出版エージェント社長が解説する、知的な仕事でうまくAIを働かせる方法
多くのベストセラーを世に出してきた出版エージェント代表による、小さな会社の経営論、生成AI時代の働き方の書『会社は大きくするな! 小さな会社の経営論』より、「なぜ多くの会社では、規模を拡大しようとすると、苦しくなるのか?」「自分たちは何のために働いているのか?」「フリーランスで働くのと小さな会社の違いは何か?」など、具体的なノウハウもご紹介します。
規模を追わず、より深化させる。クリエイティブで社員も経営者も幸せな、強い会社を目指すためには。
AIが得意なこと、人間にしかできないこと
作家のエージェントの仕事を分解してみると、大きく3つの層に分かれます。これはたぶん、出版業界に限らず、多くの知的な仕事に共通する構造です。
■情報処理の層
企画の相談、市場調査、契約書の文言チェック、スケジュール管理、Wordと連携して編集、議事録作成、メールの下書き。これらはAIが得意な仕事です。正確で、速く、疲れを知らず、24時間いつでも動いてくれる。私たちは、この層の仕事を、ためらわずAIに任せていく方針でいます。ここに人の時間を使うのは、もったいない時代になりました。
■判断の層
この企画は売れるか。この作家は次のステージに進めるか。どの出版社に、いつ持ち込むか。ここは、最終的には人間が決めるべき領域です。数字に表せない時代の雰囲気、作家の覚悟、編集者との相性、そして長年の経験から来る直感。これらを総合した「賭け」は、まだ人間の領域に残っています。AIがどれほど進化しても、責任を取るのは人間です。責任を取れない存在に判断を委ねることはできないのです。
■関係構築の層
これこそがエージェントの仕事の核心です。作家の不安に寄り添うこと。編集者と、仕事半分・雑談半分の時間を過ごすこと。企画以前の悩みを、時間をかけて一緒にほどいていくこと。
先日も、ある作家から「企画がまとまらないので話を聞いてほしい」と電話がありました。対面で1時間ほど話を聞いているうちに、本人が本当に書きたかったのは、最初に持ってきた企画とは違う内容だとわかってきました。言葉にした瞬間、作家の顔が晴れていく。こういう時間は、AIには決して生み出せません。AIは、人を減らすための道具ではない。人を雑務から解放し、人間らしい仕事に戻すための道具です。
AIに任せられることはAIに
私が社内で言っていることは、一つだけです。
AIが1時間でできる仕事を、あなたが5時間かけてやる必要はない。その5時間を、著者と過ごす時間に使ってください。そこでしか生まれない企画が、必ずあります。
AIに任せられることはAIに任せる。人間は「判断」「創造」「関係構築」に時間を使う。これが、AI時代の原則です。
この使い方をすれば、小さな会社は「少ない人数で、より深い仕事ができる組織」に変わっていけます。人を減らす話ではありません。同じ人数で、もっと人間らしい仕事に集中できるようになる、という話です。人間が、より人間らしくなるためにAIを使う。この順序を間違えないことが、何よりも大切です。
大切なのは、空いた時間の使い方
ただし、ここに落とし穴があります。
AIで時間を浮かせても、その時間をまた別の作業で埋めてしまえば、何も変わりません。むしろ、仕事の密度だけが上がり、心の余裕は失われていく。これでは、何のためにAIを導入したのかわからなくなります。
ですから、AI導入と同じくらい大切にしたいのは、「空いた時間を何に使うのか」をあらかじめ決めておくことです。作家と食事に行く時間。読書をしてインプットする時間。社員一人ひとりと雑談する時間。業界の新しい動きを眺める時間。目的から離れた、ふと湧いた好奇心を追いかける時間。
こうした一見「非生産的」に見える時間こそ、実は最も創造的な仕事の土壌になります。AI導入を「効率化」としてだけ語ると、この本質を見失います。私たちがAIから取り戻しているのは、時間そのものではなく、考え、人と向き合うためのゆとりなのです。
小さな会社に与えられた追い風
AI時代の到来は、多くの経営者にとって不安の種かもしれません。メディアでも、不安を煽る記事も目にします。しかし小さな会社の経営者にとっては、これはむしろ追い風です。
意思決定が速いこと。試行錯誤のコストが低いこと。承認の階層がないこと。社員一人ひとりの顔が見えること。これらはもともと小さな会社の強みでしたが、AI時代になって、その強みがさらに効いてくるようになりました。大きな組織が1年かけて議論しているあいだに、私たちは1日の試行錯誤を終えられます。大きな組織がシステム連携で苦労しているあいだに、私たちは3つの新しいツールを日常に溶け込ませられます。
この追い風は、静かで、派手さがありません。しかし、10年後に振り返ったとき、いまこの時期にどう振る舞ったかが、会社の未来を大きく分けているはずだと、私は感じています。
アクションステップ 今日からできる3つのこと
Step1 昨日一日の自分の業務を、メモ帳に時系列で書き出す。その中で「AIに任せられる作業」に印をつける(所要時間15分)
Step2 今日中に、AIチャットツール(ChatGPT、Claude、Geminiなど)のいずれかにアカウントを作る。費用は月額2000~3000円程度
Step3 そのAIに、今日の自分の業務の中で最も時間のかかった作業を一つ投げてみる。「この作業を効率化する方法を5つ提案してください」と訊く
