【福田淳の対談闊歩】玉木雄一郎(第1回)香川の農家から大蔵官僚へ 幼少時代に憧れた国連事務総長への夢
香川県大川郡寒川町(現さぬき市)の“バリバリの農家”で生まれ育ち、小学校の卒業文集には「国連事務総長になる」と夢をしたためた少年時代。東大陸上部では十種競技の選手として活躍。旧大蔵省に入省してエリートコースの人生を歩むが、衆議院選挙に出馬して落選。4年の浪人時代を経て代議士になった苦労人の一面もある。香川での生い立ちから、間近に控えた党代表選への意気込み、最近ハマっている「スキマバイト」まで、玉木雄一郎を自身で語り尽くした。全3回で紹介する。
福田 よろしくお願いします。兼業農家の長男としてお生まれになって、田植えを手伝いながら育ったと。お父様が獣医だそうで。
玉木 はい、獣医ですね。
福田 そして、おじいさまが農協の組合長。
玉木 もうバリバリの農業一家でしたね。
福田 でも、獣医さんって珍しくないですか?
玉木 獣医もいろいろありまして。今は獣医の免許を取ったら、だいたい犬や猫を対象にした動物病院をやりますけど、うちの親父は牛、豚、鳥などが相手。産業動物の獣医って言うんです。
福田 いや、初めて聞きました。
玉木 これが今も少ないんですよ。やっぱり産業動物の獣医っていうのも、すごく大切ですね。牛も乳房炎になったりする。鳥インフルエンザもありますしね。
福田 狂牛病とかね。
玉木 種付けもしてね。やっぱり、獣医さんがいざという時に来てくれないと、畜産や酪農は成り立たない。裏方仕事ですけど、そういうのを見て育ちました。ただ、親父は昔の時代の獣医なんだけれど、畜産農家とか酪農家ばかり回っているから、そこで仲良くなって(酒を)飲むんですよ。日付変更線を越えるまで家に帰ってきたことなかったですね。
連立入りラブコールの国民民主・玉木代表…その陰でひそかに進む、代表選に向けた路線対立
福田 てっぺん(深夜0時)越えで。
玉木 もう越えまくって。昔だったから今より甘かったんで、飲酒運転をしていたんじゃないかって。田舎だから車ないと動けないんです。翌朝、一緒に来いと言われて、何かと思ったら、家の近くまでたどり着いているんですけど、水路に車ごと落ちていたんですよ。
福田 ありますよね、田舎でね。
玉木 みんなで引っ張ってあげたっていうのを何回か。もちろんやっちゃダメですけどね。実家も神前っていう辺鄙(へんぴ)なところにあって、国鉄(JR)の神前駅から父がタクシーに乗って帰ってくる途中、酔っぱらって寝ちゃって。
それで、運転手さんが近所の人に「この人どこの人ですか?」って聞くと、「玉木さんはあっち行って、こっち行って、あそこに住んでるから」って家までたどり着くんです。何回かありましたね。
福田 コミュニティーですね。
玉木 コミュニティーです。みんなで支え合ってね。
福田 玉木さんの今のイメージだと、都会派っていうか。「若者を守る」みたいな感じで、一般的な意味での自民党っぽさがありますよね。
玉木 当選してからずっと、大蔵省、財務省にいたからかもしれないですね。金融とか財政は専門なんですが、あえて農林水産委員会に入って、ずっと農政の仕事をしてきたんです。やっぱり、食べるものを作ることは基本なのですごく勉強になった。安全でいいものを国民の口に、特に子どもたちの口にしっかり届けるっていうのは、ものすごく大事だなと。
福田 では、次の質問。東大の陸上競技部で、短距離の選手から十種競技へ転向されました。1つの種目の天才ではなく、総合力とバランスで勝負する競技です。この経験が政治家玉木雄一郎の戦い方のベースになったということはありますか?
玉木 ありますね。短距離はやっぱり競争率も高くてね。十種競技って、走ったり、飛んだり、投げたりする総合競技なので、マイナー種目なんですよ。全日本のランキングを上げようと思ったら、マイナー種目に徹すべきだなと。競争者が少ないから。
福田 トップを目指しそうな感じがするんですけど。
東大陸上部で学んだマルチタスクと楽観主義
撮影・内外タイムス 玉木 そこの見極めもしつつ、どういうマーケットなのかを分析してね。自分はそういう学生だったんです。十種競技をやっていて、学んだことが2つあるんですね。同時に多くのものを進めていくという、今風に言うとマルチタスクです。これをやるとここにも波及するっていうこと。
実は相互に連関していて、例えば走力が上がると、棒高跳びの棒も立つんです。だけど、そうは言っても同じ時間をかけて練習することはできないので、どこをやれば全体に波及するかということをいつも考えるようになりました。
あと、今の自分のマインドセットになっているというか、大事なことを筋トレルームで教えてもらったんです。10分の出会いだったんだけど。
福田 へえ。10分?
