うつ病、発達障害、自己破産…「マジで死ぬかもと思った」20代女性を再生させた「全員VTuber」の職場
今はVTuberとして活動する20代女性。中学生のときに人が怖くなり、逃げ込んだのはネットの世界。大学生になるとネット上で知り合った男性たちと関係を持つ一方、心が荒み何度もひきこもった。仕事に就いてもミスばかりで、うつ病に。再び、ひきこもった女性を救ってくれた居場所とは。(前後編の後編)
【画像】現在はVTuberとして活動している元ひきこもりの虎井おんさん
客と意思疎通ができず、事務仕事もミスばかり
ひきこもりを脱して大学を卒業した虎井おんさん。「誰かの人生の転機を支えられる仕事がしたい」と不動産関係の会社に就職した。
だが、それまでリアルな人付き合いをあまりしてこなかったこともあり、対人関係でミスが続いた。
「お客さまの気持ちや意図をくみ取るのが難しいし、意思疎通がうまくできなくて。クレームの電話を受けると、すぐお客様と喧嘩になっちゃって、『虎井さんストップ!』って電話から引っぺがされたり。
事務処理も苦手で何回教えてもらっても計算が合わない。不動産賃貸営業の契約書って、数字のミスひとつで法律にひっかかることも多くて、『なんでできないの?』とすごく怒られて。がむしゃらに働いていたら、だんだん苦しくなってしまって……」
帰宅後も頭が働かず、スーパーで立ち尽くしたまま買い物もできない。とうとう出社さえできなくなり、医師の診察を受けると、うつ病と軽度のADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)だと診断された。
「発達障害ですって言われてホッとしました。勉強しても結果が出なくて、社会人になってもミスしてばかりで、こんなに頑張っているのに、なぜって思っていたから……。
親だけでなく、私自身も“普通”に働くことに固執していたけど、その“普通”に適合できなくてツラかったんですね」
上司に診断結果を伝えて電話応対を減らすなど配慮してもらったが、事情を知らない同僚たちからは「何で電話を取らないの?」と言われてしまう。居づらくなり、辞職した。
ダメダメな自分でも肯定してくれた初めての居場所
退職後は、障害者の就労をサポートする就労移行支援事業所に通った。その頃からVTuberとしても活動を始め、うつ病や発達障害の動画を作成した。
大学時代にもやろうとしたことがあるが長続きしなかったという。活動名の「虎井」は「いろいろなことにトライしたい」という思いを込めて付けた。
半年後に障害者雇用で就職。仕事は事務補助やデータ処理などで、無理なく働けた。だが、ストレスを発散するために暴飲暴食したり、高い機材を衝動買いしてしまい、だんだん家計が回らなくなるように……。
「クレジットカードの支払いが間に合わないとか、職場にまで催促の電話が来るみたいな。しかも、4社ぐらい。かなりヤバかったです」
そして、1年後に休職。そこから半年ほど、また家にひきこもった。
「うつが悪化して、体がしんどくて、もう動けなかったです。すごくいい会社なのに適応できなかったという絶望感があったし、社会から取り残されているという焦燥感もありました。
ただ、大学時代みたいな鬱屈とした、自暴自棄なひきこもりとはちょっと違っていて。せめて、何かネット上に残しておきたいと、ひとりでもがいていましたね」
そんなとき、Xのポストを見かけたのが、「V福祉プロジェクト(V福)」という家から出られない人でもオンラインで参加できる居場所などを運営する団体だ。
VTuberや音楽などエンタメの力を使って福祉の情報を広げていく活動をしている。虎井さんは藁にもすがるような気持ちで参加してみたという。
「その居場所がすごく温かくて。ただただ、柔らかく気持ちを受け止めてくれて、初めて安心できたというか。ダメダメで落ち切った自分でもいいんだと肯定してくれるような空気感がすごくありました。
代表のシアンさんは壮絶な人生を歩んでいて、それでも立ち上がってコミュニティを作っていることに、心底驚かされたんですよ。
すごく明るくて、福祉に対する熱い思いを持っているのが、オンライン上でもビッシビシ伝わってきて(笑)。めっちゃいいなって。うわ、ちょっと泣きそうだ」
数百万円の借金を抱えて自己破産
