このところ片岡仁左衛門はダブルキャストが多い理由(中川右介/作家)
9月の歌舞伎座は初代吉右衛門を顕彰する秀山祭。二代目吉右衛門が始め、ずっと主宰してきたが亡くなったので、初代のひ孫にあたる幸四郎が座頭となり、二代目の女婿である菊五郎(八代目)が客演というパターンで続いているが、今月は仁左衛門も客演。
昼の部のメインは「ひらかな盛衰記」。よく上演される「逆櫓」の場は、正直なところ、どこが面白いのかよく分からない芝居だったが、今回は歌舞伎座では1968年以来58年ぶりに、その前の「大津宿屋」「笹引き」の場が上演されたおかげで、どんな話なのかよく分かった。
芝居としても、「逆櫓」よりも前半の「大津宿屋」「笹引き」のほうが圧倒的に面白い。なぜ上演されないのか不思議。この場での主役は菊五郎(八代目)演じるお筆で、翻弄されながらも行動する女性は適役。立ち回りもあって、見せ場は十分。同じように「大津宿屋」から出続ける船頭・権四郎を中村又五郎が演じ、物語全体の主導権を握る。又五郎は兄・歌六のかげに隠れている感じだったが、今月は堂々と存在感を示した。というわけで、後半になって出てくる、本来の主役である松本幸四郎の印象が薄い。
夜の部は「沼津」で、十兵衛は片岡仁左衛門と幸四郎のダブルキャスト。このところ仁左衛門はダブルキャストが多い。本人の体力的な問題もあるのだろうが、芸の継承という意味もあるのだろう。
仁左衛門の相方は幸四郎が多いが、もうひとり、相方ではないが、仁左衛門の出る舞台に必ず同座して、間近に芸を見ているのが、中村隼人だ。「沼津」でも最後にしか出でこず目立つ役ではないが、しっかりつとめている。いずれ、十兵衛をやる日が来るだろう。吉右衛門の十兵衛で実父・平作を演じてきた歌六は、相手が仁左衛門になっても安定。
「一條大蔵譚」では、市川染五郎が大蔵卿に大抜擢された。初代吉右衛門の血筋としては、ひ孫のさらに子になるので、秀山祭で大役を得るのは理にかなっている。そして、見事に応えた。今回は「奥殿」の場だけで「檜垣」がないから、作り阿呆を見せる場面は少ないが、頭の中では「檜垣」も見たような気になる。震えてしまうのは、ラスト、勘解由の生首を鞠のように弄ぶところで、そこには作り阿呆を超越した底知れぬ狂気というか闇があった。勘解由を父・幸四郎が演じただけに、この父子、大丈夫なのかと思ってしまう。
(中川右介/作家)
