東京海上、今から投資は「あり」か…新設の優待「7500円」を理由にするなら要注意
1株を15株へ。東京海上ホールディングスの株式分割で、最低投資金額は約5万2,500円になる。同時に上場来初の株主優待が新設され、今期の会社予想は56.2%増益。手頃さ・優待・高成長がそろったように見えるが、東京海上の株は結局「買い」と言えるのか?
前編記事から読む→東京海上が15分割、「5万円台」で買える一方…25分割した「NTTの株価」はどうなったか
戦略的な株式分割は、良い分割
ここで、東京海上に投資したバークシャー・ハサウェイの前CEO、ウォーレン・バフェット氏の投資哲学を紹介したい。
バフェット氏は1983年の「株主への手紙」で、分割は株主のためになるという前提に反対していた。
論旨はこうだ。投資単位を下げるための分割は、質の劣る買い手を招き入れることになる。100ドル札1枚より10ドル札9枚のほうが豊かに感じる人を株主に迎えて、会社の何が良くなるのかと問いかけている。
パイを何等分してもパイは大きくならない。バフェット氏はそこから一歩進んで、切り分け方を変えると、それを切り分けるためのコストがかかるし、テーブルに着く人の顔ぶれが変わるというところまで示唆を含んでいる。
もちろん、バフェット氏の哲学は自社の「A株」と呼ばれる議決権が多く付与される種類株式についての話だ。
アップルは2020年8月に1対4の分割を実施しているし、バークシャー自身も2010年1月20日に株主総会で議決権の少ないB株を1対50分割している。
要はバフェット氏も全ての分割まで否定しているわけではない。
東京海上の狙いは、単に分割で企業価値を高めるという短絡的なものではない。価格が安く気軽に買える価格帯になった分、長期的な保有を優遇することで株主層の統制を確保する戦略的な分割なのだ。
東京海上の優待戦略
分割に伴い新設された優待は、3月末時点で100株以上を3年以上継続保有する株主が対象で、初回にあたる2027年3月末は7,500円相当、翌年以降は毎年2,500円相当の電子マネー等が贈られるというものだ。
2027年3月に7,500円を受け取れるのは、その時点で3年以上保有している既存株主に限られる。継続保有は毎年3月末と9月末の株主名簿に同一株主番号で7回連続して記載されることが条件で、途中で売却するなどして株主番号の連続性が途切れると、保有期間は通算されない。いま買った場合、最初の7,500円を受け取れるのは最短で2030年3月末の基準日となる。
開示文でも「当社グループの長期にわたる挑戦に、より多くの投資家の皆様に共感いただき、株主としてご支援いただきたい」旨を明記している。
2026年3月期の有価証券報告書によれば、東京海上の株主構成は単元株主数で31万7,566名。NTTの256万人と比べると8分の1であり、個人株主が需給に及ぼすデメリットも相対的に抑制されそうだ。
「今期56%増益」の読み方
では、優待のために3年も待てないという投資家にとって東京海上は「なし」、なのか。
この点について東京海上の2027年3月期の会社予想は、親会社の所有者に帰属する当期利益8,300億円、前期比56.2%増となっており、一見高成長で「あり」にも思える。
しかし、同じ資料には修正純利益は9,500億円、前期比7.8%増とある。56.2%と7.8%。差分は会計基準の移行から来たものだ。
東京海上は2026年3月期からIFRS(国際財務報告基準)を適用した。IFRSでは政策保有株式の売却益が損益計算書を通らない。その結果、2026年3月期の最終利益はIFRSで5,312億円と、およそ4,500億円低く出た。今期の56.2%増は、この低くなった土台からの戻りを含んだ数字である。事業の実力の伸びとしては、修正純利益にある「7.8%増」を見るのが会社の考え方に沿う。
結局、東京海上は「あり」なのか
歯切れの悪い回答かもしれないが、「あり」か「なし」かは買う理由による。
「分割で手頃になったから、優待がつくから、増益率が56%で高成長だから」この3つを理由に買うなら、一度立ち止まって考えるべきだろう。
分割は価値を変えず、優待は3年半先で、56%は会計基準の切り替えを含むことを念頭におくべきだ。
そもそも東京海上の株価は、1月29日の年初来安値5,529円から7月29日の年初来高値8,468円まで、分割発表の前にすでに53%上昇していた。8月下旬には7,100円台まで調整したものの、発表後の上昇で高値圏に戻っていることは考慮に入れておきたい(9月14日時点)。
すでに東京海上の株価は「安いから買う」ではなく「良いから高い値段でも買う」という銘柄になっている。短期で儲けるならば、すでに出遅れからのスタートとなる。
一方で、海外マーケットを主軸とした収益構造や高い自己資本利益率、7期連続増配(2027年3月期予想ベース)という中長期の規律を評価して買うならば、それは十分に「あり」なのである。
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古田拓也
1級FP技能士・FP技能士センター正会員
中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経て株式会社X Capitalへ参画。
