井端弘和監督

写真拡大

【全2回(前編/後編)の前編】

 3月5日に開幕したWBC。井端弘和監督率いる侍ジャパンは、連戦連勝で1次ラウンドプールCの1位通過を決めた。そんな井端監督が今注目する逸材とは……。

 井端監督が語った野球観や野球界への提言を、スポーツライターの西尾典文が聞き手としてまとめた『日本野球の現在地、そして未来』(東京ニュース通信社)より、一部を再編集して紹介する。

 ***

【写真を見る】井端監督が「すでに源田の次くらいに上手い」と評価する逸材とは?

4人の大学生

 プロ野球のキャンプ真っ盛りの2024年2月14日、『カーネクスト侍ジャパンシリーズ2024日本VS欧州代表』に出場する侍ジャパントップチームの28選手が発表された。そんな中でも最大のトピックと言えるのは、金丸夢斗(関西大・投手)、中村優斗(愛知工業大・投手)、宗山塁(明治大・内野手)、西川史礁(みしょう)(青山学院大・外野手)という4人もの大学生が選出されたことではないだろうか。11年10月に代表チームの呼称が侍ジャパンに統一されて以降に限ると、13年11月に行われた台湾との強化試合では、その年のドラフトで広島から1位指名を受けた九州共立大4年の大瀬良大地、日本ハムから3位指名を受けた明治大4年の岡大海(現・ロッテ)が参加したことがあったが、ドラフト指名前のアマチュア選手がトップチームに選ばれることは今回が初めてである。しかも4人もの選手を招集しているところに、代表チームの将来を重視した井端らしさがよく表れていると言えるだろう。代表選手を発表する記者会見では、「(4人の大学生は)今年のドラフト会議で間違いなく指名される選手です。プロ入り後すぐにトップチームに入ってくることができるポテンシャルは持っているので、学生時代に侍ジャパンのユニホームを着る経験が大事だと思いました」と話している。また選ばれた4人も今回の代表選出について以下のようなコメントを残している。

井端弘和監督

金丸夢斗「憧れであった侍ジャパンに選出され大変光栄に思います。自分の最大の持ち味であるストレートで勝負し、勝利に貢献できるように頑張ります」

中村優斗「侍ジャパントップチームに選出され大変光栄に思います。このお話を頂いた時には非常に驚きましたが、今は身の引き締まる思いです。持ち味であるストレートを生かしチームに貢献できるよう精一杯頑張ります」

宗山塁「この度、侍ジャパン日本代表チームに選出していただきとても光栄です。走攻守バランス良く、勝負強さを発揮してチームに貢献したいと思います。高いレベルの選手達の中で一つでも多く良いものを吸収できるよう、学生らしく泥臭く頑張っていきます」

西川史礁「まずは侍ジャパンに選出していただき、非常に嬉しく思っています。自分のアピールしたい点は長打力と肩の強さです。大学生らしくチームの力になれるよう全力で頑張ります」

 4人が代表チームに選ばれてからは、あらゆる媒体でその特徴を紹介する記事も出ていたが、プロ野球ファンでも実際にそのプレーを見たことがある人は少数だろう。実は24年1月に井端から話を聞いた時点でも、この4人については既に代表チーム入りが内々定している状態であり、井端が評価するポイントも聞くことができたため、その時の話を踏まえながら、4人の逸材の注目ポイントについて紹介したいと思う。

1年生とは思えないプレー

 まず4人の中でも井端が最も早くから注目していた選手が、自身と同じショートである宗山塁だ。宗山は、井端がNTT東日本にスカウトした池本真人と同じ広陵高校の出身であり、2年春にはセカンドのレギュラーとして選抜高校野球にも出場している。ちなみに筆者が初めて宗山のプレーを見たのは1年秋に出場した明治神宮大会でのことだった。チームは星稜のエースである奥山恭伸(現・ヤクルト)の前にわずか3安打に抑え込まれ、投手陣も失点を重ねて7回コールド、0対9で大敗を喫している。しかしそんな中で3番、セカンドで出場した宗山は、1回の第一打席で奥川の投じた初球の149キロのストレートをとらえてライト前ヒットを放つなど2安打をマークし、当時からミート力の高さは際立っていた。

