外国人労働者を束ねて工事現場で汗を流す男の正体…「“現役”というのは内緒ですが、言葉も理屈も通じない連中をうまくまとめてくれます」 ヤクザが“正業”に精を出す理由
構成員の人数は、組織の強さを示す──。警視庁によると平成期の暴力団は全国で8万人の構成員を擁していたが、2025年度末には1万人を割ったという。準構成員を含めても2万人に届かないところまで暴力団員は激減している。その衰退は実に激しく、前年と比べて構成員数が半分に減った団体もあれば、勢力を完全に失って暴力団対策法の指定要件を満たせず、当局から指定を解除された老舗団体もある。【藤原良/作家・ノンフィクションライター】(前後編の前編)
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主な原因は暴対法や暴排条例の度重なる改正強化、検挙や摘発の徹底、暴力団排除に関する国民意識の広がり、そして暴力団員の高齢化、などが挙げられる。

暴力団員の検挙内訳を見てみよう。多いものから順に覚醒剤取締法違反、傷害、詐欺、窃盗と続く。つまり最近の暴力団員は覚醒剤の売買、詐欺、窃盗で生計を立てているように映る。本当にそんな犯罪行為だけでヤクザは日々を過ごせているのだろうか?
確かに覚醒剤の密輸・密売による収入に頼る暴力団員はいまだに多い。所属している団体が覚醒剤を禁止しているかいないかにかかわらず、大麻なども含めた違法薬物ビジネスで“シノぐ”しかない面々がいるのも事実だ。
一見、違法薬物ビジネスは大きな儲けを生みそうだ。しかし今の日本では多くの国民が所得の伸び悩みを余儀なくされ、薄給生活を送っている。米ドルに換算してアジアの経済先進諸国と比較すると、相当数の日本人が貧困層の年間所得に分類されてしまう。
収入減による影響は違法薬物ビジネスにおける顧客層にも例外なく及んでいる。つまり昨今の違法薬物現場では大口客が減り、金銭的な余裕を失った顧客が増えているのだ。結果、元締めや売人が過去のような高収入を得られない“シノギ”に変貌しつつある。
暴力団ではなくヤクザ
にもかかわらず、薬物関連で逮捕・起訴されると長期刑の判決が下る可能性は高い。「ハイリスクが割に合わないビジネス」と嫌悪感を示す暴力団員も増え始めている。
大麻に限れば中高生がSNSで簡単に入手するなど、未成年者の摘発数が平成期に比べると約10倍も増えている。ただし大麻は所詮、子供相手の小遣い稼ぎという程度の売上にしかならない。ビジネスとして大きく開拓されてはいないのだ。
また不良外国人が暴力団に代わって元締め的な役割を果たし、自分たちが密輸した違法薬物を日本に住む外国人に直接密売する「直売」も増えている。
不良外国人は違法薬物ビジネスに積極的であり、したたかな“商才”の持ち主も多い。とはいえ、やはり現在の暴力団が弱体化していることと密接な関係がある。違法薬物ビジネスは不良外国人に奪われつつあり、先述したSNSによる違法売買も不良外国人が主導しているケースが目立ってきている。
詐欺や窃盗の場合、特殊詐欺やトクリュウによる事件と暴力団の関係が注視されることもある。実は詐欺や窃盗に関しては「関与を禁止する」という指針を定めている暴力団も少なくない。
トクリュウと暴力団
しかし、それこそシノギに困窮した構成員が自分の生活費を稼ぐため、指針を無視して詐欺や窃盗に手を染めるという“個人プレー”は圧倒的に多い。このような暴力団員が出現すること自体が暴力団の経済基盤が崩壊していることを強く印象づける。
ちなみに関東の暴力団の中には、「トクリュウが自分たちの縄張りを荒らしている」と敵対意識を持っている組織も多い。トクリュウと暴力団との関係性は、そんなに単純なものではないのだ。
いずれにしても、昨今の暴力団員は収入の減少に頭を痛めている。おまけに仲間の人数も減るばかりだ。こんな強い逆風が吹く中、暴力団員は一体どのような“シゴト”で生活を維持しているのだろうか?
賭博、違法金融、管理売春──確かに、そうした犯罪で収益を確保している者は今もいる。だが、近年は意外にも真っ当な正業に就く暴力団員も増えている。
特に“3K”と称されるブルーワーカーが活躍する業種で、額に汗を流して働く現役の組員も目立つ。
こういった業種の現場では、下請けになればなるほど日本の習慣に馴染まず、会話や読み書きも不得手な外国人労働者が増える。明らかに不法就労の外国人が働いている光景も全く珍しくない。
役に立つ暴力団員
そういった外国人労働者に混じり、時には彼らが暴走しないよう落ち着かせながら、日々の仕事に精を出している組員もいる。
「幼なじみの現役組員に現場で働いてもらっている」という、ある会社の社長は次のように話す。
「ある意味で、言葉も理屈も通じないのが外国人の作業員です。普通の日本人が職長を務めてもナメられて負けちゃうんですけど、組の人だとうまくまとめてくれるんです。組の名前を出したことは一度もありません。現役組員というのは内緒ですし、外国人に組の名前を言っても分かりません。単なる先輩作業員という位置づけなんです」
意外なことに、暴力団員もカタギの職場で役に立っているのだ。
「幼なじみが暴力団員と言えばそうですけど、暴力団員とヤクザは違うと思います。暴力団員はダメですけど、ヤクザは社会の役に立つこともあるんじゃないですかね」(同社長)
そして、この現役組員は次のように話す。
「自分たちは暴力団とか反社って呼ばれてはいますが、自分にはそういう意識はないです。自分はヤクザだと思ってます。ヤクザは国籍なんて気にしませんよ。ヤクザに差別はありませんから外国人も日本人も同じように接します。外国人だから許すとか許さないとかそういうのはないですね。要は人としていいか悪いか、そういう感覚だけです」
ヤクザに学ぶ“対人関係”
試しに外国人作業員に話を聞くと、「マフィア? 彼はマフィアじゃないよ!」と一笑に付すのだった。
考えてみると、法律に違反して外国人労働者を現場に派遣し、それで利ザヤを稼ぐような不法就労の助長や派遣法違反に手を染めるのが暴力団であり、外国人労働者と一緒に額に汗して働き、現場を上手く回すのがヤクザだと言えるのかもしれない。
日本の3K職場では法律による規制だけではカバーできず、外国人労働者に対する独自のケアや対策が必要になっている。とりわけ数多くの外国人が働く作業現場では、新しい“対人環境”作りが急務であり、社会の裏側を熟知するヤクザが取り仕切る場面も増えていきそうだ。
意外なことに飲食業、小売業、製造業、観光業に進出する“ヤクザ”も多いという。ヤクザが良心的な正業を営み始めた一方、“暴力団”は今以上に犯罪組織として先鋭化していくのではないか、と囁かれている。
後編【居酒屋や寿司屋、旅館にも…シノギに窮したヤクザが“正業”の現場で重宝される理由 「店で外国人観光客のトラブルはありませんね。注意したことは一度もないんですが…」】では、明らかになってきたヤクザと暴力団の対照的な実情について詳しくお伝えする──。
藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。著書に『山口組対山口組』、『M資金 欲望の地下資産』、『山口組東京進出第一号 「西」からひとりで来た男』、『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜』(以上、太田出版)など。
デイリー新潮編集部
