DX10000 CL

finalは、日本のイヤフォン・ヘッドフォンメーカーの中でも独自の存在感を放つブランドだ。会社規模に対して大きな研究開発部門を有し、独自の技術から数々のユニークな製品を生み出してきた。今回レビューする「DX10000 CL」は、そうしたfinalらしい独自のオーラを強く放つ、新フラッグシップとなる密閉型ヘッドフォンである。価格は1,180,000円。2026年秋頃の発売を予定している。

なお、筐体の一部にゴールドカラーをあしらい、特別な同梱品とともに桐箱に収めた「DX10000 CL Collector’s Edition」(初回限定生産世界150本/1,280,000円)は7月24日に発売されている。

DX10000 CL Collector’s Edition

収納ケースとしても使える丹後ちりめん(京都・丹後地方で織られる伝統的な絹織物)のオリジナル信玄袋と、専用展示台を同梱している

DX10000 CL最大の特徴は、「トゥルーダイヤモンド振動板」の採用だ。先行して同振動板を搭載したイヤフォン「A10000」の、いわば拡大版とも言える存在である。

トゥルーダイヤモンド振動板採用のイヤフォン「A10000」

従来「ダイヤモンド振動板」を謳う製品の多くは、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)を表面にコーティングしたものに過ぎなかった。これに対しDX10000 CLは、CVD製法を用いることで表面だけでなく中までダイヤモンドという真のダイヤモンド振動板を実現している。finalがA8000で採用した「トゥルーベリリウム振動板」と同様のアプローチで、素材本来の特性をフルに引き出す設計だ。

DX10000 CLに搭載しているトゥルーダイヤモンド振動板のユニット

ダイヤモンドは音速と硬さの両面で非常に優れ、振動板素材として理想的とされている。一般的な金属やプラスチックの振動板は強く駆動されるとわずかに歪みやたわみが生じ、それが音の歪みにつながる。一方、ダイヤモンドは曲げ剛性が桁違いに高いため、ほとんど形状が変わらない。finalはこれをレーザー変位計で確認したという。

さらに興味深いのは、高い剛性を持ちながら優れた内部損失(着色感の少なさ)も備えている点だ。例えば、鉄の薄い板を弾くと、「キーン」という響きが残るように、通常「硬い」と「余計な振動がすぐに止まる」は相反する性質だが、ダイヤモンドは両方を兼ね備えているということだ。

その結果、振動板がいつまでも余韻を残さず、音の立ち上がりも消え際も正確でクリーンである。さらに強力な磁気回路と組み合わせることで、振動板を正確に駆動し、高い過渡応答性能を実現している。

DX10000 CLでは、この「トゥルーダイヤモンド振動板」の素材を最大限に活かすため、構造面でも通常のヘッドフォンには見られない凝った設計が施されている。例えば、急峻なドーム形状の振動板、外周部に円筒形のリブを設けた新構造により、剛性と質量のトレードオフを高い次元で両立させている。

さらに、スピーカーのドライバーのようにボビン(芯材)を採用したボイスコイルや、振動板の動きを妨げない空中配線など、随所にダイヤモンド振動板を活かす工夫が凝らされている。

DX10000 CLの、もう一つの大きな特徴は、密閉型であることだ。高性能志向のヘッドフォンでは開放型が選ばれることが多い中、あえて密閉型を先に開発した点は興味深い。製品名の「CL」はClosed-backを意味する。これはA10000の開発で得た「密閉型で歪みを抑えるノウハウ」を応用したものということで、近年のfinal製品にCLモデルが多いことともつながる。

ただし、完全密閉では低域が過剰に上昇しやすいため、イヤーパッドにはウルトラスエードを採用、この素材が持つ微細な通気性により、わずかに空気を逃がしつつ音響的な密閉状態を維持している。

付属ケーブルは線材自体は共通だが、設計の異なる2種類が同梱される。スーパーコンピュータ「京」向けケーブルの開発・製造で知られる潤工社との共同開発品で、4ピンXLR3mケーブルには長尺時でも低い抵抗値を実現する大断面積の導体を採用、4.4mm/1.5mケーブルには従来のPFAより誘電率の低いePTFE(発泡フッ素樹脂)を絶縁被膜に採用している。

4ピンXLR3mケーブル

4.4mm/1.5mケーブル

実際にデモ機を借用して試聴した。手に取ると剛性感の高い造りでずっしりとした印象を受ける。公式スペックでは質量は543gと重量級だが、実際の装着感はそこまで重さを感じさせず、長時間装着しても首が痛くなるほどではない。

ヘッドフォン側は着脱可能

イヤーパッドはかなり分厚く存在感がある。密閉型だが、ウルトラスエードの通気性もあって、外部音の遮蔽は密閉型としてはそれほど強くない印象だ。折りたたみはできないが、専用ケースに収まるため持ち運びは比較的容易である。ヘッドフォン側の端子は3.5mmで、がっちりとハマる高品質な仕様だ。

