「東海道新幹線」に「アニメ」「アイドル」ファンが殺到…「JR東海」担当者が明かす「推し旅」が活況の理由 当初は「社内でも“異色の部署”というイメージでした(笑)」
JR東海といえば、言わずと知れた日本の大動脈、東海道新幹線を運営する鉄道会社である。それゆえ、数ある鉄道会社の中でも、最も堅実かつ真面目なイメージを持たれてきた。それゆえに、2021年から始まった観光キャンペーン「推し旅」は、そんな同社のイメージを一変させるような衝撃があった。
【写真】イラストは全て描き下ろし 「推し旅」を盛り上げるJ R東海と「涼宮ハルヒの憂鬱」がコラボしたグッズ
数々の人気アニメやアイドルはもちろん、なかには相当マニアックなコンテンツとコラボした企画を次々に打ち出し、SNS上では「JR東海、何があった?」という困惑気味の反応が続出。鉄道ファンはもちろん、アニメファン、アイドルファンなど多方面から驚きの声が上がっていた。

そもそも「推し旅」の企画が始まったきっかけは、2020年から発生したコロナ禍が影響していたという。自粛ムードが続く中で公共交通機関の利用者が大きく減少し、東海道新幹線も例外ではなかった。そんな折、「推し旅」の企画は、東海道新幹線の新たな利用者を掘り起こすべく始まったのだった。
もちろん現在ではビジネスや観光目的の乗客は回復し、インバウンド客も増え続けるなど、多くの客層が東海道新幹線を利用している。それでも、「推し旅」の企画は変わらず打ち出されている。しかも、コロナ禍よりも“濃い内容”に進化しており、8月から始まったライトノベル・アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」とのコラボ企画は好評を博している。JR東海で「推し旅」の企画を担当する牛田浩之さんに、「推し旅」の企画が始まった経緯と、今後の展望について聞いた。【取材・文=山内貴範】
ボイスドラマは書き下ろし!
--コロナ禍に始まった「推し旅」ですが、短期的な企画で終わると予想していた人も多いようですが、開始からもうすぐ5年が経とうとしています。
牛田:おっしゃる通り、「推し旅」はもともとコロナ禍の影響で始まった観光需要を喚起するキャンペーンで、大変な好評をいただいています。実施するたびにアンケートをとっているのですが、好意的な回答が多いですね。当社としては、もっとファンの方に推し活を楽しんでいただける企画を考えていきたいと考えています。
--9月23日まで実施中の「涼宮ハルヒの憂鬱」とのコラボは、なんと移動中の車内でオリジナルのボイスドラマを聴くことができるというこだわりです。
牛田:ボイスドラマは、原作者の谷川流先生が書き下ろしてくださったシナリオです。谷川先生の新しいシナリオが聞けるうえ、ドラマの尺も長いので、移動中に存分に楽しむことができると思います。
--移動時間も楽しめるというのはいいですね。私もそうですが、新幹線の車内ではスマホをいじっている人は多いと思うので、ボイスドラマにアクセスもしやすいですし。
牛田:そうですね。スマホを使って配信できるので、ボイスドラマは新幹線と相性がいいんですよ。好きなコンテンツにアクセスして楽しめるという仕様も、時代にマッチしていると思います。
涼宮ハルヒがJR東海の制服を着用
--「涼宮ハルヒの憂鬱」の「推し旅」は、アニメの舞台になった西宮市内の施設ともコラボしていますね。
牛田:「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」を選定している「アニメツーリズム協会」さんと連携していることも、大きいと思います。協会さんには西宮市(注:作品の舞台・聖地になっている施設がたくさんある)の施設の調整を担当していただけたため、内容の充実を図ることができたと思います。
現地ではARフォトが楽しめるなど、様々なコンテンツを用意しています。旅の全体を通して、作品の世界観に浸っていただけると思います。
--先ほど話に出たボイスドラマが谷川先生の書き下ろしであるだけでなく、キャンペーンのイラストも原作小説の挿絵や表紙絵を手掛けたいとうのいぢ先生の描き下ろしです。こういったキャンペーンでは既存のイラストを使うケースが多いなかで、描き下ろしの絵を使っているのはかなり贅沢だと感じます。涼宮ハルヒが御社の制服を着ているのも、とても魅力的ですね。
牛田:そこに注目していただけるのはありがたいですね。ボイスドラマもオリジナルで、イラストも描き下ろしていただいているので、企画を進めるうえで時間もかかっています。しかしながら、そこはファンのみなさんに喜んでいただくために、徹底してこだわっている部分でもあります。
せっかく作品と鉄道会社がコラボしているのですから、キャラクターにも制服などの珍しいコスチュームを着てもらいたいという思いがあります。この点も、好意的に受け止めていただけていますね。グッズにある、切符を模したカードも好評です。
--「推し旅」の企画を作るときは、どのように考えているのでしょうか。
牛田:私は「涼宮ハルヒの憂鬱」という作品自体、世代的にもど真ん中なので、好きなのです(笑)。ただ、好きという気持ちだけで走ってしまうと、取り上げる作品が偏ってしまいますから、アンケートなどを通じて、お客様のニーズを汲み取ったうえで企画を作っています。
異色の部署だったが……
--牛田さんはまったく違う部署から志願して、「推し旅」の担当になったそうですね。
牛田:はい。まったく違う部署にいたのですが、ぜひやりたいと声を上げたんですよ。ちなみに、「推し旅」が始まった頃は、社内でも“異色の部署”というイメージがありました。ネットでの反応もそんな感じだったと思いますが、今ではかなり定着した印象を受けます。
ちょうど、コロナ禍から社会が立ち直ってきたタイミングで推し活が盛り上がってきたと思いますが、その時期に上手く始めることができたのも良かったですね。そして、ファンの方から熱烈な支持をいただけたからこそ、継続できていると思います。
--ちなみに、「推し旅」の企画は、年間どのくらいの数を実施しているのでしょうか。
牛田:一昨年は約100件、去年は約150件くらいでしょうか。
--そんなに多いんですか!
牛田:開始から5年近く経ったことで業界内でも知名度が上がってきていますし、当社の社長も推し旅について、様々な場面で言及してくれるようになりました。ありがたいことに、「うちとコラボしてほしい」とお声がけをいただくこともあります。
これからも、「推し旅」はファンの方に喜んでいただくことを大前提とした企画を続けていきたいですね。私も志願して担当になっているくらいですから、そこは力を入れていきたいなと思っています。
(C)2007,2008,2009 谷川 流・いとうのいぢ/SOS団
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部
