自宅に350匹超の猫 食費は年間2400万円――すべてを手放した女性が、それでも保護を続ける理由 イギリス

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玄関にも、ソファにも、天井近くにも猫がいる。

イギリス北部のこの家で暮らす猫は、350匹を超える。

取材班がここを訪れたきっかけは、1軒の住宅から264匹の犬が救出されたニュースだった。
狭い居間に何十匹もの犬が折り重なり、暖炉の中にまで入り込んでいた。

あまりの光景に「AI画像ではないか」と疑う声が上がり、イギリス社会に大きな衝撃を与えた。

猫のために「結婚指輪も売った」

なぜ、飼い主が世話をしきれないほど動物が増えてしまうのか。

その背景を探るため、ロンドンから鉄道で約3時間、ノースヨークシャー州のファイリーへ猫保護の慈善団体を設立した女性のもとへ向かった。

「おやつタイムだよ」

ファイリー猫保護センターのティナ・ルイスさんがそう声をかけると、家の中から次々と猫が姿を現した。
おやつを与えると、猫たちは一斉に集まってくる。

玄関にも、ソファにも、天井近くにも猫がいる。
家の中の至る所で、それぞれ思い思いにくつろいでいた。

始まりは、新型コロナウイルスによる最初のロックダウン後だった。

行き場のない28匹の猫を引き取ったことをきっかけに、迷い猫や、飼い主を失った猫、体調を崩した猫などを助けるようになった。

その後、猫の数は急速に増えた。
ティナさんは自宅をシェルターに改装し、慈善団体を設立した。

現在は旦那さんのマークと2人の子供、12人のボランティアと共に施設を運営している。

家の中は、すべて猫中心である。
ダイニングルームは子猫の部屋に、ティナさんの寝室は猫たちの寝室になった。

庭には約120の小屋が並び、現在、敷地内では350匹以上が暮らしている。猫たちにとっては、安心して過ごせる楽園のような場所だ。

しかし、その裏側には、保護団体であっても追い詰められるほど厳しい現実があった。

ティナさんに、猫のために何を手放したのか尋ねると、こう答えた。

「全部です。すべてを手放しました。持っているものは全部売りました。もう売るものは何もありません。結婚指輪も、宝石もありません」

食費だけで年間2400万円

何段にも積み上げられた段ボール。その中身は、すべて猫の餌である。これだけの量でも、まかなえるのは、わずか9日分だという。

物価高の影響も大きい。

食費は1日あたり約6万5000円。単純計算で、年間約2400万円にのぼる。
医療費も急増している。

ティナさんが保管していた請求書を調べると、オス猫の去勢手術の費用は、3年前の約8700円から現在は約1万7000円へと、約2倍に上昇していた。

重いけがをした猫の治療に、約160万円かかったケースもあった。

負担は金銭面だけではない。

「毎日20時間くらい働いています。休みはありません。どこにも行けません」

ティナさんは朝4時から世話を始める。掃除や餌の準備、健康状態の確認、日用品の発注まで、一日の大半を猫のために費やしている。

猫を助けることは、飼い主を助けること

それでも、新たな保護の依頼は後を絶たない。相談の電話は、毎日50件以上にのぼるという。

経済的にも体力的にも、このまま続けるのは難しい。
そう感じながらも、ティナさんが猫を助け続けるのには理由がある。

「猫を助けることで、私たちは人も助けています。『母が亡くなりました。母はその猫を愛していました。助けてもらえますか』と電話がかかってきます。だから、私たちは助けます」

飼い主にとって、ペットは大切な家族である。
その思いを理解しているからこそ、ティナさんは飼い主のためにも、無理を重ねながら猫を受け入れている。

亡くなる前に、残される猫のことを案じて連絡してくる人も少なくないという。

「ある人たちにとって、猫は世界でいちばん大切な存在です。猫は、一人暮らしの人や高齢者と暮らしていることも多いのです」

猫を助けることは、その飼い主を助けることでもある。

知識や支援、相談先の少なさ

一方で、その背景からは、飼い主が限界を迎えるまで十分な支援につながれない現実も浮かび上がる。

ティナさんは、多頭飼育崩壊の背景には、不妊・去勢手術の不足だけでなく、知識や経済的支援、相談先の少なさがあると指摘する。

「猫は避妊していなければ、年に4回出産することがあります。2匹だった猫が、あっという間に20匹になってしまうこともあります」

きょうだいの猫でも繁殖することを知らない人がいる。

生活費や医療費が上がるなか、手術費を払えず、避妊や去勢を後回しにしてしまう場合もあるという。

そうして行き場を失った猫たちを受け入れ続けるティナさん自身も、費用や人手の面で限界に近づいている。それでも、猫を見放すことはできないという。

「一匹一匹を愛し続けるためなら何でもします。どれほど険しい道でも、諦めるつもりはありません。猫たちを守ることは、私の人生そのものだからです」

猫を助けることは、その猫を大切にしてきた人を助けることでもある。

しかし、その役割を担う保護団体もまた、費用や人手の負担に追い詰められている。

動物を守り続けるためには、飼い主だけでなく、支援する人や団体も孤立させない仕組みが必要である。