温泉施設の脱衣所(写真はイメージ/時事通信フォト)

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 盗撮の被害者と聞いたとき、女性を思い浮かべる人は多いだろう。しかし、盗撮の対象になるのは女性だけではない。男性を狙って盗撮を繰り返す加害者も存在する。

【写真を見る】男子生徒の着替えを盗撮した30代の男性教員、サウナや公衆浴場でも犯行を重ねていた背景には「性的マイノリティ」の生きづらさ

 一方で、多くの男性は、自分自身が「撮られる側」になることをほとんど想定せずに生活している。実際に男性を狙う盗撮加害者と向き合った専門家もまた、その事実によって、それまで意識してこなかった自身の日常を振り返ることになった。

 西川口榎本クリニック副院長としてさまざまな依存症治療と向き合ってきた斉藤章佳氏の新書『校内盗撮』(集英社インターナショナル)から、盗撮をめぐる事例や問題を全3回にわたって紹介する。第3回は、男性を狙う盗撮加害者の事例と、男性が見過ごしがちな盗撮被害について一部抜粋する。【全3回の第3回。第1回から読む】

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 エスカレーターで背後をそれとなくうかがう。駅のトイレの個室で不審な荷物がないかチェックする……。たとえ盗撮などの被害に遭ったことがなくても、これらをほぼ無意識レベルで行っている女性は多いといいます。なかには、「そもそも不特定多数の人が利用する駅のトイレは、絶対に使わない」という人すらいるようです。

 一方、私を含めた男性はどうでしょうか。エスカレーターで背後に意識を向けることがなければ、駅のトイレで盗撮カメラの有無をチェックすることも、ほぼありません。そもそも、「盗撮をおそれて、公共トイレの利用を控える」という発想をする男性は、ほぼいないでしょう。盗撮に怯えなくていいこの状況こそが、「男性の特権」に他なりません。

 特権というと、何か大きな得をしているように聞こえますが、社会学的には「ある特定の属性に属しているだけで、労なく享受できる、構造的な優位性」を指します。簡単にいうと、「面倒なことをわざわざ考えなくてもいい」状態、これが特権です。

 たまたま男性だったというだけで、何も考えずに駅のトイレを利用できる。盗撮被害について「撮られたって減るもんじゃないし」と無関心でいられる。女性が日常的に行っている防犯対策をしなくていい。この「当たり前」こそが、男性が享受している特権なのです。

可視化されつつある男性の盗撮被害

 しかし近年、男性の特権を揺るがすような事態が起きています。

 2026年2月には、埼玉県川口市の公立高校で、男子生徒の着替えを盗撮した30代の男性教員が逮捕されました。この教員は、生徒たちの部活の顧問で、合宿所の脱衣所で盗撮をしていたことが報じられています。

 私が担当したクリニックの受診者にも、男性をターゲットに盗撮を繰り返す会社員・後藤直樹氏(仮名)がいました。彼は男性社員寮への侵入を皮切りに、サウナや公衆浴場でも犯行を重ねていました。

 当初、私は後藤氏の話を女子寮や女風呂での出来事だと思い込み、「どうやって女風呂に侵入したのですか?」と彼に問いかけました。すると視線を落とし、「男風呂です」と明かしたのです。

 後藤氏は、中学時代から同性への性的指向を自覚しながらも、親や友人など周囲の人にカミングアウトできずにいました。当然ながら、性的指向のカミングアウトは義務ではなく、個人の自由です。誰に、いつ、どこまで、あるいは「一生しない」という選択も含めて、すべて本人に決める権利があります。

 しかし後藤氏は、「カミングアウトできない」という状況や、一般男性との性交渉の経験がないことを、ある種の生きづらさと感じていました。性的マイノリティで、自らの性的指向を他者に打ち明けていない人は大勢いますし、彼らの多くは性犯罪に及びません。けれど後藤氏は、他者と触れ合いたくても触れ合えない葛藤や孤独感を解消するため、盗撮に及び、次第にのめり込んでいったのです。

 彼の話を聞いて以降、男性を性的対象にした男性盗撮加害者の相談を立て続けに受け、私自身の日常も一変しました。クリニックや商業施設のトイレに入るたび、言いようのない居心地の悪さを感じ、気づけば不審なカメラが隠されていないか、不自然な穴が空いていないかなど、それとなくチェックするようになったのです。つまり、私も「いつ、自分が被害者になるかもしれない」という状況になって初めて、これまで享受していた特権を自覚した、というわけです。

 多くの男性は、自分が性的なまなざしの対象になりうる可能性を、想像すらしていません。「自分だけは安全な場所にいる」「自分だけは絶対に被害に遭わない」という、男性側の無自覚な思い込みや万能感こそが、被害の深刻さを見えづらくしているといわざるをえません。

(第1回から読む)