わいせつ表現をめぐる当局の判断が揺れるなか、週刊誌から「ヘアヌード」が姿を消しつつある。都庁が「表現を抑制するように」などと複数の出版社に申し入れをした結果、「過激表現」が抑制されつつあるのだ。条例で「有害図書」(都条例では「不健全図書」)に指定されるとコンビニで販売できなくなることを恐れた「自主規制」とも言える。

「グラビアの表現について申し入れがあったのは事実」

   ここ数ヶ月で、わいせつ表現をめぐる当局の判断が揺れている。例えば、最高裁は2008年2月、男性器の写真が掲載された写真集について「わいせつではない」との判断を示す一方で、08年3月には、警視庁がアダルトビデオの自主審査機関「日本ビデオ倫理協会」幹部を逮捕した。「モザイクが薄いわいせつDVDを流通させた」との容疑だ。

   そんな中でも、「青少年保護」という文脈では、雑誌のわいせつ表現に対する逆風が強くなっているようなのだ。

   いわゆる「ヘアヌード」は90年代後半に登場。男性向け週刊誌「週刊ポスト」「週刊現代」などがヘアヌードで部数を伸ばしたが、04年頃に相次いで撤退。現在では写真週刊誌「フライデー」「フォーカス」、そして「実話誌」と呼ばれる雑誌に掲載されている。ところが、08年に入ってから、「実話誌」からヘアヌードが姿を消しつつあるのだ。

   その背景には、東京都庁の青少年・治安対策本部が07年12月下旬、週刊誌3誌の編集長を呼び、グラビアの表現についての「申し入れ」を行ったことにある。対象となったのは、「アサヒ芸能」(徳間書店)、「週刊大衆」(双葉社)、「週刊実話」(日本ジャーナル出版)の3誌。アサヒ芸能編集部では、経緯をこのように話す。

「ヘアヌードに限らず、グラビアの表現について申し入れがあったのは事実です。『青少年健全育成条例に反する写真が載っているので、何とかして欲しい』という趣旨でした」

   さらに、申し入れ後も誌面の「過激度」に変化がない場合は、いわゆる「有害図書」(都条例では「不健全図書」と規定)に指定される可能性も示唆されたという。

   都庁の青少年・治安対策本部総合対策部青少年課でも、

「青少年の性的感情を刺激するような表現を抑制するように(雑誌の編集部に)要請と言いますか、お願いをしたのは事実です」

と、「申し入れ」の事実を認める一方で、「有害図書指定」についても、

「私どもが直ちに指定する訳ではなく、しかるべき第三者機関での審査を経る必要があるのですが、ある程度表現の考慮をいただけないと、(指定の)可能性はある、ということはお伝えしました」

と話している。

「有害図書指定」は出版社にとって死活問題

   「有害図書」に指定されると、コンビニ業界団体の規定で、原則コンビニでは販売できなくなってしまう。週刊誌の売り上げの半分以上をコンビニが支えているとも言われ、「有害図書指定」は出版社にとっては死活問題だ。

   同編集部では、

「『申し入れ』を受けて、表現についての内規を作りました。1月中旬からは、これが反映された誌面になっています」

と、マーケティング上の判断から都の申し入れを受け入れたことを明らかにしている。実際の誌面も、1月下旬以降は、以前と比べると、比較的穏やかなものになっている。

   都庁側は、3誌が申し入れの対象となった経緯について

「これらの雑誌は書店やコンビニで『区分陳列』されておらず、青少年が手に取る可能性がありました。(グラビアの内容も)他と比べて『ちょっとこれは…』という部分がありました」

と説明。現時点で「申し入れ」の対象を3誌以外に広げることについては否定的だ。

   ただし、自治体レベルだけではなく、政府・与党レベルでも、同様の動きが進んでいる。自民党の青少年特別委員会は07年12月11日、「青少年の健全な成長を阻害するおそれのある図書類の規制に関する法案」(仮称)の骨子案を了承した。これまでは都道府県ごとに「有害指定」していたものを、全国で一本化しようというものだ。同部会では、今後条文化を進め、国会提出を目指す考えだ。

   このような状況に対して、「ヘアヌード」の産みの親とされる、元「週刊現代」「フライデー」編集長の元木昌彦さんは批判的だ。08年3月13日、自身が社長を務める「オーマイニュース」のコラムで、

「出版社側も怯えるばかりではなく、主張すべきところは堂々とするべきだろう」

と出版社側に注文をつける一方で、

「わいせつ表現も言論表現の自由の一つだ。ここまで来た表現の自由を、30年昔に後戻りさせてはいけないと思う」

と、規制強化の流れに警鐘を鳴らしている。

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