ANA 新・株主優待「ひどい」の声続々…最安運賃・LCCのみ対象で株主まで軽視せざるを得ない裏側

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波紋呼ぶANA新株主優待の裏事情

航空大手のANAは最近、スーパーフライヤーズカード(SFC)の制度変更や新たに導入した運賃体系などで、利用客の不満がくすぶっている。さらに、6月から新たに始まった株主向けの優待サービスに対しても、〈なんとなく貧相〉〈株主まで軽視しているのか〉といったやや厳しめの声が上がっている。

日本を代表し、世界でも高評価を得ているレガシーキャリアのANAが、なぜ株主への還元やステイタス特典まで相次いで絞るのだろうか。SFC騒動に続いて話題となった株主優待変更の実態から、航空業界が直面する株を取り巻く現状や、シビアな客層選別の裏側について、株事情に詳しい専門家の見方を交えながら考察する。

上客は対象外? 格安運賃・LCC限定の謎

先月、ANAは’26年度上期分(’26年6月1日〜11月30日)の株主優待内容を発表した。主な内容は以下の通りである。

・国内線「株主優待割引」、基準運賃から50%割引き※株主優待番号1つにつき片道1区間

・国内線、エコノミークラス「シンプル」運賃(事前座席指定が出発の24時間前までできない最低価格帯の運賃)5%割引き

・Peach国際線、搭乗時4000円割引き※日本発、期間限定

・国内・海外ツアーを10%相当割引き(これまで2〜5%)

このうち、下3つが今回からの新サービスである。その他にも株主向け特別ツアーや通信販売の優待、IHG・ANA・ホテルズグループジャパン優待(宿泊20%割引き、飲食10%割引き)などが用意されている。

ここで話題を呼んだのが、’26年5月19日から導入された国内線「シンプル」運賃への対応だ。ダイヤモンド会員でさえ事前座席指定ができないこの運賃だが、株主向けにはたった5%しか割り引きされず、しかも他の運賃は対象外なのだ。また、Peachの割引も国際線かつ日本発のみに限定され、肝心のANA国際線は対象外となったことで、〈いろいろケチくさい〉という声が上がっている。

先のSFC改定で《ANAカードおよびANA Payで年間決済額300万円以上》をラウンジ利用の条件にした発表は記憶に新しい。今回の優待も、ビジネス客や国内線ファーストクラスなど上級クラスの乗客が利用する運賃や、ANA国際線などは対象外とされた。そのため、普段からANAに多くお金を落とす、いわゆる「優良客」への冷遇ともとれる。

JALは手堅い株主還元で独自色へ

一方、JALの’26年度上半期(’26年6月1日〜11月30日)における株主向けの主な優待は以下の通りである。

・国内線「株主優待割引」、基準運賃から50%割引き ※株主優待番号1つにつき片道1区間

・旅行商品割引(海外3%・8%、国内3%)

このほか、株主向け限定イベントへの応募や、ホテルニッコー&JALシティでの優待(宿泊15%割引き)などがある。JALの優待は従来の内容から大きな変更はなく、実質的に現状維持であった。燃油高などで厳しい昨今の情勢を踏まえれば、無用な変更を避けたことでANAのようにネット上で炎上せずに済んだといえそうだ。

さらにJALは近年、新たな株主還元策も打ち出している。従来の保有株式数に応じたベースのポイント付与に加え、500株以上を保有し、かつ議決権を行使(株主総会で会社の議案に対して賛否の意思表示をすること。会社側は経営を安定させるため、多くの株主に賛同してほしい狙いがある)した株主に対する「Life Status ポイント(LSP)」積算制度を拡充。行使回数に応じた追加のボーナスポイントを付与する仕組みを導入した。

加えて、9月末基準日からは100株以上の保有で一定条件を満たした株主に、航空券購入などに使える「eJALポイント」を年1回最大3000ポイント付与する新特典も開始した。

なお、日系航空会社の株主優待では「国内線の運賃が半額になる」が定番であり、これは引き続き両社に存在する。だが、〈便ごとの設定枠が少ない〉〈セールのほうが安い〉など、以前と比べて株主優待運賃の利用価値が小さくなっているのが実情である。金券ショップなどに売却する人もいるが、買い取り価格が時期によって1枚につき数十円〜数百円といった”紙くず同然”になることも珍しくない。

プロが斬る! 両社の投資価値の差

ANAとJALが発表した新たな株主優待の内容を踏まえ、両社の「株」としての価値はどの程度あるのか。証券会社出身のマネージャーナリスト・松岡賢治氏に聞いた。

「企業価値を表す指標として分かりやすいのが株式の時価総額です。6月5日時点、ANAは約1.38兆円、JALは約1.17兆円となっており、ANAのほうが2割ほど高くなっていますが、それほど大きな差ではありません。両社の企業価値はほぼ同じ、と言っていいと思います」(松岡氏/以下同)

業績の数字を細かく見ると、売上高や営業利益、純利益といった金額ベースではJALよりANAのほうが上である。一方、営業利益率などはJALのほうが高い。この傾向は、10年以上前から現在まで基本的には継続しているという。