なおDX10000 CLでは、長期的な使用のための修理可能な構造が採用されている。

イヤーパッドはかなり分厚い

歪の少なさに驚く

まず、4ピンXLRケーブルでToppingのディスクリート設計ハイエンドヘッドフォンアンプ「DX9 Discrete」と組み合わせた。

ヘッドフォンアンプ「DX9 Discrete」

第一印象は、ハイエンドヘッドフォンらしい情報量が豊富な音で、歪みの少なさに驚く。アグレッシブで、観客席の前方で聴いているような、耳に近い印象だ。

そして最大の特徴は優れたトランジェント特性である。特にパーカッションの打撃感が気持ちよく、迫力と低音の深みも雄大である。着色感は少なく、ハイエンドアンプで鳴らすと非常に滑らかで端正な再現になる。

低音はたっぷりと出るが、歪み感が極めて少なく、すっきりと整っている。ウッドベースの解像度の高さや深みがあり、密閉型特有のこもり感はほとんど感じない。クラシックのオーケストラでは圧倒的な迫力を発揮する。カラヤン指揮のベートーヴェン交響曲第5番「運命」も、強奏部で音が歪んだり割れそうになる感覚がなく、安心して音量を上げられる。

ボーカルは自然で正確。着色が少ないため色気を強調するタイプではないが、RADWIMPS「すずめ」では冒頭の息を吸い込むグラデーションが細かく鮮明に聞こえ、非常にリアルである。高域のハイハットやシンバルも歪み感が少なく端正で、キツさがない。スピード感も高く、平面磁界型ほどではないが、村上ゆき「Bang Bang」のアコースティックギターの躍動感はかなり高い。絡みつくようなウッドベースがギターと明瞭に分離されているのも気持ちの良いポイントである。

音の分離は非常に優秀で、Girls Archives.「Reborn」のような複雑なアニソン・ポップスでも、打ち込みの低音の迫力と女性ボーカル、細かなSEがきれいに分かれ、複雑な音楽をきちんと再現する。中高域は伸びやかでありながらキツさをほとんど感じない。

同じDX9 Discreteでケーブルを比較すると、XLRは低域寄りで太く豊かな印象、4.4mmは少し軽やかで比較すると腰高になる。4.4mmの方が中庸なバランスに感じる人もいるだろう。

映画を聴いても衝撃的

DX10000 CLのポテンシャルは、音楽以外でも発揮される。Amazonプライムで配信中の映画「ウォーフェア 戦地最前線」を同システムで視聴したところ、かなり衝撃的な体験だった。この映画は劇伴やBGMがなく、銃撃音や無線交信の「音」に力を入れた作品だが、まず声が非常にクリアで聴き取りやすい。特に爆発音の「バン!」、銃撃の「パシッ!」といった打撃音の鋭さが際立つ。トランジェントに優れたシステムでないと、ここまで鋭くは聞こえない。

筆者は近くのシネコンでも鑑賞したが、重低音特化の映画館音響よりも、このシステムの方がリアルに感じる部分があった。ただし、兵士の悲鳴の苦しさもより生々しく伝わるため、気分が滅入る可能性がある点は留意が必要と言っておく。

なお映画「プロジェクト・ヘイルメアリー」も同じシステムで視聴したが、こちらよりも「ウォーフェア」のほうが明らかに相性が良い。劇伴に頼らず、銃撃や爆発、無線、息遣いといった音そのものが演出の中心にある作品だからこそ、DX10000 CLの鋭いトランジェントと低歪みが際立つのだろう。

Topping「DX5II」を4ピンXLRで使用

次に、普及クラスのTopping「DX5II」を4ピンXLRで使用した。細かな音の抽出は落ちるが、迫力やトランジェントの高さ、クラシックでのスケール感は十分に再現される。鳴らしにくいヘッドフォンという印象はない。DX10000 CLはアンプの違いを音として感じ取りやすい印象があり、その実力を引き出すには、解像度や駆動力に優れたアンプを組み合わせたい。

Astell&Kern「A&ultima SP4000」でも試聴

4.4mmケーブルでAstell&Kern「A&ultima SP4000」でも試聴した。鳴らしにくさは感じられず、十分な音質で楽しめた。定位はやはり耳に近く、ステージ前方寄りの印象だ。ハイ・ドライビングモードでは、ドラムやパーカッションのアタック感が特に気持ちよく響く。

総じて、着色感の少ない正確な音再現でありながら、いわゆるモニター的なサウンドではなく、十分にリスニング向けでアグレッシブな個性を持っている。

A10000がトゥルーダイヤモンド振動板を「最高の普通の音」と言える自然な方向に振っていたのに対し、DX10000 CLはより強いキャラクターを感じた。つまり、単なる「A10000の大型版」ではないと言える。

高いトランジェントと迫力、アグレッシブな個性はクセになりそうな魅力だ。特にXLRケーブル使用時は、クラシックやオーケストラ作品の壮大さと細かな楽器の解像が両立し、非常に相性が良いと感じた。クラシックファンには特におすすめしたい一台だ。

着色の少なさはダイナミック型というよりBAドライバーを思わせる部分もあるが、ここは好みが分かれるだろう。打撃感やアタックの瞬発力にも優れるため、打ち込み系から民族音楽まで、パワフルでエネルギッシュな音楽にも適している。音が複雑に絡み合うほど、実力が発揮される一台と言える。