栗山選手をトップバッターにした西武を見ていきましょう。片岡選手に替わって2番に入っている原拓也選手は、打席数が少ないながらも非常に良い働きをしています。上位打線が強力ゆえに、5番以降に人材を得られれば得点力アップにつながりそうです。
 それ以外の11球団のグラフはこちらになります。好調なヤクルトは攻撃能力と投手への負担を上手く両立させているようです。パ・リーグではソフトバンクが弱点のないラインアップになっているのがわかります。