「航宙母艦」など奇想天外な計画を大真面目に研究・推進…日本版DARPA「防衛イノベーション科学技術研究所」とは何か

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本家DARPAにはインターネットやステルス戦闘機の開発など華々しい実績がある。模して作られた組織では「防衛テック」の育成を目論むが……。

まるでスターウォーズ

政府の研究所で秘密裏に「航宙母艦」の研究が進められている。航空母艦ならぬ「航宙母艦」とは聞きなれない。

航宙機なるものが宇宙空間を飛び回り、目的を達したら航宙母艦に帰還するという構想である。「まるでスターウォーズのようですね」。筆者がそう尋ねると、担当の技官は苦笑してこう言った。

「名称だけが先行して広まってしまって……。人工衛星に近いものです。人工衛星の中に小さい人工衛星があるイメージです。そういうものが可能かどうか、まず調査研究している段階です」

こんな奇想天外な計画を大真面目に推進しているのが、防衛省の防衛イノベーション科学技術研究所である。東京の恵比寿ガーデンプレイス23階に'24年に開設されたばかりの研究所だ。米国の国防高等研究計画局(DARPA)を模して作られ、「日本版DARPA」と呼ばれている。

本家がそうであるように、防衛イノベ研もプログラムマネージャ(PM)という先端技術の目利き役を雇い、専門分野を有したPMが主導して、従来の発想ではできなかった「革新型ブレークスルー研究」を担う、という触れ込みである。発足当初には、信州大教授や東大准教授、千葉工大未来ロボット技術研究センター所長ら11人が集められた。

米DARPAはこうしたPMの手によってインターネットをはじめ、ステルス戦闘機、GPS、軍事用ドローンなどの開発を手掛けてきた。長らくヴェールに覆われた組織で、「ペンタゴンの頭脳」とも呼ばれる。防衛イノベ研はそれを参考にしたわけだ。

従来の装備では事態に対応しきれない

お堅い防衛省には似つかわしくないユニークな研究所ができたのは、中国の急速な台頭やロシアのウクライナ侵攻を踏まえ、自衛隊の護衛艦や戦闘機、戦車といった従来の装備では新たな事態に対応しきれないと考えられたからである。AIやロボット、サイバーセキュリティなどこれまで取り組みが不十分だった領域にウィングを広げる必要に迫られたのだ。

防衛装備庁の土本英樹長官(当時)は'22年10月、衆議院安全保障委員会で、AIや量子技術など民生の先端技術の動向を踏まえて「防衛省として将来の戦い方を変える画期的な装備品等を生み出す機能の強化」が重要と考え、「DARPAなどの事例も参考にする」旨、答弁している。

'23年5月の参議院外交防衛委員会では、いま高市早苗首相の補佐官を務める尾上定正・元航空自衛隊補給本部長が参考人として呼ばれ、「DARPAのような機関の新設も必要」と言及した。

こうした経緯をたどって防衛イノベ研が誕生した。米国では先端分野を研究する大学教授や大手企業の技術担当幹部らが内々に打診されて極秘裏にPMに就くケースが多いとされるが、我が国では防衛装備庁が毎年度のように公募している。選ばれたPMは2年以内の先導研究期間で基礎的な調査をし、次いで3年以内の本格研究をする。

先の航宙母艦のPMを務めるのは、熊本大の波多英寛助教だ。同大で「宇宙、衝撃、衝突、爆発をやっている」という宇宙衝撃工学研究室に携わり、熊大発ベンチャー企業の「空宙技研」を率いる。

波多氏に航宙母艦について取材を申し込むと「私の一存では話せない」と答え、代わりに防衛装備庁の技術振興調整官が「本格的な研究プログラムの着手に先立ち、PM独自のアイデアで技術的成立性、研究コンセプトを検証するものとして実施しました」と回答した。別の担当幹部の表現を借りると「まだ味見」をしている段階だという。

【後編を読む】「ペンタゴンの頭脳」のようになれるか…日本版DARPA「防衛イノベーション科学技術研究所」理想と現実

「週刊現代」2026年7月20日号より

【後編を読む】「ペンタゴンの頭脳」のようになれるか…日本版DARPA「防衛イノベーション科学技術研究所」理想と現実