 広陵高校を卒業した後は、東京六大学の明治大に進学。全国から有望な選手が揃うチームの中でも、1年春のシーズン途中からレギュラーに定着している。井端が宗山に注目したのも大学1年生の時であり、井端のYouTubeチャンネルである『イバTV』でも 22年6月に公開された動画で、大学4年生のドラフト候補と並んで早くも、注目選手として当時2年生だった宗山の名前を挙げている。またスポーツナビのYouTubeで定期的に配信している『井端・西尾ドラフト対談』(24年は『赤星・西尾ドラフト対談』として継続)でも、23年5月の時点で「来年のドラフト1位は確実」と語っていた。では井端は宗山のどんな部分を高く評価しているのだろうか。

井端「NTT東日本とのオープン戦で見たのが最初でしたけど、まず雰囲気が良かったで
すよね。誰よりも落ち着いてプレーしているように見えたので、あれは何年生だろうと思って調べたら、『1年生!?』と驚いたのを覚えています。もうその時点で、大学を卒業した後は社会人じゃなくてプロだなと思いました。大学日本代表の合宿にも臨時コーチで行かせてもらって、間近でじっくり見て、どこか守備で悪いところないかなと思って探したんですけど、なかったですね。どんな打球にも“二の足〞だけじゃなくて“三の足〞くらいまで出ます。現役のプロ野球選手と比べても、既に源田の次くらいに上手いと思いますね。下級生の頃はコロナ禍もあって、ちょっと練習量も少なかったのか、体が絞れていなかったみたいなんですけど、3年生になる時に1回絞ったという話も聞きました。そこからまた筋肉をつけていこうとしていると。自分が大学生の時はとてもじゃないですけど、そんなことまで考えていなかったです。そういうところもプロ向きですよね」

「これで満足してもらっては困る」

 井端の高い評価を裏付けるように、宗山は大学球界を代表する選手に成長。2年春には首位打者を獲得して早くも大学日本代表入りを果たし、その後も厳しいマークの中でも結果を残し続けて、3年秋のシーズン終了時点で通算94安打、8本塁打、打率・348という圧倒的な数字をマークしている。24年のドラフト戦線でも最注目の選手であり、NPB球団の年初のスカウト会議でも必ずその名前が挙がるまでの存在となった。ただ、それだけの注目選手になったからこそ、さらなるレベルアップを目指してもらいたいと井端は語る。

井端「下級生の頃からずっと活躍していますし、本人にとっては大学日本代表に選ばれても当然という感覚で、ちょっと刺激がなくなってきていると思います。大学生の4年間は長いので、早くから活躍している選手はどうしても上級生になると気が緩んで、それがプレーに出てしまうこともあります。だから宗山には12月の大学日本代表候補合宿に行った時に、3月のトップチームのメンバーに呼ぶつもりだからということは伝えました。今でもプロの中で十分できるだけの力はあると思いますけど、そこで満足してもらっていては困りますからね。高いレベルの選手と一緒にやって、もっと上を目指してもらいたいです」

 24年3月のトップチームに選ばれた選手の中には、現在の日本球界でトップクラスのショートである源田も含まれており、年齢が近い小園海斗(広島)、紅林弘太郎(オリックス)の名前もある。彼らとともにプレーする中で、宗山が多くの学びを得て、さらなるスケールアップを果たしてくれることを期待したい。

無名の存在

 24年のドラフト戦線における野手の目玉が宗山だとすれば、投手の目玉と見られているのが金丸夢斗だ。高校時代は兵庫県の神港橘高校でプレーしていたが、甲子園や近畿大会などの出場経験はなく、3年時はコロナ禍で公式戦がことごとく中止になったこともあって、全国的には無名の存在だった。卒業後は高校(当時の校名は市立神港)の先輩にあたる山口高志(元・阪急)がアドバイザーを務めている関西大へ進学。1年秋にリーグ戦デビューを果たすと、2年春には早くもリーグトップとなる防御率0.33という圧倒的な数字を残している。この頃から関西の野球関係者から金丸の名前がよく聞かれるようになった。

