ウクライナ戦争の構図が変わり始めた、ロシア深部を揺さぶる長距離ドローンによる「戦略攻撃」とプーチンの誤算

2026年2月13日、ドイツのドローン製造企業を訪問したウクライナのゼレンスキー大統領(写真:ロイター/アフロ)
ウクライナ戦争の構図が変わり始めている。
損害を顧みず突進するロシア侵攻軍を前に、ウクライナ軍が防戦一方に立たされているという従来のイメージは薄れつつある。航続距離300〜1000kmの長距離ドローンや、1000kmを超える超長距離ドローンを駆使したウクライナの反撃が、ロシアにボディーブローのような打撃を繰り返し与えているからだ。
前線の陣地争奪戦から、ロシアの継戦能力を削る戦いへ
もっとも、地上戦の主導権がウクライナに移ったわけではない。ロシア軍は東部ドネツク州の要衝コスチャンティニウカ周辺などで攻勢を続け、滑空爆弾やミサイル、ドローンによるウクライナ各都市への大規模攻撃も繰り返している。
一方、約1200kmに及ぶ前線では、双方が大量に投入するドローンによって部隊や車両の移動が制約され、大規模な突破は難しくなった。ロシア軍の進撃も全体として鈍化している。
兵力や通常戦力で劣るウクライナは、前線でロシア軍を正面から押し返すだけでなく、中・長距離ドローンで補給線や軍需施設、石油インフラをたたく「非対称戦」の比重を高めている。戦争の重心は、前線での陣地争奪戦から、相手国の後方と継戦能力を削る戦いへも広がりつつあるのだ。
ウクライナのドローン作戦はこれまで、航続距離300km以下の短・中距離機を使い、戦場やその周辺に展開するロシア軍の戦車・装甲車、艦艇、前線基地、砲兵陣地、地対空ミサイル(SAM)施設などを攻撃するのが中心だった。「戦術目標」、すなわち軍事装備や部隊、拠点など、比較的近距離にある敵が主な標的だったのである。
短・中距離ドローンによる攻撃は現在も極めて重要であり、むしろ以前よりはるかに多くの機体が投入されている。その一方で、ウクライナは2024年ごろから、ロシアの石油関連施設を破壊することを強く意識した空襲にも力を入れ始めた。
前線後方のエネルギー関連施設や物流・交通インフラ、通信網、軍需工場などは、その国の継戦能力を左右する重要な「戦略目標」である。戦争を続ける力はもちろん、軍隊への補給や装備の修理といった兵站(後方支援)を維持する上でも、欠かすことのできない施設や基盤だからだ。
敵国の継戦能力を支える産業・物流基盤を攻撃し、戦争遂行能力を低下させる手法は、「戦略爆撃」あるいは「戦略攻撃」と位置づけられる。第2次世界大戦中のB-29による日本空襲とは規模や手法、民間人被害の性質が大きく異なるものの、石油・軍需関連施設を破壊し、相手国の経済や物流に打撃を与えるという点では共通している。
歴史的な戦略爆撃では、こうして相手国の戦争遂行能力をそぎ、国民の戦争継続への意思を弱めることも狙いの一つとされてきた。
製油所から物流拠点まで、ロシアを揺さぶる「戦略爆撃」
戦略目標への攻撃が本格化したのが2024年である。それまで前線周辺のロシア軍部隊や装備を主な標的としてきたウクライナは、攻撃範囲をロシア領内の奥深くへと拡大。ウクライナの支配地域から500km以上離れ、前線から遠い「安全地帯」とみられていた製油所や油槽所などの石油関連施設を、相次いで狙うようになった。このため、2024年は製油所攻撃が本格化した年となった。
ドローン攻撃の対象となった石油関連施設は、2024年だけで数十カ所に上った。
ウクライナの支配地域から約850km北方にあるロシア第2の都市サンクトペテルブルクの石油ターミナルや、東方約1200km、ロシア連邦内のタタールスタン共和国ニジネカムスクにある大規模製油所などに対しても、すでに航続距離1000km前後の超長距離攻撃が、わずかながら実施されている。