玉木 ずっとベンチプレスばっかりやっていて、たぶんボディービルの先生だと思うんですが、たまたま話をしたんです。その次の週が旧国立競技場で陸上の大会があった。雨の予報だった。
かつての国立競技場って、雨だと向かい風になって記録が出ないんです。僕は「せっかく冬の間頑張ったのに、雨だと記録も出ないし、負けるわ」というようなことを言ったんです。すると、その先生は「玉木君ね、雨はみんなに降るよ。同じだけ」と。
福田 哲学的ですね。
玉木 「君が悩もうが、悲しもうが、苦しもうが、天気は変わらないし、みんな同じだから。悩む時間をどこかで切り上げて、何ができるか考えた方がいいよ」って。楽観的である訓練をしなさいと言われたんです。
福田 平等だと。
玉木 その先生とは10分くらいのやりとりでしたが、確かにそうだなと。その後の人生ですごく役に立っていて。例えば、親が亡くなるとか、愛する人が死んだりすることって、誰にとっても悲しい。でも、その現実は変えられないわけですよね。
その場合、10分なら10分、1時間なら1時間、1日なら1日、1週間なら1週間。悲しむ時間を決めて、そこまで思いっきり悲しんで、そこからは顔を上げる。そうすれば、うまくいく。オカルト的なことは信じないけど、楽観的であると成功確率が上がるっていうのは確率論的にそうだと思ったんです。
福田 めちゃめちゃ分かります。
玉木 新幹線に乗ると電光掲示板でニュースが流れているじゃないですか。世の中のみんなに平等に。顔を下げていると見えない。顔を上げると見える。ひょっとしたら、会社経営でも人生でも、課題解決策が流れているかもしれない。それに接する機会は、上げた人の方が確率は高い。いつまでも悲しんでないで顔を上げればいい。これはストンと落ちたんですよ。
福田 落ちますね。
玉木 よく、自己啓発本の中に「やる気だ」「情熱だ」とか書いてあっても、気合いと根性だけではなんともならない。ただ、気持ちの整理をした上で、情報を取りやすい状況に自ら持っていくということは、成功する確率が確かに上がるなと。
あともう一つ、何かあった時に話しかけやすい相手っているじゃないですか。これは、ただでコンサルティングをしてもらえる確率を上げているんですよ。福田さんもそうだけど、「最近ちょっと困ってない?」とか言ってくれるじゃない。明るいしね。ムスッとした死神みたいな人は、話しかけにくい。
初めての飲食店でのバイト経験
撮影・内外タイムス 福田 僕は芸能事務所の社長の笑顔を見たことがないです。笑っているとタレントが逃げると思っているのかな。みんなおじいさんたちで、ちょっと怖くて話しかけにくい。
玉木 威厳を保つ部分も多少はあるんでしょうけど、ただ「どうしたの」って話しかけやすい人っていうのは、情報が集まってきやすい人なので。
福田 ちょっと話がそれるんですけど、この間、玉木さんがタイミーを使って、何の予告もなしに突然居酒屋でバイトしたって聞いて。びっくりしましたよ。
玉木 これね、5月1日の誕生日。いつもゴールデンウィーク中だから誰も相手してくれないの。だから、スキマバイトをしてみようと思って。バイトは学生の頃にいろいろやっていたんですけど、飲食業はやったことがなくて。
福田 1回ではなく、何回かやったそうで。
玉木 クリーニング屋でも働いているんです。また、投稿しますけれど(※動画公開中)。
福田 みなさん、見かけたら静かに見守ってください。
玉木 自分はいつも周りに支えてもらっていることに気が付きましたね。お店サイドで体験してみると、見える風景が全く違って。あと、飲食店の副店長さんが天才。飲食業って、複数のことを同時にするのが基本なんです。
福田 マルチタスクだ。
玉木 そう、マルチタスクなんですよ。十種競技と一緒。しかも、お客さんを満足させなければならない。
そのお店では「業界用語集」のようなものをちゃんと作っていたんです。それがとても参考になりました。私もよく「横文字を使って分かりにくい」と言われるんだけど、その業界では当たり前なことでも、初めて聞いた人は分からない。だからそれをマニュアル化していく。
これを政治に置き換えたんです。チラシにしても、ボランティアで来てくれる人に、「とにかく配れるだけ配ってくれ」っていうチラシと、「有権者や働いている人に対してこういうことに留意して大切に配ってね」というチラシは違うと思うんです。
福田 面白い。
玉木 もう一つ学んだのは、ストップ&アクションというもの。何かやる時も、一回動きを止めておじぎをする。止まってから語りかける。ダラダラダラといかないってことです。ストップして、ドンですね。これも政治に使えると思った。飲食業界の中では当たり前かもしれませんけど。
福田 残ってきたんでしょうね、技が。
玉木 政治の世界も同じで、ダラダラとしてしまうのは良くない。よく注意されるのはね、片手で握手している最中に、もう片方の手で横の人と握手する。いるんですよ、感じの悪い人が。
福田 数をこなさないといけないから?