 そんな金丸の存在を井端が知ったのは偶然の出来事だったという。関西大が所属している関西学生リーグは22年秋からCS放送の『スカパー!』で中継が行われることになり、その解説として井端が呼ばれた時に見たのが最初だった。

井端「プレーボールがかかると、関西大のキャッチャーが左バッターの内角高めに構えたんですね。左ピッチャーが狙って投げるのは難しいコースなので、いきなりそこに構えるかと思って見ていたら、149キロのストレートがそこに来て驚きましたね。こんなピッチャーがいるのかと。この初球のストレートで、バッターは完全に踏み込めなくなって勝負ありでした。実況のアナウンサーにいろいろ聞かれたんですけど、どんな経歴のピッチャーなのか手元の資料を調べるのに必死で、耳に入ってこなかったです(笑)」

「良い時のボールはもっと力がある」

 金丸は2年秋のこのシーズン、6勝0敗という見事な成績を残してチームの優勝に大きく貢献。MVPと最優秀投手のタイトルも獲得している。金丸自身にとって初の全国の舞台となった同年の明治神宮大会でも、強豪の東農大北海道オホーツクを相手に、7回を投げて被安打4、1失点、自責点0、8奪三振で勝利投手となった。

 金丸の勢いはその後もとどまることを知らず、3年春もシーズン終盤に右ひざを痛めて優勝は逃したものの、負けなしの3勝0敗。3年秋は登板した6試合全てで勝利投手となり、うち5試合で二桁奪三振という圧巻の投球でチームを優勝に導いた。3年秋までの通算成績を見てみると19勝2敗、防御率1・07という驚きの数字となっている。関西学生リーグは全国でも上位のレベルを誇り、その中でこれだけの成績を残せるというのは尋常ではない。最速153キロという数字が報道されることが多いが、本格派サウスポーでありながらコントロールも抜群で、1試合あたりの四死球の数が2個以下というのも高い評価に繋がっている。23年12月の大学日本代表候補合宿での紅白戦で、宗山と直接対決した時も、150キロ前後のストレートで三球三振に抑えて見せた。即戦力の投手が欲しい球団にとっては、まさに垂涎の存在と言えるだろう。そんな金丸に対しても、井端からは期待しているからこそ高い注文を求める言葉が聞かれた。

井端「2年の時に初めて見てから順調に成長しているのは嬉しいですね。一球見ただけでこれは凄いと言葉が出てこなかったのは、解説をしていても初めてでしたから。ただ12月の大学日本代表候補合宿の時はだいぶ流して投げていましたよね。宗山の打席は力を入れていましたけど、良い時のボールはもっと力があるはずです。実績も十分でアピールする必要がないということはありますが、大学生を抑えて満足してもらっては困るピッチャーだと思います。プロでも同じ年齢で、既に一軍で活躍している選手もいるわけですから。3月にそういう投手のピッチングを見るのもいい刺激になりますよね。コンディション的に問題なければ、欧州代表との2試合目で先発を任せたいと思っています」

 23年12月の代表合宿の紅白戦後に、筆者も金丸から話を聞くことができたが、リーグ戦でフル回転した疲れもあってか、本来の調子ではなかったと話していた。プロの長いシーズンを戦うためには、さらに高いレベルでのコンディショニング能力が求められることになるだろう。また井端の話すように欧州代表戦のメンバーには、金丸と同学年で、昨年パ・リーグの新人王に輝いた山下舜平大(オリックス)、アジアプロ野球チャンピオンシップで好投を見せた根本悠楓(日本ハム)の2人も選ばれている。先にプロの舞台で結果を残している彼らからも多くを学び、金丸がさらに凄みを増すことも期待できそうだ。

 ***

 金丸は今回のWBCで代表入りを果たし、チェコ戦で圧巻のデビューを飾った。今後の活躍に期待できそうだ。

※本記事は、井端弘和・西尾典文著『日本野球の現在地、そして未来』(東京ニュース通信社)の一部を再編集して作成したものです。

【後編】では、井端監督が見る西川と中村について詳述する。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABB-lab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部