2024年1月、ウクライナのドローンがロシア西部の石油貯蔵施設を攻撃し、大規模な火災が発生した(写真提供:Governor of Bryansk Region Alexander Bogomaz telegram channel AV BogomaZ/AP/アフロ)
石油関連施設を狙う攻撃は、2025年以降さらに加速した。2026年に入ると攻撃範囲はロシアのさらに内陸部へと拡大し、6月にはウクライナの前線から北東約1500kmのウラル山脈東方の西シベリアに位置するチュメニの石油関連施設、7月にはカザフスタンの首都アスタナにも比較的近いオムスクの製油所を相次いで攻撃。ウクライナから約2500km離れた目標にまで到達し、2000kmの大台を突破した。今や1000kmを超える攻撃も繰り返し確認されるようになった。

2026年7月、ウクライナはロシア最大級のオムスク製油所をドローン攻撃した(写真:ウクライナ国防省SNSより)
ロシア側が「ここまでは攻めてこない」と信じ、防空体制が手薄だった内陸部にも、ウクライナは攻撃範囲を広げている。ウラル山脈付近だけでなく、さらに東方の西シベリアに散在する石油関連施設までもが標的になり始めた。
ウクライナが仕掛ける「石油戦争」は、一定の成果を上げているようだ。ガソリンや軽油などを精製する製油所が相次いで操業停止に追い込まれ、燃料生産が激減している。
ロシアは2024年春にもガソリン輸出を一時禁止し、ベラルーシからの輸入を増やした。さらに2026年には製油所への攻撃が激化し、ガソリン生産量は季節的な平均需要の約65%相当にまで低下。各地で供給制限や給油待ちが発生し、政府は燃料輸出の禁止・制限を強化するなど、世界有数の産油国で異例の“石油ショック”が広がっている。
こうした状況が長期化すれば、戦車・装甲車や軍用機などに使用する軍用燃料の供給にも、深刻な影響が及ぶのは必至だろう。
さらに、鉄道と道路輸送が物流の中核を担うロシアでは、非電化区間やトラック輸送を中心に燃料不足の影響が広がり得る。燃料不足は物流の停滞に直結し、ロシア経済を大混乱に陥れかねない。
2026年7月以降、「ロシア版アマゾン」とも目される通販大手ワイルドベリーズの物流配送センターが、次々と狙い撃ちされている点にも注目すべきだ。
サンクトペテルブルクやモスクワ東郊のエレクトロスタリ、モスクワから約850km離れたサマラなど、ロシア西部にあるワイルドベリーズの物流センター十数カ所が攻撃を受けた。

2026年8月2日、ウクライナによるドローン攻撃を受け、損傷したワイルドベリーズの施設(写真提供:2026 Planet Labs PBC/ロイター/アフロ)
「一般市民の生活用品を扱う物流倉庫を攻撃するのは、無差別攻撃ではないのか」と疑問に思うかもしれない。しかし、ワイルドベリーズは、ロシアがドローンを国内生産する際に必要な部品や軍需物資の調達・配送業務も幅広く担っているとされ、ウクライナ側は軍事目標とみなしていた。
この結果、ロシアのネット通販は大混乱に陥った。ロシア国民は生活物資を入手しにくくなるという不便を強いられ、ネット通販を主要な販売ルートとしている中小企業にも、大きな打撃が及んでいる。
こうした国民の不満がプーチン政権の支持率低下や厭戦気分の高まりにつながることも、ゼレンスキー政権は期待しているようだ。まさしく戦略爆撃そのものといえる。

