【栫井駿介】新NISAで買った「NTT株」が上がらない…16期連続増配でも株価低迷、投資家の期待との”ギャップ”
新NISAをきっかけにNTT株を買ったものの、思うように株価が上がらず、不安を感じている人もいるでしょう。日経平均は上がり、16期連続増配を予定する最大手通信企業でありながら、なぜNTTの株価は冴えないのか。本記事では、その背景にある4つの理由を整理します。
「日経平均は上がっているのに…」という焦り
「日経平均は上がっているのに、私のNTT株は全然上がらない」――。そんなもどかしさを感じている投資家は少なくないでしょう。(原稿執筆時点)2026年7月9日の終値は149円。2026年の年初来高値161円を下回り、2024年初につけた高値圏からも距離を残しています。
しかもNTTは、誰もが知る最大手通信企業です。2026年度も増配を予定し、実現すれば16期連続となります。それでも株価が冴えないのは、なぜなのでしょうか。ここで見るべきは、会社が「よいか、悪いか」だけではありません。市場がNTTにどんな成長を期待し、その期待が現実とどうずれたのかです。
私は、NTTへの投資そのものが間違いだとは考えていません。ただ、安定企業であるNTTに、一時は成長株に近い期待まで集まりました。株価の低迷は、その期待と現実の業績との間に生じた差を埋める動きと考えられます。
なぜNTT株は、これほど個人投資家に人気なのか
NTTには、投資を始めたばかりの人が「これなら安心できそう」と感じる要素がそろっています。通信は生活に欠かせないインフラで、景気が悪化しても利用が急減しにくい事業です。「よく知っている会社だから」という親近感も、購入のハードルを下げます。
さらに、2023年7月には1株を25株にする大規模な株式分割を実施しました。単元株数は100株のため、分割後は2万円に満たない資金でも100株を買える場面が増えました。新NISAの開始を前に、投資を始めたばかりの人でも買いやすい銘柄になったのです。
株主還元も魅力です。NTTは2026年度に1株当たり年間5.4円の配当を予定し、実現すれば16期連続の増配となります。加えて、2026年5月には上限2,000億円の自己株式取得も発表しました。安定配当を重視する投資家にとって、候補に入りやすい銘柄であることは間違いありません。
そしてもう一つ、株価への期待を高めたのがIOWN構想です。光技術を軸に、通信容量の拡大、遅延の低減、消費電力の削減を目指す大きな構想であり、AI時代のインフラを担う可能性があります。この成長物語が、成熟した通信会社という従来のイメージを超える期待につながりました。
「安定企業なら、株価も上がる」とは言えない
NTTは2025年度に営業収益14兆4,091億円、営業利益1兆7,062億円、当期利益1兆370億円を計上しました。営業収益は過去最高で、前年度比では増収増益です。数字だけを見れば、経営が大きく悪化しているわけではありません。
一方、すでに14兆円を超える売上高を持つ会社が、全社利益を毎年2倍、3倍と伸ばすのは容易ではありません。通信事業は安定した収益を生む反面、市場が成熟しており、利用者数や料金を急激に増やすことも難しい事業です。
2026年度の会社予想では、営業収益は前年度比4.5%増の15兆600億円を見込む一方、営業利益は0.2%増の1兆7,100億円にとどまり、当期利益は5.5%減の9,800億円を見込んでいます。売上高は伸びても、利益の大幅な成長は見込みにくい。この点が、株価の上値を抑える一因になっています。
ここで押さえておきたいのは、「安定している会社」と「高い成長率が期待できる会社」は同じではない、という点です。NTTの事業が安定していることと、株価が短期間で大きく上昇することは別の話なのです。
通信量が増えるほど状況は苦しく
動画配信や生成AIの普及によって、通信ネットワークを流れるデータ量は増え続けています。通信会社は、基地局やネットワーク設備を増強し、品質を維持しなければなりません。顧客基盤の強化にも継続的な費用がかかります。
NTT自身も、後述する中期経営戦略を見直した理由として、既存の通信分野における顧客基盤の強化、トラフィック増大への対応、競争環境の厳しさを挙げています。通信量が増えれば、そのまま利益が増えるわけではありません。
むしろ、NTTの傘下企業であるドコモにおいては、トラフィックの増大が通信の逼迫を招き、顧客満足度の低下につながりかねない状況となっています。調査会社Opensignalの「モバイル・ネットワーク体感レポート」(2026年4月、測定期間は同年1〜3月)では、ネットワークの安定性を測る「一貫した品質」でドコモが4キャリア中最下位でした。