玉木 数をこなさないといけないってことに集中しすぎて、一人ひとりに向き合ってない。逆に「なんだあいつ」と思われて。票が離れる行動を一生懸命やっているみたいな。
福田 ストップ&アクションがない。
玉木 一瞬の間の大切さです。タイミーで2時間ぐらい働いたんですけど、皿も結構洗いました。まあ自分の特性はやっぱ皿洗いだなと。単純なことを延々とこなす能力が高いんですよ。
立候補者は飲食店のマネージャークラスが適任
福田 僕は引っ越しのプロジェクトで初めてタイミーの人たちと関わったんです。20歳から50歳までいて、指示役として混乱しましたよ。
玉木 そこが一番難しいと思う。ビジネススクールでも教えていますが、マニュアル化を一定程度するって大切ですね。基本理念とかを教えることも含めて。マニュアル化してやると、言語の違う人とかにも伝わっていく。
福田 多様性ですからね。
玉木 今まで大学とかいろいろなところでリクルートをしてきたけど、これからの候補者の擁立は、飲食店の優秀なマネージャークラスに声をかけた方がいいと思う。
福田 西友の食品売り場に朝、視察で行ったことあるんです。食品売り場の課長さんと一緒で、魚売り場から野菜売り場まで部下が100人くらいいて、毎日5分でも必ず立って朝礼をするんですね。あれが効くんですよね。現場の規律って、効率を呼ぶんですね。
玉木 これが多分AI時代に最後に残る「儀式」かもしれませんね。
福田 AIが目的になっていますが、人間の能力を拡張するツールであることを忘れがちですよね。
玉木 そうだと思います。AI時代に大切な能力の一つとして、オーケストレーション(システム全体の統合管理)だと思うんですね。マルチタスクでやっている人は「ピシッ、ピシッ」と仕切れるからね。だから、私がいきなり飲食店に行って、「玉木君、できてないよ」ってピシッと言われるわけだけど。
福田 実際に言われるんですか?
玉木 基準が明確で、外れたら「ダメ」って言われる。できていたら「今日はよくできましたね」って言ってもらえるわけです。だから、いいことはいい、悪いことは悪いってはっきりしている。
福田 政治で人を導くお仕事をされていて、導かれる方もやられている。そんな人、初めて会いましたよ。
玉木 すごい勉強になった。やっぱり現場にヒントがある。迷った時には外に出ることですね。
福田 AIにもディープラーニング型のAIと、推論型のAIがあって、これから流行るのは推論AIだと思うんですね。推論AIっていうのは、例えばたばこを吸う人がコンビニに行ったら、「たばこ、大丈夫ですか?」とかAIの方から足りないものを声掛けしてくれる。推論AIは世界規模で、アメリカで1兆円規模のスタートアップがいっぱい出てきているんですけど、日本はゼロなんですって。
だから僕は、日常生活や介護といったものを助けていく推論AIを作った方がいい。AIでディープラーニングを駆使する孫正義さんと真逆なんですが。それが大事だってことに気が付いたんです。今日言えてよかった。じゃあ、次いきます。
【福田淳の対談闊歩】玉木雄一郎(第2回)「決断できない」のではなく今は高市政権に与しない立場を取っている に続く。
撮影・内外タイムス 《プロフィール》
玉木雄一郎(たまき・ゆういちろう)衆議院議員(7期目)、国民民主党代表。1969年、香川県生まれ。1993年東京大学法学部卒業。旧大蔵省入省。1997年ハーバード大学ケネディスクール修了。2005年財務省主計局主査を最後に財務省を退官。衆議院議員総選挙に初出馬、落選。2009年衆議院議員総選挙に再び出馬し、初当選。元アスリート(十種競技)。YouTube「たまきチャンネル」の登録者数は約60万人。趣味はピアノ、ギター、カラオケ、筋トレ、ランニング。