長引くウクライナ戦争にロシア国民の不満が募っている(プーチン大統領、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
航続距離2700km超、ロシア深部を狙う国産ドローンの実力
攻撃範囲をロシア内陸部へと急速に広げる原動力となっているのが、ウクライナが国産化を進めてきた長距離・超長距離自爆ドローンである。主力となっているのは、次の3種類だ。
【BARS RS】
ウクライナ企業が開発したターボジェット式の長距離攻撃ドローンで、22kg、60kg、105kgの弾頭を搭載できるとされる。22kgの弾頭を搭載した場合、航続距離は最大約1000km。巡航速度は約400〜450km/h、最大速度は約620km/hに達する。従来型の自爆ドローンを大きく上回る高速性能を備え、ドローンと巡航ミサイルの中間に位置する機体といえる。
【BARS SMグラディエーター】
弾頭重量は約50〜100kgで、航続距離は700〜800km。レシプロ・エンジンを搭載し、巡航速度は約250〜350km/hとされる。BARS RSに比べると速度は劣るものの、比較的安価で多数を投入しやすいのが特徴だ。
【FP-1】
ウクライナのファイア・ポイント社が開発、弾頭重量は60〜120kg。レシプロ・エンジンを搭載し、改良型の航続距離は最大2600kmに達するとされる。最新型では、最大3400kmまで延びたとの情報もあり、ウクライナの超長距離攻撃を支える主力機の一つとなっている。

2025年8月、ウクライナを代表する防衛関連企業「ファイア・ポイント」の施設で確認された、ウクライナ製の長距離ドローン(写真:AP/アフロ)
この3機種のほか、2024年に公開された「ペクロ(地獄)」と呼ばれるドローン型巡航ミサイルもある。弾頭重量は約50kg、航続距離は約700km。ジェットエンジンを搭載し、最大速度は約700km/hとされる。高速性能を生かし、敵の防空網を突破する役割を担う機体とみられる。
ウクライナが長距離ドローン攻撃を仕掛ける際には、数十機、時には100機を超える機体を一斉に投入する。多数の目標を同時に飛来させる「飽和攻撃」によってロシアの防空網に過大な負荷をかけ、すべての機体を迎撃することが困難な状況をつくり出すのである。
攻撃にはBARS RSやBARS-SM、FP-1など、速度や航続距離、搭載能力の異なる複数の機種が組み合わされることもある。比較的安価な機体を多数投入しながら、高速機や長射程機を織り交ぜることで、ロシア側の探知・迎撃を難しくしているとみられる。

