《クマ目撃で夏祭りが中止に》千島列島の“白いヒグマ”に見える「熊の特異な生態」…「冬眠」と「交雑繁殖」で寒冷地にも急激な温暖化にも対応済み
日本全国で熊が出没し、多くの犠牲者が発生している。酷暑になれば熊もバテるかと思うのは大間違い。なかでも市街地に出没するクマ、いわゆる「アーバン熊(ベア)」が増えている──。
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7月23日夜には、宮城県仙台市・梅田川の河川敷に熊が出没。同地域周辺では最近熊の目撃が続いていることを受け、近くにある原町小学校で25日に開催予定だった夏祭りは中止となった。熊はいよいよ人々の生活圏に侵入し、命を脅かしている。
人間が熊の脅威に立ち向かうには、熊の特異な生態を知っておく必要があるだろう。肉食大型動物として熊はどのように生き残ってきたのか。その生態について、別冊宝島編集部編『アーバン熊の脅威』から、一部抜粋・再構成して紹介する。【前後編の前編】
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冬眠を行う唯一の大型動物
1990年頃まで熊は人間を恐れ、人里には出ようとしなかった。熊による被害は山菜やキノコ狩り、登山などで熊のテリトリーに人間が踏み込んだ場合にかぎられていた。
それがわずか25年、2015年頃には、まったく人間を恐れず、平然と人間の活動域へと進出する「アーバン熊」へと進化した。
短期間での劇的な変化は、実は熊の持つ特異な生態によって生まれたものなのだ。
まず動物行動学的に説明すれば、熊の生存戦略はきわめて異例なスタンスといっていい。「ライバルとなる大型肉食獣が存在しないような過酷な環境下にあえて進出し、巨体をなんとか維持することで生物の頂点に立つ」だからである。
その典型的な例が氷河に生息するホッキョクグマであり、笹(タケ類)を主食にしたジャイアントパンダだろう。パンダが生息する中国四川省からチベット・パキスタンにはバンブーラインと呼ばれる巨大なタケ類の群生地が広がる。発芽したばかりのタケノコを除き、笹や竹は食用に適さない。 パンダは笹を消化できるよう無理やり"進化"して、このエリアの頂点に立った。ホッキョクグマはいわずもがな、であろう。
日本に生息するツキノワグマもまた、過酷な山岳地帯に適応した種で3000メートル級の高山エリアで生息できる能力があり、ヒグマも永久凍土といった過酷な寒冷地帯に適応した種といえる(その一方で亜熱帯域にも対応できる)。
こうした「過酷な環境に適応する」ために熊は他の大型哺乳類とはまったく違う進化を遂げてきた。それが「冬眠」と「交雑繁殖」である。
熊が冬眠することは誰もが知っているだろう。だが、冬眠は基本的にリスやネズミ類といった小動物の持つ特性なのだ。小 動物は寒さに弱く溜め込む脂肪も少ない。それで冬眠する。逆に言えばツキノワグマは100キロ以上、ヒグマなど通常で300キロ、なかには1トンを超える個体までいる。分厚い脂肪と頑強な毛皮を持つ熊は、本来、冬眠する必要はないのだ。
ここに熊独特の生態がある。冬眠を出産戦略に組み込んでいるのだ。秋の収穫期にたっぷりと脂肪を蓄え、冬眠中に嬰児の状態で出産(育てるのは2頭)。眠ったまま嬰児に授乳することで冬ごもりが終わる頃には足腰のしっかりした「小熊」となる。秋に脂肪分が足りない場合、子育てができない環境状況だと判断し、受精卵を子宮に着床させずに流産させる。これで過酷な環境を生き抜いてきたわけだ。
別種と交尾して環境の変化に対応
生物としての熊の特異性は、現在8種類に分化したすべての種で交雑繁殖が可能という点にもある。交雑とはウマとロバの交雑で生まれる「ラバ」や近似種であるライオンとヒョウから生まれる 「レオポン」のように、生殖や出産は可能でも繁殖能力はなくなる。ところが熊は交雑しても繁殖能力を失わない。
環境が激変した場合、その環境にいち早く適応した種と繁殖し、遺伝子を取り込んで変化した環境に適応していくのだ。
2000年代以降、温暖化で餌となるアザラシが捕れなくなったホッキョクグマのメスは、逆に温暖化で餌が豊富となったグリズリー(ハイイログマ・ヒグマの亜種)と積極的に交尾をするようになった。2010年の段階で25%のホッキョクグマがヒグマとのハイブリッド種になったと報告されている。ハイブリッド種となった「黒いシロクマ」は肉食に特化してきたホッキョクグマでもグリズリー同様、雑食が可能になる。
逆に千島列島に生息するヒグマには、数百頭レベルで「白いヒグマ」が生まれているという。アメリカン・ブラックベアー(アメリカクロクマ)にも「白いクロクマ」が生まれることで知られている。これはアルピノ(メラニン色素の失調)ではなく、元から白毛の遺伝子があるのだ。氷河期時代に対応すべくヒグマやクロクマのメスはホッキョクグマと交尾して遺伝子を取り込んできたのだといわれている。
同様に本州のツキノワグマにもやはり数百頭レベルでヒグマ色である赤褐色の個体が誕生する。1万2000年前の氷河期時代、本州にもヒグマが生息しており、そこでヒグマの遺伝子を取り込んで寒冷化に対応してきたと推察されている。東南アジア域のツキノワグマには赤道直下に生息するマレーグマと交雑繁殖したグループが確認されており、急激な温暖化に対応する能力をすでに獲得しているようなのだ。
このように過酷な環境に適応できる能力を持つ熊だが、裏返せば、そんな環境でなければ生き残れなかったということでもある。実際、地中海近辺に生息していた熊は古代ローマ帝国の剣闘士対戦用に狩り尽くされて絶滅した。人間やライバル肉食獣と生息域が重なって生息域が奪われれば、呆気ないほど簡単に激減していくのだ。その証拠に世界中の生息地帯では大半の種がレッドリスト入りした絶滅危惧種となっている。例外は生息数が激増している令和時代の日本ぐらいなのだ。
積極的に人間を襲うようになった"アーバン熊"の"優秀な頭脳"の恐ろしさとは──。
(後編につづく)
取材・文/西本頑司
