佐賀県は、なぜ絶景の波戸岬に世界初の海洋プラ施設「PLA PLA」をつくったのか!?
佐賀県唐津市のほぼ北端、玄界灘を望む波戸岬(はどみさき)から唐津市街地に続く美しい海岸沿いの国道202号線は、映画『グランブルー』でも有名な世界的ダイバー、ジャック・マイヨールさんに愛されたことから、「ルート・グランブルー」と呼ばれています。そんな絶景の岬に6月7日、海洋プラスチック問題の解決を目指す世界初の拠点「世界海洋プラスチックプランニングセンター」、愛称「PLA PLA(プラプラ)」がオープンしました(上写真)。長年、海洋プラ問題を取り上げてきたFRaUとしては、聞き捨てなりません。さっそく唐津まで行ってきました。
海洋ごみの“ホットスポット”だからこそ
佐賀県の北西にある唐津市は、とっても美しい城下町。唐津湾沿いには約4.5kmにわたって「虹の松原」が虹の弧のように広がる。そのど真ん中を東西に横切る県道347号線を車で通ると、走っても走っても虹の松原の中。実にスケールが大きいのだ。そこからさらに北西に向かうと、イカと朝市で有名な呼子(よぶこ)があり、もっと進めば、半島の先っちょに波戸岬がある。
そんな風光明媚(ふうこうめいび)な地にできた、海洋プラスチック問題を解決するための拠点・PLA PLAを訪ねると、この施設の開設に携わってきた佐賀県政策部の政策総括監、小山由希子さんが出迎えてくれた。
「なぜ佐賀県が、わざわざ唐津の市街地から遠く離れた波戸岬にPLA PLAをつくったのか。それは、ここに流れ着く漂着物、海洋プラスチックごみがとくに多いからなんです」
小山さんは切り出した。日本の沿岸には年間3万〜5万トンもの漂着物が押し寄せており、日本近海のマイクロプラスチック濃度は世界平均の27倍にもなるのだという。
「とりわけ、九州北部の海には漂着ごみが集中します。まずは海流の影響。黒潮から分流した対馬海流がアジアから海洋ごみも運んできます。そして、このあたりは海峡が非常に狭く、とくに冬は強い季節風が吹きつける。こうした、おもに3つの自然環境が海洋プラスチックを打ち上げることにつながっているのです。研究者の間では、波戸岬付近は日本一、海洋漂着物が打ち上がりやすいスポットとして評価されています」
さらに、小山さんが続ける。
「通常、海洋ごみの8割は私たちが住むまちから出ているといわれますが、波戸岬の特徴としては外国から流れ着くものが非常に多い。外国語が書かれたごみが大量に打ち上げられています。漁船からの投棄もかなりあるのではと私たちは見ています」
唐津市では、ここ何十年もビーチクリーンが行われているが、拾うより流れ着くごみのほうがはるかに多く、イタチごっこどころか、焼け石に水。一時的にクリーンにするための処分費用も自治体を圧迫する。かといって拾わなければ、ごみは生態系に悪影響を与え、景観を損ねて観光にも影響する、漁業者の船などにも絡まったりで被害が大きい。
「拾っても拾わないでも、とにかくやっかいものでしかない。じゃあ、いっそ海洋プラスチックの根本解決を目指すものを、被害の大きいこの場所につくったらどうかと県庁内で話し合いました。漂着の現場でもある波戸岬のここ1ヵ所で、海洋プラスチックについて知れる、体験もできる、一人ひとりの行動変容も促して、この波戸岬発で世界に仲間を増やしていける。PLA PLAの建物自体、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)になっているんですよ」(小山さん)
さびれた海浜公園を再生して“未利用魚サンド”を!
