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伝統を受け継いだグランツーリスモ

アストン マーティンが史上初のSUVを、『DBX』のネーミングを掲げて発表したのは2019年だった。個人的にはこの時、アストン マーティンまでもがSUV市場へと参入したことに対して、少なからず違和感を抱いたのは事実だ。

【画像】世界最強の内燃エンジンSUVスペック!アストン マーティン『DBX S』 全61枚

しかし、実際にドライブした瞬間、その考えには大きな変化が生まれた。DBXはSUVのスタイルを採用した、これまでのアストン マーティンの伝統を確かに受け継いだスポーツカーであり、GT(グランツーリスモ)であったからだ。


アストン マーティン史上初のSUV『DBX』に追加されたSモデル。    平井大介

メルセデスAMGから供給される3982ccのV型8気筒ツインターボエンジンを、550psの最高出力と700Nmの最大トルクで搭載することで始まったDBX。2022年には707ps、900Nmのスペックを誇る高性能版の『DBX 707』がラインナップに追加されているが、アストン マーティンはさらなる進化の可能性を残していた。

それこそがここで紹介する『DBX S』だ。早速その印象をレポートしていこう。

エクステリアで様々な差別化

基本的なシルエットこそDBX、あるいはDBX 707に共通するものの、最新作のDBX Sではエクステリアで様々な差別化を図っている。

ダークカラーでダブルベーンのオールメタルグリルが標準装備となるフロントは、オプションでグロスブラックのハニカム構造グリルを選択することも可能。試乗車には後者が組み合わされ、よりスポーティで力強いルックスが生まれることになった。


基本的なシルエットはベースモデルと共通だが、エクステリアで様々な差別化を図っている。    平井大介

サイドシルはボディサイドのエアフローをより最適化した専用デザイン。フロントフェンダー後部には『S』バッジがフィットされる。

リアセクションで『S』であることを主張するのは、4本出しのエキゾーストフィニッシャーと、こちらも新たにデザインされたディフューザーやロワウイングといったアイテム。

さらにルーフはグラスパネルが標準となるが、オプションではそれに対して18kgも軽量なカーボン製ルーフを選ぶこともできる。それが重心高の低下に大きく貢献することは言うまでもない。

コーナリング時の動きは極めてナチュラル

全長5039mm、全幅1998mm、全高1680mmというボディサイズを持ち、車両総重量では3000kgにも迫る数字がスペックシートに示されるDBX S。

搭載されるエンジンは、900Nmの最大トルクに変化はないものの、最高出力を727psにまで高めたもので、これは内燃エンジンのみを使用したSUVとしては世界最強の数字になる。これに組み合わせられるミッションは9速AT、駆動方式はアクティブセンターデフを備える4WDだ。


エンジンは900Nmの最大トルクに変化はないものの、最高出力を727psにまで高めた。    平井大介

オプションのカーボン製ルーフが装備されていたことも少なからず影響しているのだろう、実際にDBX Sをドライブして感じたのは、コーナリング時の動きが極めてナチュラルかつ安定していたことだった。

SUVのスタイルであるから当然ながらシートポジションはもちろん、重心高は決して低い位置にはないはずだが、ステアリングを切り込んでから発生するロールの大きさや速度が実に巧みにチューニングされている。

さらに前:後で47:53を基本設定として、ここからシチュエーションによっては100%の駆動力を後輪に伝達することができる4WDシステムの制御が、コーナリング時はもちろん、高速走行時でも絶対的なスタビリティを感じさせる大きな理由となっている。

どのドライブモードでもフラット感のある乗り心地

また、リアのデファレンシャルには電子制御のLSDも装備されているから、その走りはまさにスポーツカーそのものだ。

これもオプションとして装備されていた23インチ径のマグネシウム製ホイールは、どのようなシーンでもその重量を感じることはなく、サスペンションは常にナチュラルに、そしてどのドライブモードを選択してもフラット感のある乗り心地を演出してくれるのが嬉しい。


最高級の素材を用いたスポーティなキャビンは、まさにアストン マーティンの誇るべき世界だ。    平井大介

そしてこのDBX Sを評価するうえで忘れてはならないのが、SUVとしての機能性が十分に得られていることだ。

リアのラゲッジスペースは491Lの容量が確保されているから、一般的なSUVの使用パターンを考えるのならば必要にして十分と言えるだろう。もちろん後席を収納することでさらに拡大することが可能。そして最高級の素材を用いたスポーティなデザインのキャビンは、まさにアストン マーティンの誇るべき世界である。

0→100km/h加速で3.3秒、最高速では310km/hを主張するDBX S。Sモデルとしての進化、そしてその魅力は、今回同時に試乗したヴァンテージSをさらに超えたようにさえ思えた。

いったいアストンマーティンは、何というSUVを作り上げてくれたのか。その仕上がりには最大限の賛辞の言葉を贈るほかはない。