さらに、ドコモが先行して打ち出したオンライン専用プラン(ahamo)や楽天モバイル参入の影響により、携帯料金は上げづらい状況取っています。料金は低下する一方で、設備投資は行わなければならないというジレンマに、ドコモは陥ってしまっているのです。
ここで投資を減らせば通信品質や顧客満足度を損ないかねず、投資を増やせば短期利益が抑えられます。NTTはこの難しいバランスに向き合っています。
利益目標「3年延期」が与えた失望
投資家心理に大きく影響したのが、中期財務目標の見直しです。NTTはもともと、連結EBITDA4兆円を2027年度に達成する目標を掲げていました。しかし2026年5月、その達成時期を2030年度へ見直しました。
会社は、AIやデータセンターなどの成長分野では利益が拡大する一方、通信を中心とする既存分野が当初の想定を下回ったと説明しています。つまり、NTT自身が「利益を伸ばすには当初より時間がかかる」と示した格好です。目標を取り下げたわけではなくても、3年の延期は成長を期待していた投資家にとって失望材料になります。
株価は現在の利益だけでなく、将来どれだけ利益が増えるかを織り込みます。成長の実現に時間がかかると判断されれば、その分だけ現在の評価は抑えられます。NTT株の低迷には、こうした「成長期待の時間軸の修正」も表れています。
IOWNは「期待外れ」なのか
NTTを保有する投資家が期待を寄せる光情報通信ネットワーク構想である「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」も、現時点では、NTTの業績を押し上げる段階には至っていません。
では、IOWNは期待外れなのでしょうか。私は、そう判断するのは早いと考えています。NTTはすでに、光を中心に情報を伝えるAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)を使い、映像解析や遠隔操作、データセンター間接続などの実証を進めています。2026年度には主要都市間、2027年度には県庁所在地へ展開し、2030年には全国への面的な拡大を目指す計画です。
ただし、技術的に優れていることと、株主に帰属する利益を大きく増やすことは同じではありません。どの顧客が、どのサービスに、どの程度の料金を支払うのか。設備投資を上回る利益をいつ生み出せるのか。競合する技術や海外企業に対して優位性を維持できるのか。投資家が判断するには、まだ確認すべき点が多く残っています。
期待が先に株価へ反映された場合、実際の収益化に時間がかかるだけでも株価は調整します。IOWNはNTTの大きな可能性ですが、現時点では「現在の利益」よりも「将来の選択肢」として評価するのが妥当でしょう。
NTTが悪い会社になったわけではない
NTT株が冴えない理由は、会社が突然悪くなったからではありません。成熟した巨大企業で急成長しにくいこと、通信品質を守るための投資負担が増えていること、利益目標の達成時期が後ろ倒しになったこと、IOWNの収益化に時間がかかること。これらが重なり、市場の期待が修正されているのです。
むしろ問題は、安定配当を期待すべき銘柄に、大幅な利益成長と株価上昇まで同時に期待していなかったか、という点にあります。株価が上がらないことだけを見て失望する前に、NTTがどのような特徴を持つ会社なのかを理解する必要があります。
では、NTT株はこのまま持ち続けてよいのでしょうか。それとも、別の銘柄へ資金を移すべきなのでしょうか。後編記事〈新NISAで人気の「NTT株」、持ち続けて大丈夫か…投資判断を分ける"5つのチェックポイント"〉では、単純な「買い」「売り」の答えではなく、自分で投資判断を組み立てるための5つのチェックポイントを考えます。
栫井駿介
つばめ投資顧問代表、長期投資YouTuber。
1986年鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業、豪BOND大学MBA修了。大手証券会社に勤務した後、2016年、つばめ投資顧問設立。延べ2000名以上の個人投資家を相手に、堅実かつ実践的な長期投資のアドバイスを実施。YouTuberとしても活動し、登録者は20万人超。ひとりでも多くの人に長期投資のよさを広め、実践してもらうことを夢見て発信を続けている。 著書に『年率10%を達成する! プロの「株」勉強法』『1社15分で本質をつかむ プロの企業分析』(ともに、クロスメディア・パブリッシング)『買った株が急落してます!売った方がいいですか? 株で利益を出す人の考え方』(ダイヤモンド社)、共著として『株式VS不動産 投資するならどっち?』(筑摩書房)がある。