「売上規模のANAに対して経営効率のJAL、という見方もできますが、あえて言えばという程度で、株式投資の対象としてみた場合、明確な差異は見出しにくい。実際、代表的な株価指標であるPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)も、ほぼ同じ水準です。これは、株式市場が両社を投資対象として、大した優劣がないと捉えているわけです」

航空株の急所は「海外旅行離れ」

足元の業績は好調である。’26年3月期は両社いずれも過去最高益となった。ただし、’27年3月期は原油価格の高騰を受け、ANAが減益予想としたのに対し、JALは従来予想を据え置いている。このように業績予想で明暗は分かれたものの、株価への影響はほとんど見られなかった。

「ここ数年は、インバウンド(訪日外国人)需要の増加が寄与し、今後も堅調な推移が期待できます。しかし、それ以降の成長性となるとあまり期待できません。日本人の海外旅行であるアウトバウンドの需要が伸びないのではないか、という懸念があるからです」

松岡氏曰く、「航空会社は結局、日本人のアウトバウンド次第」なのだという。国際線のほうが座席あたりの単価や利益率は圧倒的に高く、航空会社にとってメインの収益源となる。特に日本の場合、国内線は輸送人員こそ多いものの、新幹線などとの競合で価格競争が激しく利益率は低い。

「日本のアウトバウンドは、いまだにコロナ前の水準を大きく下回っています。中長期的にも、円安が続く限り海外旅行は低調でしょうし、比較的裕福な高齢者も減少していきます。アウトバウンド需要が高まる要因が見当たりません。前述したPBRが1倍前後というのは、そうした成長力の乏しさを市場が感じ取っている証拠ではないでしょうか」

PBRが1倍というのは、会社の資産と株価が等しい状態である。つまり、企業としての収益力や成長力が株価にまったく反映されていないことになる。明らかな資産を有する航空会社としては、例えば米国の航空会社と比較しても極端に低いという。

「株価の割安度が上がれば”買い”も入るでしょうが、基本的には、市場平均並みの上昇率が続くと思われます」

今、あえて航空株を持ち続ける訳

すでに航空会社の株を保有している人は、このまま保有し続けるか、手放すべきか迷うかもしれない。ANAは’27年3月期から中間配当を実施することを決めているが、これに関しても株価はほぼ反応していないという。

「結局のところ、年間の合計配当金が増えないと、2回に分けるだけでは意味がありません。企業がその期に稼いだ純利益の中から、どれだけの割合を配当金として株主に還元しているかを示す指標である『配当性向』を上げる、といったアナウンスも聞こえてきません。しかも来期は減益見込みを発表済み。これでは株主還元策が弱いだけでなく、株主へのメッセージも見えてこず、サービスの”改悪”だけが悪目立ちしても仕方がありません」

一方のJALは、株価はANAより低いものの、配当利回りが高い分だけ「まだマシではないか」とのことである。

「ANAやJALの株を個別に買っている人たちは、実家に帰る際にメリットがあるとか、旅行が好き、飛行機が好き、空港が好きだとか、そういう理由かもしれませんね。あとは、株主優待運賃などの特典を、きちんと毎年使う人とか」

上客も削る? シビアな航空事情

これまで航空会社は、飛行機に乗ってマイルを貯めたり、上級会員になるために年間かなり搭乗(マイル修行)したりするようなコアなファンに支えられてきた側面がある。

だが、ANAとJALが今年に入り発表した「中期経営戦略」「中期経営計画」を見ると、様相が異なる。例えばANAホールディングスは、”「人とモノのつながりの拡大」 と「ファン層の拡大」により、経済的価値と社会的価値を創出し、グループ経営ビジョン「ワクワクで満たされる世界を」実現します”といったスローガンばかりが目につくという。

「中期経営計画の成長投資を見ても、”『デジタル』と『人の力』で価値創出を最大化します”などに止まっています。今まで蓄積していたデータをAIで活用するなどは魅力的にも見えますが、他の業種、楽天やドコモなどのほうがそういったデータははるかに持っていますし、今となっては目新しい施策とは言えません。数字などの具体性に乏しく、株を買いたくなるという要素はなかったです」

昨今のSFC改定や直近での株主向け優待特典の変更を見ても分かる通り、現在は「お金を落とすコアなファンの取り込み戦略」すら削らざるを得ない厳しい状況となっているのだ。 結局のところ、航空会社の株主優待が改悪と感じるのは、他の業種と比べて今後の成長が見込まれるといった将来性の魅力がないことに尽きるのだろう。

折しも6月末にはANAの定時株主総会が開催される。相次ぐ”改悪”の余波が広がるなか、会社の姿勢に対して株主たちからどのような厳しい反応が飛び出すのか、その動向が大いに気になるところである。

▼松岡賢治マネーライター、ファイナンシャルプランナー/証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資1年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる! キャッシュレス決済で絶対得する本』。

取材・文・写真:シカマアキ