もともと、このあたりは50年以上前に整備された波戸岬海浜公園で、コンクリート造の展望休憩所もあったが、近年は観光客も訪れず、ほぼ利用されていなかったという。その休憩所の建物を活かし、リノベーションしてカフェ「had COFFEE & SEA」(以下、had)と事務室、トイレをつくった。さらに道路側に、佐賀県産の木材をつかった新築棟を建て、「展示ギャラリー」「再生LAB(ラボ)」を新設。PLA PLAが誕生した。
いま小山さんの話を聞いているのも、ここの改修棟にできた真新しいカフェで、だ。
「ここのテーブルやイスは、このあたりに漂着した海洋プラスチックの、おもに青いものと白いものを集めてフレーク状にして成形し、天板やイスに使用しています」(小山さん)
たしかに、座りやすいようにラウンドしたイスの座面やテーブル天板の色は青と白のマーブル状になっている。が、柄がまったく同じものは、ひとつとしてない。小山さんいわく、海洋プラをここまでアップサイクルするには、相当高い技術が必要なのだという。
さて、ちょうどお昼どきでお腹が空いてきた。ここらでhad自慢のメニューをいただくことにしよう。ここのオーナーで、塩つくりの職人でもある平川さんが、この日のメニューを説明してくれる。
「まずは『佐賀牛ミルフィーユカツサンド』。佐賀の牛肉は本当においしいんですけど、あまりつかわれない部位や端材もある。そうした肉を薄くスライスして、この地域の甘みのあるタマネギと幾重にも重ねて食べやすくカツにしてパンに挟んであります。もうひとつ、小さすぎる、数がそろわないなどの理由で規格外とされて市場に出回らない、これまでは地元の人だけが食べるか、海に戻されてきた未利用魚をフリットにした『フィッシュサンド』。今日は規格外のアジと、カライサキ(ヨコスジフエダイ)と呼ばれる、おそらく皆さんは見たこともない魚ですが、非常においしいです。パンも地元で長く営業されているお店のものを使用しています。未利用魚とタマネギのフリットプレートや、各種お飲み物もご用意しています」
私は佐賀牛サンドと未利用魚のフリットをいただいたが、どちらもフライがサクサクで、とくに白身魚はクセがなくあっさりしてて、とってもおいしい! ほかにもこの地域の名産で、最近はめっきり利用量が減ったという果物「甘夏」のデザートや飲み物もあるなど、徹底してサステナブルにこだわったカフェなのだ。晴れた日には窓から対馬まで見えることがあるという。この気持ちよさを味わうためだけでも、ここに来る価値がある。
外構にも屋根裏にも海洋プラを“再生”利用
「ここは世界初の海洋プラスチック専門の体験型ミュージアム。皆さんに海洋プラスチックについて知って、考えて、行動に移してもらうための施設です。まずはこのキレイな地図を見てください。白い矢印は何だと思いますか? そう、海流です。それがこの狭い海峡を通って、波戸岬に漂着物を運んできてしまうんですね」
新築棟の体験LABで説明をしてくれたのは、佐賀県からPLA PLAの運営を任されている一般社団法人「海の哲学ラボ」のシニアディレクター・張嘉妍さんだ。
「皆さんのまちからも、さまざまなプラスチックが川を経て海に流れ着いてきます。これらは波にもまれるうちに、やがて米粒より小さいマイクロプラスチックになってしまう。こうなるともう回収はできません。それを魚が食べて、その魚を食べる私たち人間の体に入ってくるのです。つまり、海洋プラスチックはまだ拾える大きさのうちに回収しないといけないんです」(張さん)
「このキレイな地球儀の海の部分に、グリーンや黄色、赤の四角がありますね? これが赤ければ赤いほど海洋ごみが多いホットスポットであることを示しています。日本付近は真っ赤ですね? アメリカ大陸の下のほうも赤い。このあたりは太平洋ごみベルトと呼ばれる地域です。これを、何とかしたいと思いますよね? いまは南極でも、海底でも、どこでも海洋プラスチックが見つかっています」
張さんは嘆く。こうハッキリ見せられると、こちらの意識も高まる。
PLA PLAなら、ごみも“素材”に変えられる
「これまでたくさんのボランティアの皆さんとビーチクリーンをしてきましたが、『集めたものをまた捨てるだけでは、むなしい』と口々におっしゃっていました。『本当にこんなことやってて効果はあるのか』と。でも、ここPLA PLAなら、拾ったごみを粉砕して成形できる。何かの製品にもできる。そうなると、ごみはもう素材です。素材なら、拾う意味はありますよね。いずれ、ここに世界中のボランティアさんたちを呼んで、ネットワークをつくりたいです」(張さん)
さて、次は再生ラボに場所を移して、海洋プラの再生体験だ。教えてくれるのは、海の哲学ラボのスタッフ・デザイナー、武内佑衣さんだ。
「これから、PLA PLAオリジナルキーチャームづくりに挑戦していただきます。目の前の透明カップに、色別に分けられたプラスチックのフレークが入っています。これらは、波戸岬で拾ってきた海洋プラスチックを色分けし、奥にある機械で粉砕したものです。まずは自由に組み合わせて型に入れていきましょう」(武内さん)
「海洋ごみは黒やオレンジが一番多いです。次に青ですかね。緑はとても少ないレア色なので、緑のフレークは貴重です。それぞれ融点が違うので、熱をかけてプレスすると、キレイなマーブル状になるんです。まったく同じ素材でつくると、のっぺり均一な色になります」
と武内さん。なるほど、融点の差が模様を生むのか。私はオレンジと赤、白を組み合わせて美しいマーブル模様を狙う。
私がプラを詰めた型を、武内さんが時間をかけてプレスしてくれた。最初はアツアツ要注意だが、わりとすぐに冷めるので、今度は型からハミ出た“バリ”をカッターナイフなどで慎重にカットしていく。滑らかでないとキーチャームにならないもんね!
どうですか、この(上写真)仕上がり! 波戸岬の近くにはイカで有名なまち、呼子(よぶこ)があるだけに、PLA PLAの体験プログラムでつくるキーチャームも“イカ型”。私的には、もうちょっと白が多いマーブル柄にしたかったのだが……赤が多く、出血中のイカみたいになってしまった。まあ、これはこれで大切にしよう。武内さんも「なかなかキレイじゃないですか〜」と慰め……いや、誉めてくれたし。
体験後は、玄海海中展望塔に立ち寄った。思っていたよりたくさんの魚たちに出会えた。それはそれで楽しかったのだが、これらちょっとおいしそうな魚の体内にも、マイクロプラスチックが入っていたりするのだろうか。考えさせられるPLA PLA体験となったのだった。
Photo & Text:舩川輝樹(FRaU編集長)