その後、一度復職したが、すぐに休職。そのまま退職すると家計はさらに苦しくなった。傷病手当のほかに、障害年金3級を受給できたが、月に5万円ほどしかない。借金は数百万円に膨れ上がった。
一緒に住んでいたパートナーもうつ病で働けず、家賃が払えなくなり、ガスが止まり、ご飯も食べられなくなった――。
「マジで死ぬかもって思った。V福で情報を得て、市役所に行って助けてもらいました。V福がなかったら、何から相談していいかわからなかったと思います。
親にも多額のお金を借りていて、それが自分でも許せなくて……。『彼と別れて戻ってこい』と言われたけど、それでは自分の心が死ぬ。だったら、自分の失敗をきちんと受け入れようと思ったんです」
自己破産する手続きをして、虎井さんは精神障害者向けのグループホームに入所。規則正しい生活をやり直すことから始めたという。
「パートナーも家庭環境に難がある人で、彼のツラさに共感していくうちに、彼の人生を支えてあげたいと思ったんです。
でも、そんな彼にもひどく当たってしまっていたので、このままじゃダメだ。私が真の意味で自立できないと、この人とは住めないなと」
それまで、V福のメンバーにも内面の苦しさを吐露したことがあまりなかったが、ちょっとずつ話すようになった。落ち込んだときに電話やチャットでそっと支えてくれるメンバーもいた。
「顔が見えない相手だからこそ、話せることがあるんですよね。そこでコミュニケーションの仕方を学ばせてもらい、思考の偏りもゆっくりほぐしてもらいました。
例えば、自分が何か提案したときに、誰かに懸念点を指摘されただけで、人格否定と捉えてしまっていたんですよ。私が変われたのはV福のおかげですね」
イラストの仕事も始め、自分らしく働けるように
今年4月から兵庫県西宮市にある就労継続支援B型事業所「ReverV(リバーヴ)ワークス」で契約社員として週4日働いている。
虎井さんを含めスタッフは全員VTuberで、それぞれのアバターで障害や難病を抱える利用者の応対をする。
利用者の方々にパソコンを使った動画編集作業を学んでもらい、フリーランスとして動画編集で生計を立てることができるよう、虎井さんらスタッフがサポートする。単純作業を行なうB型事業所が多い中、珍しい存在だ。
代表の中島大樹さん(41)自身、VTuber、YouTuberとしても活動している。V福にも福祉の専門家として参加しており、ひきこもっている人たちをリアルな支援につなげる必要性を実感して事業所を設立したそうだ。
虎井さんは「ReverVワークス」の設立を知り、中島さんに「働かせてほしい」と直談判した。
「挑戦してみてダメだったら、また考えたらいいよと言ってくれて、『うわ、軽っ』って思った(笑)。でも、その軽さが、心地よくて、こころ救われたというか。
『イラストレーターもやりたいなら開業したらいいじゃん』って軽いノリで言われて、ココナラなどのサービスに出品して実績を積んだら、徐々にイラストレーターのお仕事をいただけるようになりました。
VTuber関連のイベントの運営をやらないかとお声がけいただくことも増えて、『なんで私に?』と聞いたら、『虎井さんはコミュニケーション能力が高いから』と言ってもらえて。『ウソでしょ』って私も思う(笑)。どんどん自分らしく働けるようになっています」
親を恨む気持ちはあるが、嫌いになりきれない
今でも親への恨みはあるかと虎井さんに聞いてみると、少し考えてこう答えた。
「父親から『役立たず』『甲斐性なし』『穀潰し』とずっと言われていて、すごい傷ついたし、そのせいで自分のことを大切にできなかった。
正直、恨む気持ちはあります。でもね、嫌いになりきれないんですよ。育ててもらった恩があるから。
まだ消化しきれてないんですけど、もういい加減、ケリを付けたいと思って、両親に洗いざらい話したんですね。
ホント、最近なんですけど、恨みに囚われ続けていたらいけないっていう気持ちも出てきたんです」
そして、最後に「これからどうなっていくのか、自分でも楽しみです」と言って、すっきりした笑顔を浮かべた。
〈前編はこちら『VTuberが語った衝撃人生…教育虐待、いじめ、ひきこもりの過去「心がすり減っていって、もう人生終わってもいいやって…」』〉
取材・文/萩原絹代
