岸惠子さん

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 国際派女優として知られ、エッセイストとしても活躍した岸惠子さんが7日に老衰のため、横浜市の自宅で死去した。93歳だった。所属事務所が19日、事務所の公式サイトで発表された。横浜市出身。葬儀は故人の遺志により近親者で執り行った。喪主は長女の麻衣子(まいこ)さん。

 岸さんは小説家志望だったが、高校時代に松竹大船撮影所を見学中にスカウトされ、芸能界入りした。1951年、映画「我が家は楽し」(中村登監督)で笠智衆さんの娘役で女優デビュー。1953年から54年にかけて公開された映画三部作「君の名は」でヒロインを演じ、国民的スターになった。同作で、岸さんが演じた氏家真知子のストールの巻き方が「真知子巻き」として大流行した。「おかあさん」など市川崑監督作品にも多数出演。57年には日仏合作映画「忘れえぬ慕情」の撮影がきっかけとなりフランス人監督のイヴ・シャンピ氏と結婚。パリに移住し、その後は日仏を行き来して女優を続けてきた。

 フランス人の映画監督で医師でもある11歳年上のシャンピとの結婚は、松竹の看板女優として人気絶頂の時だった。パリに移住したが、当時はまだ日本人が海外旅行をすることができない時代だったため、フランスへ移住する日本人は極めて異例で注目された。63年に長女の麻衣子さんを出産したが、75年に離婚した。

 2002年には映画「かあちゃん」(市川崑監督)で日本アカデミー賞の主演女優賞に輝いた。同作では、凶作にあえぐ天保末期の貧乏長屋を舞台に、泥棒にまで恵んでやる肝っ玉母ちゃんを、抑制のきいた芝居で好演。実は映画界からの引退を考えていた時期に、声を掛けられた役だった。「岸さんが出ないなら映画化はしない」と熱烈ラブコールを送った市川監督に恩返しをした。

 女優業以外にも、世界各国を飛び回り、文筆業でも活動。イスラエル、パレスチナ、バルト三国への取材経験をつづった「ベラルーシの林檎」は日本エッセイスト・クラブ賞を受賞するなど、著書も多数出版。晩年はトークショーも精力的に行った。

 90歳を迎えた直後の2022年8月のトークショーでは、フランスから来日した孫2人(麻衣子さんの息子たち)にエスコートされてステージに登場。若々しい美しさで「図々しくもまだまだ若いつもりでいます」などと語り、ウィットに富んだトークで観客約1000人を沸かせた。

 トークショーでは、ロシア軍のウクライナ侵攻への強い危機感をあらわにし「いま起きている戦争は、本当にたまらないです。どうにか止める方法はないのか」と平和への切実な思いを吐露した。90代の目標を「石原慎太郎さんや親交のあった方々との思い出をつづった本など、いま書きたいと思っている2冊の著書を書き上げること」と力強く明かしていた。

◆岸 惠子(きし・けいこ)1932年8月11日、横浜生まれ。高校時代に松竹大船撮影所を見学中にスカウトされ、芸能界入り。57年にフランス人映画監督イブ・シャンピ氏と結婚して渡仏。代表作は映画「君の名は」(53年)、「雪国」(57年)、「かあちゃん」(01)など。著書は「ベラルーシの林檎」(93年)、「私のパリ私のフランス」(05年)など。02年にフランス芸術文化勲章オフィシエ、04年に旭日小綬章を受章。