2026年、ウクライナ国内の非公開の場所から戦闘任務のために発進するFP-1長距離攻撃用ドローン(写真:ロイター/アフロ)
GPS妨害をどう突破するのか、AIと地形照合が支える精密攻撃
これらの機体が2000kmを超える遠方の目標まで飛行し、なおかつピンポイントで攻撃できるのは、航続性能だけでなく、高度な誘導技術を備えているからだ。では、ロシアによる妨害電波をかいくぐりながら、どのようにして目標へ正確に到達しているのだろうか。
一般的な長距離攻撃ドローンでは、「INS+GPS+地形照合+映像認識+AI」といった複数の誘導技術を組み合わせているとみられる。ロシアによる強力なジャミング(妨害電波)や、GPSを装って虚偽の位置情報を送る「スプーフィング」の影響を抑え、目標まで正確に飛行するための仕組みだ。
INSとは「慣性航法システム」のことで、機体内部に内蔵されたジャイロスコープや加速度センサーなどから得られる数値を計算することで、GPSの電波が届かなくても自機の位置をかなり正確に把握できる。
短距離の飛行であれば、INSだけでも一定の精度を保てる。しかし、飛行距離が数百kmに及ぶと誤差が徐々に蓄積し、1000km先では目標から数百mずれる可能性もある。このため、飛行中は定期的にGPSを使って位置情報を修正しようとするが、前述したスプーフィングによって、誤った情報をつかまされる危険性もある。
そこで、速度、高度、気圧など、さまざまなセンサーが計測したデータを集約し、現在位置を総合的に判断する。仮にGPSから得た位置情報がスプーフィングによる偽情報だったとしても、「実際の飛行状況と比べて、位置情報があまりにもずれている」と瞬時に見破るのである。
このように、複数のセンサーから得た情報を総合的に分析する技術を「センサー・フュージョン」という。
誘導精度をさらに高めるために、「地形照合」と「映像認識」も用いられる。地形照合では、事前に入力された飛行経路周辺のデジタル3D地図データと、実際に計測した地形データを比較する。代表的な方式が、TERCOM(地形等高線照合)である。
一方、映像認識では、事前に入力された飛行経路周辺の地形画像や人工衛星の観測データと、機体のカメラが捉えた実際の映像とを照合し、目標への命中精度を高めている。
近年は、こうした誘導技術にAIを組み合わせる動きも進んでいる。外部のクラウドと通信しながら処理する方式では、ロシアのジャミングによって通信を妨害される恐れがある。このため、あらかじめ学習させたAIモデルを機体上の演算装置に搭載し、カメラが捉えた映像をその場で処理する仕組みが用いられているとみられる。
AIには、飛行経路周辺の景色や特徴的な地形、建造物、攻撃目標などの画像を事前に学習させておく。GPSやINS、地形照合に不具合が生じたり、位置情報の精度が低下したりしても、機体が周囲の映像から目標を識別し、自律的に攻撃を継続できるようにするためだ。
これらの技術を組み合わせ、飛行の最終段階で機体が自律的に目標を識別・追尾する仕組みは、「ターミナル・オートノミー(終末自律誘導)」と呼ばれる。この分野では、ウクライナと同国を支援する欧米が、ロシアを大きく上回る技術力を有している。
軍事大国ロシアが空襲される、侵攻が招いた歴史的ブーメラン
ウクライナは2026年、小型機を含めて年間700万機のドローン生産を目指している。
6月20日、ゼレンスキー氏はビデオメッセージで、ウクライナから2000km以上離れたロシア内陸部、西シベリアの石油関連施設をドローンで攻撃し、効果的な作戦だったと強調した。新たな機種が使用され、「3000km先の目標も狙える」とも付け加えた。
ウクライナの支配地域から約2700km離れたハンティ・マンシ自治管区のニジネヴァルトフスク近郊には、ロシア最大級のサモトロール油田がある。さらに、その近くにはメギオン油田も控えている。
約3500km先には、大規模な製油所を抱えるアチンスクもある。西シベリアはまさに油田や石油関連施設の主要な産油・精製地域である。ゼレンスキー氏の発言は、こうした拠点もウクライナの長距離攻撃能力の射程に入り得ることを意識したものとみられる。
世界有数の軍事大国であるロシアが、皮肉にも自ら侵攻したウクライナの反撃を受け、自国領の奥深くにある石油関連施設や物流拠点まで継続的に攻撃されている。その規模と目的を踏まえれば、もはや単発的なドローン攻撃ではなく、ロシアの継戦能力をそぐ「戦略爆撃」と呼ぶべき段階に入ったといえる。

2026年4月29日、ロシア・ペルミ地方で、ウクライナのドローンが石油ポンプ場を攻撃した後に立ち上る煙を捉えた衛星画像(写真提供:2026 Planet Labs PBC/ロイター/アフロ)
第2次世界大戦後も、戦略爆撃は、大国が戦争の主導権を握るための手段として繰り返されてきた。
米国は朝鮮戦争(1950〜1953年)で北朝鮮の都市や産業基盤を空爆し、ベトナム戦争では北ベトナムを対象とする、いわゆる「北爆」を展開した。湾岸戦争(1991年)でも、多国籍軍はイラクの防空網や指揮通信施設、軍需・交通インフラなどを集中的に攻撃している。
しかし、これらはいずれも、圧倒的な航空戦力を持つ大国が、軍事力で劣る相手国を攻撃したものだった。これに対し、国連安全保障理事会の常任理事国であり、世界有数の核戦力と防空能力を誇るロシアが、軍事力で劣るはずのウクライナによって、自国領の奥深くにある石油関連施設や物流拠点を継続的に攻撃されている。戦後史を見渡しても、極めて異例の事態である。
しかも、攻撃を仕掛けているのは、プーチン氏が短期間で屈服させられると見込んだはずのウクライナだ。侵攻の長期化により、ロシアは前線で人的・物的損失を重ねるだけでなく、国内の燃料供給や物流、経済活動にまで打撃を受けるようになった。
石油大国ロシアを襲う“石油危機”は、プーチン氏自身が招いた歴史的な失態であり、その代償は今後も長く尾を引きそうだ。

2026年3月、ウクライナがロシア北西部の石油施設を攻撃し、サンクトペテルブルクの空港で多数の欠便が発生。チェックインカウンター付近で待機する人々(写真:ロイター/アフロ)
筆者:深川 孝行
